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点滴インフルエンザ治療薬「ラピアクタ」を再度考える [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はインフルエンザの治療薬の話です。

ラピアクタ(一般名ペラミヴィル)という、
インフルエンザの治療薬があります。
タミフルは飲み薬で、
イナビルとリレンザは吸入薬ですが、
このラピアクタは点滴で使用する薬です。

いずれの薬剤も、
ノイラミニダーゼ阻害剤という区分になり、
細胞の中で増殖したウイルスが、
細胞の外に出るのを妨害し、
ウイルスの増殖を抑えるメカニズムの薬です。

このラピアクタは2009年の新型インフルエンザ流行時に、
アメリカで緊急にその使用が認められ、
それに慌てた厚労省は、
2010年の1月に、
この薬を緊急で、
通常の手続きを殆どすっ飛ばして、
承認し発売されました。

問題はアメリカの使用が期間を限定しての、
緊急措置であったのに対して、
日本の場合は通常の発売であったことです。

実はアメリカでは現在、
ラピアクタは発売されていません。

緊急使用の期間は過ぎ、
現在はⅢ相の臨床試験の段階に入っています。
つまり、アメリカでこの薬を使用するには、
臨床試験に登録するしかありません。

臨床試験の概要を見てみると、
年齢は12歳以上でインフルエンザが重症化した方です。

このうち、12歳から17歳までの患者さんには、
10mg/kg という量が使用され、
18歳以上の患者さんには、
600mg が使用され、
その量を1日に1回、
5日間点滴する、とされています。

これが概ね今後アメリカで採用された場合に、
使用される薬剤量と考えられます。

一方で日本では、
2010年の1月に一般に発売がされ、
インフルエンザの患者さんであれば、
特別の使用の制限は設けられてはいません。

つまり、誰に使っても良いのです。

その使用量は300mgを1回のみで、
重症では600mgが1回量となり、
必要に応じて複数回の投与も可、
とされています。

前にも書きましたが、
一体どう使えば良いのか、
はなはだ曖昧な表現です。

発売の同月に日本感染症学会が、
抗インフルエンザ薬適正使用の提言を出し、
それによると、
今は供給量が少ない可能性が高いので、
その使用は重症の事例に留めるべきである、
というニュアンスが書かれ、
重症の事例では600mgの使用を繰り返すのが妥当だが、
その根拠は乏しい、というニュアンスの記載もあります。

これは限定的な指針で、
改定がなされる予定と書かれていますが、
現時点でサイトを確認した限り、
改訂版が作られた形跡はないようです。

そして、2010年の10月には、
小児の適応が追加されています。

これは年齢に関わらず、
10mg/kg の使用を認め、
かつ場合によっては複数回投与も可能、
となっています。

しかし、小児を対象としたしっかりとした臨床試験は、
実際には行なわれておらず、
新型インフルエンザの流行期に、
緊急使用した小児の事例を、
まとめたものだけが、
その拠り所のデータとなっています。

この薬は日本以外で韓国でも、
その承認がされているようですが、
その実際は情報がないので分かりません。

しかし、日本でのみ大量に使用されていることは、
ほぼ間違いのない事実で、
特に小児の使用に関しては、
非常に限定されたデータしか、
存在しないのが実状です。

この薬はある意味、
現在壮大な臨床試験を、
日本の実際の保険診療の形式で、
行なっているようなものです。

勿論安全で素晴らしい効果の薬剤かも知れません。
しかし、その安全性の検証は、
他の承認された薬剤の、
数分の一もされてはいないのが実際なのです。

今の所深刻な副作用の報告がないのは、
本当に幸いですが、
アメリカのⅢ相試験の結果も、
注視しつつ今後の状況を見定めたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 10

hiiragiyama

興味深いです。
門前の病院では使用していないため、まだ目にしたこともなく、薬について調べてもいませんでした。
by hiiragiyama (2011-02-16 23:48) 

fujiki

hiiragiyama さんへ
コメントありがとうございます。
沢山使われる先生と、
そうでない先生に、
2分しているのが現状かも知れません。
by fujiki (2011-02-17 08:26) 

ミムラ

初めまして、ラピアクタについて調べていてコチラにたどり着きました。記事を興味深く読ませて頂きました。
ラピアクタについて、あまり良い印象がないように見受けられますが、1年経った今でも変わりはないでしょうか?
息子(3歳)が今週始めに熱性痙攣を1日に2回起こし入院となりまして、熱を下げるのにラピアクタの点滴を2日間行いました。
3日目からはタミフルの処方が出て、処方通りに飲ませています。
半分は吐いたりして、服用できてない感じですが・・・。

コチラの記事を読んでとても不安になりました。
現時点で、何も症状が出てなければ副作用は気にしなくてもいいのでしょうか?
また、処方通りにタミフルは飲ませた方が良いでしょうか。
よろしかったらご意見をお聞かせください。
by ミムラ (2012-02-09 15:44) 

fujiki

ミムラさんへ
僕の記事でご不安をお感じになったとすれば、
大変申し訳ありませんでした。
ラピアクタは日本と韓国でのみ、
先行的に使用されている薬剤であり、
その評価はまだ未知数の部分があると思いますが、
決してリスクの高い薬、という認識ではありません。
主治医の先生は必要性があって、
使用されたのだと思いますので、
ご心配はされないで下さい。
3歳のお子さんの場合、
確実に薬剤の効果を期待する時には、
点滴の製剤の方が確実性はあると思います。
タミフルも処方通りに飲んで頂くのが良いと思います。
ただ、吐き気が強く生じるようであれば、
主治医の先生にその旨ご相談されるのが良いと思います。
お子さんの早い回復をお祈りしています。
by fujiki (2012-02-09 22:40) 

ミムラ

丁寧なお返事をありがとうございました。
アドバイスをありがとうございます。
息子はすっかり元気になりました。
知識として知っているのと、知らないのとでは
まったく受け止め方も変わってきますし、とても勉強になりました。ありがとうございました。

by ミムラ (2012-02-15 16:19) 

haru

はじめまして、先日5才の子供がインフルエンザA型と言われ、
ラピアクタの点滴をされたのですが、効果がみられず、40度近い
熱がその翌日もあったため再度受診したところ、2 日に渡りラピアクタの点滴と脱水症状もでているとのことでその点滴もされたのですが、やっぱり効果はあまりなくそれから2日たっても38度の熱が出てる状態です。
さらに昨夜の夜中より舌の痛みを訴えており、何もたべれなくなってしまいました。
休みだったこともあり、休日当番の病院へ行ってみたところ、舌炎になっているとのことでした。
その病院で、再度インフルエンザの検査をしたところ陰性でした。
ラピアクタの点滴はほとんど臨床検査はされてないと聞いて、
舌炎は副作用ではないかと思ったのですが、先生はどう思われる
でしょうか?



by haru (2013-01-14 15:41) 

fujiki

haru さんへ
お子さんご心配なことと思います。
舌炎のみでしたら、
副作用であるかどうかは、
何とも言えないと思います。
ただ、稀に粘膜に生じる薬疹がありますので、
口の中の炎症が強くならないかどうかと、
目の充血や皮膚の湿疹などが出ないかどうか、
注意は必要と思います。
また、口内炎を伴うような感染症の可能性も、
ないとは言えないと思います。
インフルエンザであるとすれば、
もう熱は下がって来て良いと思いますので、
明日はもう一度病院を受診され、
よくお話を聞いて頂くのが良いように思います。

by fujiki (2013-01-14 17:13) 

haru

丁寧な返答ありがとうございました。
先生がおっしゃったように体全体の皮膚にも症状があらわれて
アトピーのようになってしまいました。
熱は昨日やっと37度台になり、食事も摂れるようになりました。
かかりつけの耳鼻科と一緒に内科があるからと、
小児科ではない内科へ安易にかかったのが間違いでした。
皮膚のほうも炎症止めの点滴と皮膚科からの塗り薬で
なんとか快方へむかっており、
安心したところです。
薬害ってほんとに恐ろしいと思いました。

by haru (2013-01-17 22:38) 

kuma

感染症学会の指針等委員のconflict of interestの開示もなく、おっしゃるように根拠に乏しいことを提言とするなどはなはだ????であります。
点滴のメリットはあるようなのでそれ以外必要がなければ結果が判然とするまでは使用しないというのが懸命な判断と思われます。
 ほかに代替がないならとは思いますが、、
by kuma (2013-03-08 11:16) 

fujiki

kumaさんへ
コメントありがとうございます。
現状明確にリレンザやタミフルより、
ラピアクタに優位性がある、
というデータは存在しないと思います。
今シーズンは3例ほど使用しましたが、
1例は喘息発作が酷く、リレンザの使用は困難で、
重症感も伴う事例で、
残りの2例は若い方で、
重症感もありましたが、
ご本人の強いご希望により選択しました。

本来は重症の事例でラピアクタを使用した方が、
重篤な合併症が抑制される、
というようなデータがあれば…
と思いますが、
それはないと思いますし、
よく考えれば抗生物質全般においても、
そうした注射剤の優位性は、
あまり証明はされていないように思います。
by fujiki (2013-03-09 08:32) 

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