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新型インフルエンザの重症化をどう考えるか? [新型インフルエンザA]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は新型インフルエンザの重症化についての話です。

昨日、免疫複合体が、
インフルエンザの重症化に関与しているのでは、
という文献をご紹介しました。

今日はそうした知見を、
実際に臨床において、
どのように活かすべきかを考えます。

昨年流行した新型インフルエンザは、
ウイルス表面の抗原のタイプから言うと、
H1N1 というタイプのものです。

過去の流行から紐解くと、
1918年の所謂スペインかぜのウイルスは、
このH1N1 のタイプのものでした。
また、現在も季節性インフルエンザとして、
冬場を中心に流行している、
Aソ連型のウイルスも、
このH1N1 のタイプのウイルスです。

ただ、こうした過去のウイルスの免疫が、
新型インフルエンザに対して有効なのか、
そうでないのか、という点については、
色々な意見があって、
一定の結論に至ってはいません。

この3種類のウイルスに、
ある程度の交差免疫が成立していることは事実です。

つまり、季節性のAソ連型の抗体は、
ある程度新型インフルエンザの抗原に、
結合する性質を持っています。

しかし、問題はそれが有効な免疫なのかどうかと言うこと、
すなわち、身体において、
その別の抗体が、
その感染を防御したり、
重症化を阻止したりする働きを持っているのか、
という点にあります。

1957年以前には、
1918年のスペインかぜのウイルスの抗原が、
存在していたことが分かっていて、
その抗原に対する抗体が、
それ以前に生まれた人の血液中では、
少なからず上昇していることが分かっています。

新型インフルエンザの感染が高齢者に少ないことと、
この知見とを考え合わせると、
どうやらスペインかぜの抗体は、
新型インフルエンザにも有効であることは間違いがなさそうです。

それでは、Aソ連型の抗体はどうでしょうか?

昨日ご紹介した文献から分かることは、
Aソ連型の抗体は、
新型ウイルスにある程度反応し、
抗原抗体反応を起こし、
免疫複合体は生成するけれど、
その作用は弱く、
ウイルスを排除するための、
中和抗体としては働かない可能性が高い、
ということです。

そればかりか、
こうした不充分な抗体は、
抗原と抗体とのバランスの悪い、
免疫複合体を生成し、
それが肺などの組織に沈着すると、
サイトカインの異常な増加から、
組織障害を起こして、
インフルエンザの重症化の引き金を引くのでは、
と考えられるのです。

去年季節性のワクチンを打つと、
却って新型インフルエンザが重症化する、
という報告が一部であったことを、
ご記憶の方もいらっしゃるかと思います。

今回の知見からすれば、
その理由は明らかです。

新型の免疫を持たない人が、
季節性のワクチンを打ち、
それまでなかったAソ連型の抗体が上昇した、
とします。
その抗体が却ってバランスの悪い免疫複合体を生成すれば、
それは新型感染の重症化に繋がる可能性があります。

つまり、昨年の季節性のワクチンに、
新型と同じタイプの抗原が入っていたのは、
誤りであった可能性があるのです。

昨年の季節性のワクチンは、
A香港型とB型との2価にして、
それに併せて新型のワクチンを打つべきだったのです。

従って、基本的には今年のワクチンから、
Aソ連型が抜けたのは、
正しい選択です。

同じ型のウイルスがほぼ同時に流行ることは、
基本的には有り得ないことで、
流行らない同じ型のワクチンを打ち、
その抗体を上昇させることは、
却って有害になるからです。

今年のインフルエンザの抗体価の測定は、
健康保険の範囲内でも可能です。
そして、その抗体はH1N1 に関しては、
新型ウイルスのものに切り替わっているので、
その抗体価が上昇していれば、
概ね有効な免疫が出来ていることが確認出来ます。

僕は従って、感染で重症化のリスクの高い、
持病をお持ちの方では、
抗体価の計測を行なうようにしています。

タミフルなどの抗インフルエンザ剤は、
副作用など解決されない問題を残してはいますが、
現行の知見から考えて、
重症化の予防には早期の使用が有効だと思います。

以前の脳症のメカニズムについての日本の研究でも、
今回の免疫複合体の知見でも、
ウイルス量を早期に抑え込むことが、
その重症化の阻止に、
ある程度の有効性があることは、
推測出来る事項だからです。

今日はインフルエンザの重症化についての、
最近の知見についての話でした。

上記の内容は、
あくまで最近の知見を元にした、
僕自身の考え方で、
教科書的な事実ではありませんので、
その点はご理解の上、
お読み頂ければ幸いです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 8

etsuko

インフルエンザのじきですので、興味深く読みました。
実は、私は小1のころ(今から、39年近くまえのことですが・・・)2度インフルエンザの予防接種を受け、2度とも高熱を出し、それ以降、医師から止められていて、ワクチンをうっていません。その頃のものは、純度も悪いので、一概には言えないようですが、卵のアレルギーなどを調べても異常がないためにワクチン自体に反応するのでは、といわれました。
その後、インフルエンザにかかったのは、1度きりで、どれだけ流行っていても、インフルエンザの看護をしても、うつったことがありません。マスク、うがい、手洗いを励行しているだけですが・・・。昨年、新型インフルエンザ騒ぎがありましたが、私は、毎年のように、パンデミック状態で冬を過ごしています(笑)よい、予防法が見つかればと思います。寒い時期です。先生も、お体ご自愛なさってください。長い文章で失礼いたしました。
by etsuko (2010-12-17 19:52) 

YTH

薬剤師をしています。いつも拝見し、勉強させていただいています。昨日、今日も興味深く読ませていただきました。
溶連菌の免疫複合体のことで教えていただきたいことがあります。昨日小児科で、私の7歳の息子が溶連菌性咽頭炎と診断されました。その医師から「溶連菌には免疫ができないので、息子さんから家族にうつりまたそれが息子さんにうつるというようなことが稀にあるので気をつけてください。」と教えていただきました。その後先生のブログを読ませていただいてわからなくなったことがあります。溶連菌には免疫ができないと小児科の先生はおっしゃっていたのに、なぜ溶連菌による免疫複合体病(急性糸球体腎炎)というものが起こるのだろうか??ということです。
溶連菌に対する抗体ができないという小児科の医師の話から考えると、溶連菌感染症のあとにおこる免疫複合体病は、以前溶連菌に似た菌に感染したときに作られていた抗体が溶連菌にくっついて複合体を作ってしまい腎炎を起こすということなのでしょうか?
なんとなく、頭の中がモヤモヤしているので、もし先生の時間があれば、溶連菌の免疫複合体のことをもう少し教えてください。お願いいたします。
長くなり申し訳ありませんでした。
by YTH (2010-12-17 23:00) 

会社員

インフルエンザの予防注射・・・。
すこし前「予防注射いかがっすか~」とメールを入れてきた女医さんがいます。
どこの病院で予防注射をうけても、会社が負担してくれることになっていますもので。。

私はこの10年3回インフルエンザにかかりましたが、すべて予防注射をした冬だけに限ったものでした。
予防注射をしなかったときは何もかからないのに・・・・。
予防注射が免疫力を弱めるのではないかと思っていましたが、あながち見当はずれでもなかったのかも・・・。

by 会社員 (2010-12-17 23:09) 

fujiki

etsuko さんへ
コメントありがとうございます。
僕も小学校の頃は、
インフルエンザの集団接種が物凄く嫌で、
理由を付けて何度もさぼりました。

etshuko さんもお身体ご自愛下さい。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2010-12-18 08:41) 

fujiki

YTH さんへ
コメントありがとうございます。

抗体が出来る、ということと、
たとえばその病気にそれ以後罹らないといった、
終生免疫が出来る、ということとは、
全く別物で、
その点が一番の混乱の元だと思います。

たとえば、溶連菌には、
その表面にM抗原と呼ばれる蛋白質があり、
それ以外に莢膜を構成する成分があり、
それ以外にも分泌する毒素のようなものもあります。
その個々の成分に対して、
身体は抗体を作るので、
抗原抗体反応は、
感染毎に常に成立する訳です。

「溶連菌には免疫が出来ない」
と先生が言われたのは、
たとえば麻疹のような、
終生免疫が出来ない、
という意味合いで、
感染毎に当然免疫反応はあり、
多くの抗体が産生されるので、
免疫複合体が形成されて、
別に不思議はない訳です。

ただ、一度外からの溶連菌の感染が起こり、
それが正常の免疫反応で排除されたとすれば、
その同じ抗原性を持つ菌に対しては、
少なくともしばらくの間は、
再感染はし難い、
と考えて良いのではないかと思います。

以上でお答えになっているでしょうか。
by fujiki (2010-12-18 08:55) 

fujiki

会社員さんへ
コメントありがとうございます。

誤解のないように補足しますと、
僕は決してインフルエンザワクチンが無効であるとか、
却って有害である、という意見ではありません。
上記の内容はあくまで、
自然の免疫による抗体でも同じことで、
季節性インフルエンザの抗体が、
同種の抗原性を持つ新型インフルエンザの感染を、
場合によって重症化させるのではないか、
というくらいのニュアンスです。
引用元の論文にも、
勿論ワクチンに関しての記載はありません。

ただ、場合によってワクチン接種が、
インフルエンザのような病気においても、
重症化の要因に成り得る、
という可能性はあるのではないかと思います。
繰り返しになりますが、
それはワクチンの特性ではなく、
自然免疫でも同様だ、
という意味合いにおいてです。
by fujiki (2010-12-18 09:04) 

会社員

申し訳ございません。
私も、誤解がある表現でした。

私も、予防注射が有害だとは思っていません。

by 会社員 (2010-12-18 09:20) 

YTH

溶連菌に対する抗原抗体反応と免疫複合体の形成について、本当に丁寧に解りやすく説明していただき、誠にありがとうございました。頭の中でモヤモヤしていたものがすっきり整理され、本当に嬉しいです。

先生のブログを読ませていただくと、小宇宙のような人体の機能にますます興味がわいてきます。これからも毎日楽しみ拝読させていただきます。よろしくお願いいたします。
by YTH (2010-12-18 19:48) 

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