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極私的インフルエンザ情報(2011年1月下旬) [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はまた診療所周辺のインフルエンザ情報です。

インフルエンザの患者さんは、
先週から増え続けていますが、
矢張りその殆どは所謂新型(H1N1pdm)です。

ただ、その年齢層は、
当初の20代~30代中心より、
次第に拡大しているようです。

10代前半の小学生層の患者さんが拡大し、
また50代から60代の患者さんも、
次第に増える傾向があります。

どういうメカニズムによるものなのか、
はっきりと説明し難いのですが、
季節性インフルエンザの流行は、
いつもこうした経過を取ることが多く、
最初は特定の年齢層から感染が拡大し、
それがしばらくしてから、
周辺の年齢層に拡大します。
そして、それが高齢者や乳幼児に波及すると、
重症の事例が多く、深刻な事態になるのです。

幾つか、印象的な事例をご紹介します。

お孫さん2人がインフルエンザに感染し、
それから数日して咳が出て、
少し身体がだるくなった、
というご訴えで、
診療所にお見えになった、
60代の男性の方がいらっしゃいました。

熱はありません。
咽喉も腫れてはいません。

通常はこれでインフルエンザの検査はしないのですが、
お孫さんのことがあったので、
検査をしてみると、
はっきり陽性反応がありました。

つまり、不顕性感染に近いような、
非特異的な症状で、
実際には感染しているケースがあるのです。

軽い症状であれば処方はせず様子を見るのですが、
この方はかなり咳込みが強かったので、
リレンザを処方して使って頂くことにしました。

勿論簡易検査の偽陽性の可能性も皆無ではなく、
この方の場合はご同意の上で、
抗体価の測定も確認のため行なっています。

比較的ご高齢で熱はないか微熱で、
咳込みの強い風邪症状の方は、
今構いらっしゃるのですが、
その全例では勿論ないものの、
ある程度の部分は、
所謂新型インフルエンザの感染です。

これはきちんとしたデータがある訳ではありませんが、
こうした方ではインフルエンザの診断を行なった上で、
初期に抗ウイルス剤を使用すれば、
咳込みの期間は短縮出来る、
というのが僕の経験的な印象です。
長引く咳はご本人にとっては、
非常にお辛いことが多いので、
抗ウイルス剤を使用する意味合いはある訳です。

また、持続する咳症状は、
ウイルスの刺激による、
免疫の過剰反応の部分が大きいのですから、
早期にウイルス量を減らすことは、
その後の症状の終息を早める可能性があるので、
一応の理屈は成立するのです。

ただ、こうした不顕性感染主体の時期から、
重症化の時期に移行するケースは、
2年前のAソ連型の流行時にも見られたので、
注意は必要だと思います。

次の事例は11歳のお子さんですが、
まずだるさと咳込みが1日あって、
その翌日に熱が38度台に上がりました。
発熱から半日で医療機関を受診すると、
すぐにインフルエンザの簡易検査が行なわれました。

結果は陰性だったので、
その担当医は「これはインフルエンザではないですね」
と断言し、
バナンというセフェム系の抗生物質と、
ロキソニンを処方しました。

それが金曜日の夕方のことで、
お母さんは土日はそのまま様子を見たのですが、
月曜日になっても熱が下がらず、
咳も酷いので診療所を受診されました。

咽喉を見ると、
その腫れ方はインフルエンザに典型的です。

それでもう一度簡易検査を行なうと、
すぐに陽性反応が出ました。

こうしたケースはよくあります。

他の医者の批判めいたことは、
あまり言いたくはないのですが、
こうした対応は矢張り頂けません。

流行状況と症状から言えば、
確率的にはインフルエンザの可能性が、
このお子さんの場合はどう考えても高いのです。

簡易検査は非常に参考になるものではありますが、
どの時期から陽性になるかは、
結構個人差が存在します。
またそのキットの感度の問題もありますし、
しっかり適切な部位から、
検体が採取出来ているかどうかの、
手技のレベルの問題もあります。

従って、最初の受診の時点で、
簡易検査が陰性であったとしても、
それは感染自体が否定されたものではないのですから、
「インフルエンザではない」と断言してはいけません。
この場合は流行状況と症状経過の方が重要で、
金曜日の午後という時間帯を考えれば、
親御さんにインフルエンザの可能性について説明し、
抗ウイルス剤の「見込み使用」について、
その選択をするだけの情報は、
しっかりと提示するべきです。

月曜日の時点で診断をしても、
もう抗ウイルス剤を使用するタイミングは、
半ば逸することになるからです。
勿論可能性は考慮した上で、
抗ウイルス剤は使用しない、
という選択肢もありますが、
簡易検査だけでその可能性自体を否定するのは、
本末転倒なのです。

新型インフルエンザで重症化した事例を検証すると、
簡易検査で陰性であったので、
抗ウイルス剤を使用していないケースが結構あった、
という報告が先日ニュースになりました。
症状で疑いのある事例は、
早期に遺伝子検査を行なうべきなのでは、
というのがその結論の趣旨のようですが、
末端の診療の現場から言えば、
これは臍が茶を沸かすような話で、
遺伝子検査は行政の許可がないと行なえず、
行政では集団感染などの事例以外には、
許可はしてくれないのが現実なのです。

従って、末端の臨床の現場では、
簡易検査をうまく利用しながら、
それだけには頼らずに、
診断と治療を行なってゆかざるを得ないのです。

今日はインフルエンザ診療の現況でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 6

まみしゃん

う~ん、咳がずっと続いている自分はインフルエンザ患者さんと明らかに接した覚えはないのですが(夫は単身赴任です)発熱がないと安心していてもいられないのかなぁと思いました。
過去に37・3℃でインフルエンザ検査で陽性が出たことがあります。
外出する時にマスクはもちろんうがい・手洗いもしていますが・・・総合病院と駅という人ごみには出かけましたので。
リンコデも無くなりますので、もう一度受診してみようかと思います。
by まみしゃん (2011-01-27 10:36) 

ritton2

福岡県は今が旬です(+_+)
by ritton2 (2011-01-27 18:17) 

fujiki

まみしゃんさんへ
コメントありがとうございます。
マイコプラズマもありますし、
一概には言えないのですが、
診療所周辺に限って言うと、
咳込みの風邪はインフルエンザの比率の方が、
高いと思います。
by fujiki (2011-01-28 08:13) 

fujiki

ritton2 さんへ
コメントありがとうございます。
東京はおそらくこれからピークだと思います。
by fujiki (2011-01-28 08:14) 

iyashi

こちらも現在ピークです。
しかし、新型か季節性かはわかりません(現場復帰していない為、情報なし)

昨年は新型のパンデミックだと大騒ぎしていたのに、今年はマスメディアもそれほど騒いでいない為見逃されている、油断があるという事もあるのでしょうね。。。
咳がある場合も疑いは持たなければならないとの事、勉強になりました。
by iyashi (2011-01-28 19:42) 

fujiki

iyashi さんへ
コメントありがとうございます。
高齢者にもじわじわと、
比較的重症の事例が増えていることが心配です。
by fujiki (2011-01-28 22:23) 

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