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新規高尿酸血症治療薬「フェブリク」の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は痛風と高尿酸血症に用いる、
新薬の話です。

今年の1月には、
以前ご紹介したメマンチンや、
次にご紹介予定のガランタミンなど、
新薬の承認ラッシュですが、
その中で今日ご紹介する痛風と高尿酸血症の治療薬、
「フェブリク」(一般名フェブキソスタット)も、
製造販売承認が取得されました。

この薬は日本の製薬会社の自社開発品で、
要するに国産の新薬です。

世界では2009年にアメリカのFDAで承認されており、
ヨーロッパの数ヶ国でも、
既に発売がされています。

つまり世界でも実績のある薬です。

この薬は血液の尿酸を下げる薬です。

尿酸というのはプリン体から体内で生成され、
排泄されます。
プリン体は核酸で、遺伝子に関わる、
非常に重要な物質ですが、
それが不要になり排泄される時の形態が、
所謂尿酸です。

つまり、尿酸は速やかに排泄されなければならないのに、
それが身体に溜まることで、
身体に不具合の現われる原因となる訳です。

プリン体を食事から多く摂ると、
余分のプリン体が尿酸に変換され、
尿酸が身体に溜まります。
また、体内にあるプリン体は、
変換酵素の働きによって、
尿酸に変換されます。
その尿酸は主におしっこから排泄されます。

従って、尿酸が身体に余分に溜まる原因は、
食事から摂るプリン体が多いか、
身体で作られる尿酸が多いか、
おしっこから排泄される尿酸が少ないか、
そのいずれか1つ、もしくは2つ以上の原因が複合して起こります。

従って、
尿酸を下げる方法は、
プリン体の摂取を減らすか、
身体で作られる尿酸を減らすか、
もしくは排泄される尿酸を増やすかの、
3通りになる訳です。

ここでまず、
尿酸が高いことを指摘された人がやるべきことは、
食事のプリン体を減らすことです。

ただ、プリン体は蛋白質には豊富に含まれているので、
その制限には限界があります。

次に使用を検討するのが、
尿酸を下げる効果のある薬です。

この目的で、
おそらく日本で最も使用頻度の高い薬は、
ベンズブロマロン(商品名ユリノームなど)です。

この薬は腎臓の尿細管に作用して、
尿酸の排泄を促す薬です。

つまり、おしっこから出る尿酸の量を増やすことで、
身体に溜まった尿酸を、
減らそう、というのです。

何故日本でこの薬の使用頻度が多いかと言うと、
日本人では体質的に、
おしっこへの尿酸の排泄が少ない、
というデータが存在するので、
排泄促進剤を使用するのが、
理に適っている、という考え方があるからです。

ただ、この薬には幾つかの欠点があります。

まず、排泄される尿酸が増えれば、
尿酸による結石が出来易くなります。
高尿酸血症の主な合併症の1つが結石ですから、
これはやや矛盾した話です。
また、腎機能が低下した患者さんにも使用は出来ません。
更に重症の肝機能障害を起こす事例が、
比較的多いことが知られています。
実際に使用した時の問題点は、
血液の尿酸値の変動が大きいことです。
これもある意味当然のことで、
排泄の状況は、
その時にコンディションによって異なるため、
ある時は急激に低下するけれど、
時には増量しても下がり難いのです。
尿酸値の急激な変動は痛風の発作の誘因になります。

実はこの薬は現在アメリカでは、
発売すらされていません。

欧米のガイドラインで、
現時点で第一選択の薬は、
アロプリノール(商品名ザイロリックなど)です。

この薬はキサンチンオキシダーゼ阻害剤です。

キサンチンオキシダーゼは、
身体がプリン体から尿酸を作る時に、
必要となる酵素です。
つまりこの酵素が阻害されれば、
尿酸が体内で作られ難くなり、
その結果として血液の尿酸が減ります。

少量から使用して徐々に増量し、
血液の尿酸が5~6mg/dl のレベルになった時点で、
その量を維持量とするのが一般的です。

この薬は基本的には安全性の高い薬で、
高尿酸血症の第一選択薬であることは、
間違いがありません。
日本ではおしっこの尿酸の排泄を見て、
少なければユリノームを使用し、
正常であればザイロリック、というのが、
「治療指針」のような安手の本に書かれていることですが、
これは日本だけのローカル指針で、
根拠のあるものでありません。

ただ、このアロプリノールにも問題点があって、
それは稀に生じる重症の薬疹です。
今月のNew England Journal of Medicine 誌の総説では、
その頻度は1000人に1人程度とされています。

この原因は明らかではありませんが、
この薬は核酸由来の構造を持っていて、
それが身体の核酸に、
何らかの影響を与えるためではないか、
と言われています。

そこで、同じようにキサンチンオキシダーゼを阻害しながら、
核酸類似の構造を持たない薬を開発すれば、
「重症の薬疹を起こさないアロプリノール」という、
夢の薬が実現するのでは、
という考えが生まれます。

そうした創薬コンセプトで開発された薬が、
今日ご紹介するフェブキソスタットです。

この薬は酵素への結合部位は同一ですが、
その構造にはプリン骨格はないのです。

従って、仮にプリン骨格が、
アロプリノール特有の副作用の原因であるのなら、
このフェブキソスタットには、
重症薬疹の副作用はない筈です。

ただ、その証明は、
メカニズムが仮説に過ぎないものなので、
現時点では困難です。
先発したアメリカにおいても、
まだ2年足らずの実績しかないからです。

この新薬のアメリカでの位置づけは、
アロプリノールで湿疹が出たような患者さんで、
セカンドラインで使用する、というものです。

その効果はうまくコントロールされたアロプリノールと、
ほぼ同等と考えられます。

つまり、現時点で第一選択は矢張りアロプリノールです。

ただ、今後実績が積み重なり、
確実にアロプリノールより安全性が高い、
という評価が定まれば、
フェブキソスタットが第一選択薬になる、
という可能性を秘めているのです。

今後の動静を、
注意深く見守りたいと思います。

今日は近日発売予定の、
高尿酸血症の新薬の話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 4

ゆうな

 本日も勉強させて頂きました。
 実の所、博学の為、全ての文章の意味を理解したとは言えず、悲しい思いをしているところです。でも、尿酸値は個人的に(必然!)、管理していなくてはならない分野です。
 お蔭様で、解りやすく教えていただきました。
 ありがとうございました。

 コメントに御返答頂きまして、有難う御座いました。とても嬉しかったですw(^^)w。
by ゆうな (2011-02-03 23:06) 

fujiki

ゆうなさんへ
コメントありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2011-02-04 08:25) 

はる

いつも勉強させていただいてます。
病院で薬剤師をしています。
アロプリノールを腎機能が低下している場合も高用量処方されているのを散見します。
添付文書にクレアチニン値に合わせた投与量が載っていないので、腎機能が悪くても常用量使えると誤解されている医師が多いように思います。
by はる (2011-02-04 23:39) 

fujiki

はるさんへ
コメントありがとうございます。
そうですね。
腎機能が低下していると、
血中濃度が上昇して重症薬疹のリスクが高まります。
その点を記事にも書いておくべきだったと思います。

腎機能低下時の高尿酸血症に対して、
薬物治療を行なうことが果たしてメリットがあるのか、
と言う点についても、
必ずしも実証性のあるデータは少ない、
という気がします。
by fujiki (2011-02-05 08:26) 

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