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麻雀と日劇と恐怖の夜の話 [フィクション]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は日曜日で診療所は休診です。
朝はいつものように駒沢公園まで行きましたが、
何となく風邪気味で調子が悪いので、
運動は軽めに済ませました。

それでは今日の話題です。

今日はまたちょっと僕の昔話を聞いて下さい。

麻雀を覚えたのは、
中学校の時だったと思います。
父が一時凝っていたので、
一緒に付き合いでパイを並べたのです。
ただ、役を覚えるのが難しくて、
何となく段取りを覚えただけでした。

高校では2年生の時に、
文系と理系とでクラスが分かれます。
僕は理系のクラスを選択しました。

先週お話したように、
僕は高校に入ってすぐに、
一時登校拒否になっていたので、
復帰した後もあまり学校には馴染めませんでした。

2年になりクラス替えもあり、
少し良い風が僕にも吹いて来るかな、
と仄かな期待もあったのですが、
実際には状況はあまり変わりませんでした。

ただ、クラスで麻雀が流行って、
そのメンツが足りない時に、
「あ、僕もちょっと出来ます」と言うと、
「じゃ石原来いよ」という感じになって、
土曜日の午後に池袋の雀荘に行きました。

安いレートの賭け麻雀で、
負けると1000円か2000円くらい払う、
という感じです。

僕が麻雀が出来ないということは、
すぐに皆も分かったと思いますが、
何となくその場はやり過ごし、
僕が2000円くらい負けて終わりました。

僕はいつもこんな感じで、
友達が欲しいばっかりに、
大して知らないし興味もないことに対して、
それがクラスで流行っていると、
つい「僕も知ってるよ」と言ってしまい、
結局「おめー、本当は知らねえんじゃねえか」
と言われてしまうのです。
小学校の時の鉄道模型もモデルガンも、
中学校の時の釣りもロックもプラモデルも、
そしてこの高校の麻雀も、
全部そうでした。

それからしばらくは僕はそのメンツには、
誘われることはありませんでした。

ところで…

文系のクラスに、
その学年一の不良というのがいて、
お父さんはその筋の偉い人だという話でした。
仮にM君としましょう。

僕の理系のクラスにも、
ちょっと遊び人のA君というのがいて、
そのA君は時々M君と雀卓を囲むことがありました。
A君はクラスの麻雀仲間の中心的存在で、
僕が池袋に行った時のメンバーでもありました。
アバタ面で焼肉が好きで、
どんな集団に入っても、
決して孤立することはなく、
うまく自分のポジションを確保するタイプの少年でした。
要するに要領が良かったのです。

ある日の夕方、
そのA君がM君に麻雀を誘われていました。

A君は明らかに嫌がっていて、
「でもMさん、メンツがいないじゃないですか」
と言うと、
何故かそれまで話したこともなかったM君が、
僕に対してメンツにならないか、
と誘ったのです。

その日僕は実は夜に予定がありました。
それも結構大事な予定で、
妹と一緒に沢田研二のコンサートを、
有楽町の日劇に観に行く予定だったのです。

強く断われば、それで済んだ話でした。

しかし、僕は何故か、
「少しの時間ならいいですよ」
と言ってしまいました。
「馬鹿だな、どうなっても知らないぞ」
という顔で、
A君は僕の方を見ました。

それから僕達は、
M君行き着けの、
御茶ノ水の雀荘に行きました。
「点5でいいな」
みたいな話がM君の友達の口から出て、
そのレートがどのくらいのものなのか、
僕には良く分かりませんでしたが、
何か不吉な予感はしました。

コンサートは6時からです。
雀荘に入ったのは4時半頃でしたから、
すぐに時間は経ち、
はっと思うともう6時15分前です。
 
僕はM君に実はコンサートに行く予定があるのです、
と言うと、M君は何時からだ、
と言うので、
正直に時間を話すと、
「それじゃもう間に合わないじゃないか」
と言うので、
「はい」と返すと、
M君は呆れたように笑って、
「早く行けよ」
と言いました。

僕はそんなことを言わなければ良かったのに、
「また今度この埋め合わせはします」
という意味のことを言いました。
「約束だぜ」
とM君は言いました。

有楽町の日劇に駆け付けると、
もう6時半を廻っていました。
何とも言えない表情をして、
正面で妹が待っていました。
僕はそもそも良い兄ではありませんでしたが、
それでいて大事な時に、
こんな間抜けなことをしてしまいます。
それでもそのことでは、
妹は一言も僕を責めませんでした。

沢田研二は「トキオ」のヒットがあった時で、
ベストテンの話題をMC で話していました。
妹は当時大ファンだったのです。

その翌日学校に行くと、
A君が真剣な顔をして待っていて、
「石原、Mさんがお前と雀卓を囲みたいと待ってるぜ」
と言います。
「うっかりすると、身ぐるみ剥がれて搾り取られるぜ」
と言うので、
僕は初めてそのことの深刻さに気付きました。

M君のレートだとちょっと負ければ、
数万円はすぐだと言うのです。
もしそれが払えなければ、
借金をさせられて、
サラ金地獄のような修羅場になると言うのです。

それで仕方なく、
その日は授業を受けながらも、
麻雀の本を読んで過ごしました。
しかし、付け焼刃でそんなことをしたところで、
相手は百戦錬磨で僕を鴨にしようと狙っているのですから、
そんなことが通用するとは思えません。

夕方になり、
A君に連れられてM君が僕のクラスにやって来ました。
それからM君の友達が2人加わって、
鴨の僕を取り囲むようにして、
僕は学校の門を出ました。

雀荘は確かまた御茶ノ水の辺りだったと思います。

M君は体格は良いのですが、
親分肌の気さくな感じで、
僕はそう悪い印象は持ちませんでした。

むしろM君の連れて来た友達2人の方が、
目付きも鋭く威圧感があって、
僕には恐怖の対象でした。

麻雀は比較的静かに始まりました。

それほど大きな手で上がることはなく、
僕以外の3人が安い手で上がって、
少しずつ僕の点棒が減って行く、
と言う感じです。

半チャンが1回終わって、
次の半チャンに入り、
M君が1回僕から役満を上がって、
僕の点棒はグッと減りました。

その半チャンの最後になって、
珍しく僕の手が早く揃いました。
点数の計算は出来なかったので、
どのくらいの手かは分かりません。
M君が先にリーチをしたので、
それから僕の手を覗き込みました。

「お、石原の手もなかなかだな」
とM君は言いました。
それから僕も初めてリーチをして、
1巡した時点で、
M君が自分のツモを見て、
「俺がツモっちまった」
と言いました。
M君のツモは僕の上がりでした。

それでその日の麻雀は終わりました。
最後の上がりで僕は大分盛り返し、
結局5000円くらいの支払いで済みました。

M君以外の2人はもう終わることに、
露骨に不満の様子でしたから、
ある時点でM君は僕を鴨にすることを、
止めてくれたのだと思います。

あまりに僕が世間知らずで麻雀も殆ど出来なかったので、
それを哀れに思ってくれたのでしょうか?

僕には今でもよく分かりません。

それから僕はM君と2人で、
途中まで一緒に帰りました。

「本は好きか?」
と訊かれたので、
「はい」と言うと、
「『けんかえれじい』を読んだか?」
と訊かれました。
僕は読んだことがなかったのでそう言うと、
「あれは渋いぜ。グッと来るんだ」
と言いました。

最後に
「お前は真面目に勉強してるタイプだろ。
俺なんかに関わるな」
と言って僕達は別れました。

けれどその後も何度か僕達は会い、
何の因果か女の娘を紹介してもらったこともあります。

その時のことは、
またいつかお話をさせて下さい。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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コメント 8

yuuri37

先生、ごめんなさい。笑う話ではないのでしょうが、涙が出るほど笑ってしまいました。でも、思い出話だから許してくださいね。
どうやって育てれば、こんな純粋な少年になるのでしょうか。まあ、未成年で賭け麻雀をやること事態を世間では、不良と言うのでしょうが、私の周りは、兄達も夫もみんな、高校生でタバコは吸うし、酒は飲むし、麻雀はするしの人達だったから、ちょっと価値観はずれてるかもしれません。あっ、勿論今は誰一人、タバコを吸う人はいませんし、可哀想なくらい多忙で、ちょっとばかり、世のため人のために貢献しています。


by yuuri37 (2010-11-14 15:42) 

fujiki

yuuri37 さんへ
コメントありがとうございます。
真剣に怖かったのですが、
いじめっ子から見ると、
いじめられっ子はそんな感じかも知れません。
by fujiki (2010-11-14 19:32) 

yuuri37

真剣に怖かったんですね。
先生は、当時いじめられっ子っていう自覚はあったんですか?
あったとしたら、お辛かったでしょうね。
もう想像つくでしょうけど、私はいじめられっ子でした。でも、幸い私は、いじめられているという自覚が乏しかったので助かりました。後で思うと、これってイジメじゃんってことばっかりです。ものがよくなくなりましたし、無理矢理おごらされ、いつも兄に借金していました。上履きなんてしゅっちゅうなくなるから、裸足で歩いていて、よく先生に注意されました。高等部の女子が裸足は何とも変ですよね。でも、いつしか3人の仲間(男子)ができました。それからの2年間最高でした。怖いものなんてない、女子なんてどうでもよくなった(笑)
でも、今、ちょっと辛いです。女性のいない職場がいいなあ。
by yuuri37 (2010-11-14 20:46) 

ゆうのすけ

風邪・・・ひどくなりませんように!^^
by ゆうのすけ (2010-11-14 23:49) 

fujiki

yuuri37 さんへ
積極的いじめというより、
無視される感じでしたね。
ある意味鈍感なので助かった感じはします。
by fujiki (2010-11-15 06:13) 

fujiki

ゆうのすけさんへ
お気遣いありがとうございます。
いつも冬場は一度は酷い風邪を引くので、
戦々恐々としているところです。
by fujiki (2010-11-15 06:14) 

iyashi

先生のプライベートなお話にいつも引き込まれてしまいます。
自分に似ている感じがして。。。
この先のお話楽しみにしています。
by iyashi (2010-11-15 20:57) 

fujiki

iyashi さんへ
コメントありがとうございます。
そのうちに続きも書くつもりです。
by fujiki (2010-11-16 06:21) 

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