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肺炎球菌ワクチンを考える [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

パソコンは新しくなったので、
少しずついつものペースに戻します。
でも、今日もまだ早い更新です。

それでは今日の話題です。

今日は肺炎球菌ワクチンの話です。

肺炎球菌は人間の鼻の粘膜などに、
常時存在する細菌ですが、
小さなお子さんの髄膜炎や、
お子さんの中耳炎、
高齢者の肺炎などの原因菌として、
人間の健康を脅かす大きな要因になります。

肺炎球菌は細菌ですから、
基本的には抗生物質が有効です。
ただ、ご他聞に洩れず多剤耐性菌が増えていて、
もしこの感染をワクチンで予防出来るなら、
その方が患者さんへの負担も少なく、
医療経済的にも、
よりメリットのある方法であることは、
皆さんもご納得の行くところではないかと思います。

さて、現時点で日本で使用出来る肺炎球菌のワクチンには、
ニューモバックスという商品名のものと、
プレベナーという商品名のものがあります。

更にプレベナー13という、
プレベナーをパワーアップしたようなワクチンが、
おそらく来年には使用可能となると思われます。

この、いずれも国産ではなく輸入のワクチンには、
どのような違いがあり、
どのように使い分けがなされているのでしょうか?

今日はその点を、
僕なりにまとめてみたいと思います。

歴史的に言うと、
最初に使用された肺炎球菌のワクチンは、
ニューモバックスで、
アメリカで1983年に承認され、
日本では1988年に販売が開始されました。

このニューモバックスは、
23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン
と呼ばれています。
略してPPSV23 です。

肺炎球菌は莢のような構造に包まれており、
その莢の成分により、
90種類以上の莢膜型に分類されています。

その型によってどのような病気になり易いかが概ね決まります。
また、大人に病気を起こし易い型もあり、
逆に大人には病気を起こし難く、
子供に病気を起こし易い型もあります。
更には日本で流行している型と、
海外で流行している型では、
若干の違いがあることも知られています。

ニューモバックスは、
そのうち肺炎や髄膜炎などの原因になり易い、
23の型を選んで、
その莢膜の成分をワクチンとしたものです。

その型を順番に並べると、
1、2、3、4、5、6B、7F、8、9N、9V、10A、11A、12F、14、15B、17F、18C、19A、19F、20、22F、23F、33F
ということになります。
基本的にはこの23種の型に対して、
ニューモバックスを一本打てば、
ある程度の予防が可能だ、
ということになります。

このワクチンの適応は、
原則2歳以上とされています。

現状の対象者は主に高齢者です。

それは何故でしょうか?

このワクチンは蛋白質を抗原としていません。
そのために、
T細胞というリンパ球による免疫は活性化せず、
IgG抗体という区分の抗体を、
上昇させる効果しか持ちません。

これはどういう意味かと言うと、
まずこのワクチンはブースター効果を持ちません。
つまり、ワクチンの効果が薄れた時点で、
肺炎球菌による感染が起こっても、
免疫を記憶していて効果がある、
というようなことはないのです。

従って、抗体が減少した時点で、
その効果は全くなくなりますし、
たとえば1ヶ月毎に接種を2回しても、
副反応が強くなることはあっても、
免疫の持続がそれにより長くなることはありません。

つまり、インフルエンザのワクチンのようなものとは、
基本的に性質が違うのです。

ワクチンというよりも、
免疫グロブリンを打つような治療に、
どちらかと言えばその効果は似ているかも知れません。

ただ、その代わり、打った場所の腫れ以外には、
重症の副反応は殆どありません。
ワクチン接種後に亡くなった、というような報告も、
このワクチンに関しては、
現時点で一切ありません。

このワクチンは更には粘膜の免疫は誘導しません。

肺炎球菌が定着するのは、
人間では主に鼻や口の粘膜です。

しかし、それを排除する力はこのワクチンにはなく、
従って、中耳炎や咽頭炎、副鼻腔炎などの予防効果はないのです。
このワクチンが効果を現わすのは、
あくまで肺炎球菌が大量に身体で増殖し、
貪食細胞が出動するような場合のみです。

2歳未満の子供では、
免疫系が未成熟のため、
このワクチンの誘導するような抗体を、
充分に産生出来ないことが分かっています。

従って、このワクチンは2歳未満の予防効果はないのです。

それに対して、
2000年にアメリカで認可され使用が始まったのが、
プレベナーというワクチンです。

これは7価肺炎球菌多糖体蛋白結合型ワクチン
と呼ばれています。
略してPCV7 です。

このワクチンは莢膜のポリサッカライドに、
人工的に無毒性変異ジフテリア毒素を、
くっつけて製造されています。
つまり、人工的に蛋白質をくっ付けているのです。
このため、このワクチンは、
T細胞にも認識され、
通常のワクチンと同じように、
ブースター効果も持つことが推定されます。
更には粘膜の免疫を、
誘導する作用も確認されています。

つまり、このワクチンを打つと、
その有効な型の肺炎球菌は、
鼻や咽喉の粘膜に、
定着することが出来ません。
つまり、ニューモバックスとは異なり、
感染自体を予防する効果があるのです。

7価というのは7種類の型のことで、
4、6B、9V、14、18C、19F、23Fの7種類です。
基本的にはニューモバックスに含まれている型のうち、
7つをセレクトした、
という格好になっています。

このプレベナーは、
今年の2月から日本でも接種が出来るようになりました。

通常月齢2ヶ月から開始とし、
1ヶ月毎に3回の接種をして、
その2ヶ月後に追加接種を1回行なう、
というスケジュールです。

ただ、このワクチン特有の問題も存在します。

その最大のものは、
このワクチンを使用すると、
そこに含まれる7つの型の肺炎球菌は、
人間の粘膜に定着出来なくなるので、
それ以外の菌の感染が却って増える結果になる、
ということです。

実際にこのワクチンの使用後、
含まれていない19A という型の感染が、
増加しているとの複数の報告が存在します。

そうした指摘を受けて、
今年からアメリカで導入されたのが、
プレベナー13という、
プレベナーと同様の効果を持つ、
13価のワクチンです。

これはプレベナーの7つの型に加えて、
1、3、5、6A、7F、19Aの6つの型の抗原を、
追加したタイプのワクチンです。

ポイントは問題になった19Aが追加された点と、
ニューモバックスにも含まれていない、
6Aが追加されていることです。

ただ、6Aは6Bと交差免疫が確認されていて、
不要視する意見もあります。

プレベナー13はもう日本でも申請はされていて、
おそらく来年には7から切り替わると思われます。

基本的にはその効果という点で見れば、
ニューモバックスよりプレベナーの方が、
よりその予防効果は高いワクチンで、
プレベナー13が成人での適応取得もされている点を考えると、
今後ニューモバックスは使用されなくなる流れではないか、
と思われます。

ただ、副反応に重篤なものがなく、
T細胞の免疫を誘導しない、
というニューモバックスの特徴は、
むしろ対象者によっては優れた点とも考えられ、
粘膜への菌の定着は妨害しないので、
ワクチン以外の菌種が増加する、
といった怖れもないのです。

従って、今後両者をうまく使い分けることが、
特定のご病気の方の感染予防については、
問題となってくるのではないかと思います。

明日は皆さんのご質問の多い点については、
ちょっと僕なりの回答を、
Q&A形式でお届けしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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