ドリエルとアリセプトのことなど [仕事のこと]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は終日事務仕事の予定です。
それでは今日の話題です。
今日は最近経験した、
薬の副作用関連の話です。
高血圧で治療中の90代の患者さんが、
不眠のために薬が欲しい、
とご家族にお話しされました。
それでご家族が薬局に行き、
高齢であることを説明した上で希望を言うと、
勧められたのが「ドリエル」でした。
テレビでも宣伝されている、
不眠の一般薬です。
その日初めてその患者さんはドリエルを飲みました。
そして、その翌日、
朝の散歩に出て転倒し外傷を負いました。
普通に起きたつもりで、
ふらつきが残っていたのです。
骨折はなく打撲だけであったことが、
不幸中の幸いでした。
「ドリエル」の主成分は、
ジフェンヒドラミンです。
これは抗ヒスタミン剤と呼ばれ、
風邪薬の眠くなる成分です。
ヒスタミンは分泌を増やし血管を拡張させます。
そのために、ヒスタミンをブロックすることが、
アレルギー症状や鼻水を抑えるのに、
効果があるのです。
ただ、このヒスタミンは、
脳内伝達物質でもあり、
覚醒アミンの一種です。
つまりヒスタミンには覚醒を維持する作用があるので、
それがブロックされると眠くなるのです。
しかし、これは通常の自然の眠りとは、
性質が異なります。
通常若い方が飲めば、
翌日には確実にその効果は切れているので、
大きな問題はありませんが、
高齢者では代謝が低下しているので、
翌日にもふらつきが持続することが多く、
転倒や骨折の原因となり易いのです。
添付文書には、
高齢者は慎重投与となっています。
しかし、実際にはこの事例のように、
ご家族が買いに来ることもあり、
その場合、睡眠剤より軽い薬、
という判断があるので、
つい軽い気持ちで服用をしてしまうことになるのです。
ドリエルは睡眠改善剤という名目になっています。
これは医療薬にはない適応ですから、
一般薬に同じ成分でありながら、
医療薬とは別の適応を追加したのです。
しかし、副作用が眠気の薬を、
睡眠改善剤の名目で売り出す、
という発想は如何なものでしょうか?
特に高齢者においては、
短期作用型で筋弛緩作用の少ない睡眠導入剤を、
少量使用した方が、
余程翌日のふらつきは少ない筈です。
しかも、説明は睡眠剤ですから、
患者さんもご家族も、
ふらつきの可能性は把握し易く、
注意もし易いのです。
僕はこのお話を聞いて、
根本的に何かが間違っている、
という思いがしました。
ジフェンヒドラミンは世界最初に近い、
抗ヒスタミン剤です。
効果も非常に強い反面、
副作用も強力です。
それでその後多くのより眠気の少ない抗ヒスタミン剤が、
開発され使われたのです。
その眠気を逆手に取って、
睡眠剤もどきとして再発売したら儲かるのではないか、
と考えた方は賢いビジネスマインドをお持ちだったのでしょう。
ただし、残念なことにその精神は、
患者さんの安全には向いてはいません。
しかし、それが正当化され、
売れれば評価されるのが、
今の世の中なのだと思います。
次に最近経験した、
アリセプトの副作用の事例です。
患者さんは80代の男性で、
中等度のアルツハイマー型認知症があり、
2年前からアリセプトの内服を開始しました。
効果は何とも言えないところです。
ご家族の希望もありましたし、
所謂認知症の進展抑制作用を信じて、
その処方を継続しました。
ある時から、
患者さんは疲れ易い様子になり、
少し疲れると意識レベルが低下して、
もうろうとするような状態が、
しばしば起こるようになりました。
一度診療所を受診した時に、
そうした意識レベルの低下が訪れたのですが、
脈は遅めで血圧は低下しており、
心電図を撮ると、
以前にはなかった房室ブロックという変化が、
認められました。
ただ、緊急性のあるものではありません。
念のため頭部のMRIも撮影しましたが、
急性の変化はありませんでした。
それでアリセプトの副作用を疑い、
中止して様子を見たところ、
2週間ほどでご様子は目に見えてお元気になり、
その後意識レベルの低下は見られてはいません。
アリセプトはアセチルコリンを増やす作用のある薬剤で、
比較的特異的に脳に効くとされていますが、
全身的な作用も皆無ではありません。
高齢者の場合、
心機能の低下に結び付くことは、
有り得るのだということを、
身近に感じた事例でした。
先日ご紹介したメマンチンもそうですが、
高齢者の場合副作用の発現は、
数年後でも有り得るので、
継続的な慎重な観察が必要で、
何処かの専門施設のような、
ご家族に3ヶ月ごとに薬を取りに来させて、
診察は半年に一度、といったような診療で、
様子を見るべき薬剤ではないと僕は思います。
今日は最近経験した、
高齢者の薬の副作用についての話でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は終日事務仕事の予定です。
それでは今日の話題です。
今日は最近経験した、
薬の副作用関連の話です。
高血圧で治療中の90代の患者さんが、
不眠のために薬が欲しい、
とご家族にお話しされました。
それでご家族が薬局に行き、
高齢であることを説明した上で希望を言うと、
勧められたのが「ドリエル」でした。
テレビでも宣伝されている、
不眠の一般薬です。
その日初めてその患者さんはドリエルを飲みました。
そして、その翌日、
朝の散歩に出て転倒し外傷を負いました。
普通に起きたつもりで、
ふらつきが残っていたのです。
骨折はなく打撲だけであったことが、
不幸中の幸いでした。
「ドリエル」の主成分は、
ジフェンヒドラミンです。
これは抗ヒスタミン剤と呼ばれ、
風邪薬の眠くなる成分です。
ヒスタミンは分泌を増やし血管を拡張させます。
そのために、ヒスタミンをブロックすることが、
アレルギー症状や鼻水を抑えるのに、
効果があるのです。
ただ、このヒスタミンは、
脳内伝達物質でもあり、
覚醒アミンの一種です。
つまりヒスタミンには覚醒を維持する作用があるので、
それがブロックされると眠くなるのです。
しかし、これは通常の自然の眠りとは、
性質が異なります。
通常若い方が飲めば、
翌日には確実にその効果は切れているので、
大きな問題はありませんが、
高齢者では代謝が低下しているので、
翌日にもふらつきが持続することが多く、
転倒や骨折の原因となり易いのです。
添付文書には、
高齢者は慎重投与となっています。
しかし、実際にはこの事例のように、
ご家族が買いに来ることもあり、
その場合、睡眠剤より軽い薬、
という判断があるので、
つい軽い気持ちで服用をしてしまうことになるのです。
ドリエルは睡眠改善剤という名目になっています。
これは医療薬にはない適応ですから、
一般薬に同じ成分でありながら、
医療薬とは別の適応を追加したのです。
しかし、副作用が眠気の薬を、
睡眠改善剤の名目で売り出す、
という発想は如何なものでしょうか?
特に高齢者においては、
短期作用型で筋弛緩作用の少ない睡眠導入剤を、
少量使用した方が、
余程翌日のふらつきは少ない筈です。
しかも、説明は睡眠剤ですから、
患者さんもご家族も、
ふらつきの可能性は把握し易く、
注意もし易いのです。
僕はこのお話を聞いて、
根本的に何かが間違っている、
という思いがしました。
ジフェンヒドラミンは世界最初に近い、
抗ヒスタミン剤です。
効果も非常に強い反面、
副作用も強力です。
それでその後多くのより眠気の少ない抗ヒスタミン剤が、
開発され使われたのです。
その眠気を逆手に取って、
睡眠剤もどきとして再発売したら儲かるのではないか、
と考えた方は賢いビジネスマインドをお持ちだったのでしょう。
ただし、残念なことにその精神は、
患者さんの安全には向いてはいません。
しかし、それが正当化され、
売れれば評価されるのが、
今の世の中なのだと思います。
次に最近経験した、
アリセプトの副作用の事例です。
患者さんは80代の男性で、
中等度のアルツハイマー型認知症があり、
2年前からアリセプトの内服を開始しました。
効果は何とも言えないところです。
ご家族の希望もありましたし、
所謂認知症の進展抑制作用を信じて、
その処方を継続しました。
ある時から、
患者さんは疲れ易い様子になり、
少し疲れると意識レベルが低下して、
もうろうとするような状態が、
しばしば起こるようになりました。
一度診療所を受診した時に、
そうした意識レベルの低下が訪れたのですが、
脈は遅めで血圧は低下しており、
心電図を撮ると、
以前にはなかった房室ブロックという変化が、
認められました。
ただ、緊急性のあるものではありません。
念のため頭部のMRIも撮影しましたが、
急性の変化はありませんでした。
それでアリセプトの副作用を疑い、
中止して様子を見たところ、
2週間ほどでご様子は目に見えてお元気になり、
その後意識レベルの低下は見られてはいません。
アリセプトはアセチルコリンを増やす作用のある薬剤で、
比較的特異的に脳に効くとされていますが、
全身的な作用も皆無ではありません。
高齢者の場合、
心機能の低下に結び付くことは、
有り得るのだということを、
身近に感じた事例でした。
先日ご紹介したメマンチンもそうですが、
高齢者の場合副作用の発現は、
数年後でも有り得るので、
継続的な慎重な観察が必要で、
何処かの専門施設のような、
ご家族に3ヶ月ごとに薬を取りに来させて、
診察は半年に一度、といったような診療で、
様子を見るべき薬剤ではないと僕は思います。
今日は最近経験した、
高齢者の薬の副作用についての話でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2011-02-02 08:19
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