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狂犬病ワクチンを考える [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は狂犬病ワクチンの話です。

狂犬病は感染して適切な対策を取らなければ、
ほぼ100%死亡する、という怖ろしい病気です。

日本では国内での発生は昭和31年以降ありませんが、
昭和45年にネパールからの帰国者で1例、
報道をご記憶の方もいらっしゃると思いますが、
平成18年にはフィリピンからの帰国者で、
2例の感染者が報告されています。

つまり、海外で動物に咬まれた場合には、
常にこの病気の存在を念頭に置く必要があります。

現時点で特に発生の多いのは、
インド、パキスタン、バングラデシュ、
中国、ミャンマー、フィリピン、
インドネシアなどです。

こうした国へ滞在して、
特に犬や猫に咬まれた場合は、
注意が必要です。

狂犬病のウイルスを持つ動物に,
咬まれた可能性のある場合には、
その傷を速やかに石鹸と水で洗い、
狂犬病ワクチンを数日毎に接種します。

WHOの推奨する方法では、
免疫グロブリンの使用を行ない、
同時にワクチンを使用します。

ただ、日本では狂犬病用の免疫グロブリンは、
製造されていないため、
現実には殆どの場合、
狂犬病ワクチンのみの使用が行なわれています。

これがまず1つ目のポイントです。
つまり海外で推奨されている治療が、
日本では現状行なうことが困難なのです。

適切な治療を行なった場合に、
果たしてどれだけ発症が食い止められ、
治癒率が向上するのでしょうか?

手持ちの資料では何処を見ても、
そのことは書かれていません。

すぐに治療をすれば大丈夫だ、
というニュアンスは書かれているのですが、
それでは100%大丈夫なのか、
それともそうではないのか、
という点については、
どうも明確な記載がないのです。
ハリソン内科学を読んでも、
矢張りそういったことは書かれていません。

事例自体が途上国に多いため、
そうした統計自体を取ることが難しいのでは、
と推察されますが、
それが正しいかどうか分かりません。

もし、ご存知の方がいれば、
ご指摘を頂きたいと思います。

いずれにしても、
これだけ怖い病気である狂犬病です。
咬まれても心配ないように、
予防法があればそれに越したことはない、
とは誰でも考えるところです。

それでは狂犬病の予防法はあるのでしょうか?

一応、狂犬病ワクチンが存在します。

一応、と書いたのは、
このワクチンを接種すべきかどうかについて、
必ずしも明確な方針が、
何処にも書かれていないからです。

狂犬病は日本脳炎と同じように、
人から人へは感染しません。
すなわちこの病気のワクチンは、
あくまで個人予防のためのもので、
集団予防のためのワクチンではないのです。

狂犬病には国産のワクチンが存在し、
国産の1社のメーカーでのみ製造されています。
これは現行組織培養による不活化ワクチンで、
動物に接種されているものとは、
製造工程が異なり、
国際的に見ても副反応の少ない、
安全性の高いワクチンとして評価されています。

それでは、海外に出掛ける人は、
洩れなく狂犬病ワクチンを打つべきではないでしょうか?

アメリカに追従し、世界的に見ても、
ワクチン大好き国の日本です。
専門家も行政も、
挙ってワクチン接種を勧めても良さそうです。

ところが、何となくニュアンスは消極的です。

一番積極的なことが書かれているのが、
検疫所のホームページで、
そこには流行地域に旅行する方は、
ワクチン接種が望ましい、と、
比較的断定的に書かれています。

そこを見た方は、
渡航前にワクチン接種をしよう、
とお考えになると思います。

しかし、厚生労働省の情報ページを見ると、
大分ニュアンスが違います。

渡航前の注意事項としては、
むやみに動物に手を出さないこと、
万一咬まれた場合は、
速やかに傷を洗い、医療機関でワクチンを打つこと、
など当たり前のことが書かれていますが、
そこにワクチンを予防に用いる、
という項目はありません。

おやおやと思い、
「事前の狂犬病の予防接種」という項目を見ると、

狂犬病の流行地域に渡航する場合であって、動物との接触が避けられない、又は、近くに医療機関がないような地域に長期間滞在するような方は、渡航前に予防接種をお勧めします。

と書かれています。
どうも、これでは戦場カメラマンや、
動物学者のフィールドワークのような場合以外には、
あまり該当する方はなさそうです。

何故こんなもってまわった、
消極的な書き方をするかと言えば、
それは国産の狂犬病ワクチンが、
極度に品薄である、
という事情があるからです。

ワクチン会社様(研究所でもあらせられるようです)の事情によると、
このワクチンは使用する狂犬病ウイルス株の増殖力により、
年間5万本しか造ることは出来ないのだそうです。

10年前も5万本で、
今も5万本です。

平成18年に狂犬病の死亡事例があり、
国内で一気に需要が高まりましたが、
会社様は増産する、
というお考えはまるでないようで、
今もそのまま慢性の品薄の状態が続いています。

たとえば自衛隊の活動など、
公的な任務で流行地域に行く場合には、
優先的に確保がされますから、
実際には通常の渡航者に、
打てる本数は非常に限られたものになるのです。

ワクチンの技術は報道などによれば、
日進月歩で進んでいる筈です。
であるなら、
このワクチンを増産する方法など、
「日本の素晴らしい技術力」でちょちょいと出来そうですが、
技術的に極めて困難であるのか、
それとも端からやる気がないのか、
どちらかは分かりませんが、
この数年品薄は一向に解消する気配はありません。

しかも、その流通も何となく納得のいかない点があります。

先日中国に渡航予定の方で、
ワクチン接種を希望されたので、
担当の製薬会社の方に相談しました。

通常のワクチンは、
卸さんが窓口になるのですが、
この狂犬病ワクチンに限っては、
そうではなく仲介役の製薬会社の担当者に、
直接注文をする形になるのです。

担当者の方にお聞きすると、
「咬まれた時に使用するワクチンは提供出来ますが、
予防のためのワクチンは原則提供出来ません」
とのご返事です。

しかし、医療機関のサイトなどを見ると、
狂犬病ワクチンを渡航予定者に、
希望さえあれば打ちます、
というニュアンスで書かれているところもあります。
ためしに電話してみると、
「予約すれば明日でも打てます」
みたいなご返事です。
特に渡航の詳細について、
訊かれることもありません。

製薬会社の担当の方にお聞きすると、
今までの実績によって、
提供しているケースもあります、
というようなご返事でした。

それはそれで、そんなこともあるのかな、
と思わなくはありません。

ただ、これだけ品薄で慢性的に供給不足のワクチンがあり、
渡航前に打ちたいと思う方が打てない状況があるのであれば、
もっとその流通を公正に、
一元化して管理する必要があるのではないでしょうか?

その適応ももっと厳密に審査をするべきで、
一方で「いつでも打てますよ」
という事前審査不要の医療機関があり、
他方では門前払いで一切入荷が許されず、
また別の医療機関では、
渡航の状況を細かく聞いた上で、
適応と判断された方にだけ、
接種が許される、
という案配です。

昨年の新型インフルエンザワクチンのように、
本来は渡航場所や期間、仕事の性質などで、
優先順位を明確に定め、
それに沿って、
指定された医療機関のみで接種が可能、
というような体制が望ましいのではないでしょうか?

その上で、これまでの実績で納入、
などというのは一旦チャラにするべきです。
今の状況は、検疫所の情報を見てワクチンを希望された方が、
混乱するだけの結果になっているからです。

実際に使用可能な本数を公表した上で、
届出制にするのか、行政が指定する形式にするのかはともかくとして、
何処でどのようにして、
どれだけの余裕があれば接種が可能なのか、
その情報はもっとクリアな形で、
公開すべきだと考えます。

「ただ今供給が不足して接種が困難な状態です」
というのは、
それが数ヶ月の範囲のことなら納得がいきますが、
もう5年以上その状態と言うのは、
どう考えても異常な事態です。

一番の問題は本当に増産が出来ないのか、
ということです。
免疫グロブリンが使用出来ないことと共に、
これは危機管理の問題でもある筈です。
たとえば他の会社も参入すれば、
倍の生産も可能なのではないでしょうか?
そうしたことは全く議論もされず、
予防の適応のニュアンスだけが、
いつの間にか消極的に変えられる、
というのは、
何か裏の事情でもあるのかと、
どうしても考えざるを得ないのです。

皆さんはどうお考えになりますか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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