SSブログ

サイモン・マクバーニー「春琴」 [演劇]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は休みで朝はいつものように、
駒沢公園でちょっと走りました。
何もなければのんびり過すつもりです。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
春琴.jpg
サイモン・マクバーニーという、
イギリスの演出家による日本製作の舞台、
「春琴」です。

初演は2年前で昨年再演があり、
今年の12月に再び再演の舞台が予定されています。

僕は初演は観ていなくて、
去年の再演に足を運んだのですが、
その素晴らしさには本当に魅了されましたし、
非常に感銘を受けました。

日本で興行として成立するタイプの現代演劇としては、
10年に1本くらいのレベルの作品と言っても、
間違いはないと思います。

サイモン・マクバーニーは野田秀樹とも交流があり、
寺山修司のイギリス公演版の「奴婢訓」を観ているくらいの、
寺山演劇の理解者でファンでもあります。

数年前に村上春樹の短編を数編コラージュした、
「エレファント・バニッシュ」という作品を、
矢張り日本人キャストで上演しました。

これは僕も観ましたが、
正直僕にとっては残念な出来でした。

欧米の演出家の特徴ですが、
原作の小説の文章を、
そのまま読ませる場面が多く、
「名文を名優が読めば、それだけで最上の娯楽になる筈だ」
という理屈は理解出来るのですが、
日本の役者は小説の地の文を、
的確に読むことは殆ど出来ず、
また多くの小説の文章は、
声に出した時のリズムに乏しく、
そうした舞台は概ね、
観客の睡眠を促すだけに終わるのです。

そんな訳で、
僕はこの作品の初演は観ませんでした。
あまり期待をしなかったのです。

ただ、意外に評判が良かったので、
再演はあまり期待はせずに出掛けたのです。

観始めてすぐに、
これは違うぞ、という感じで思わず姿勢を正しました。

今年再演があるので、詳細はお話しませんが、
オープニングで役者が静かに舞台に上がり、
谷崎潤一郎のエッセイの一節をアレンジした台詞を、
静かに語り出し、その背後に闇が広がる辺りから、
もうワクワクして胸が躍ります。

その後、森田芳光の映画「それから」のオープニングのように、
闇の中に大きく深津絵里の姿が映し出され、
それが半紙の欠片となって、
儚く闇の中に消えてゆく場面で、
これは本物だと確信しました。

寺山演劇を継承するような活動をする劇団は多くありますが、
そうした劇団の寺山作品の上演よりも、
僕は数段この「春琴」の方に、
本質的な部分で寺山演劇の優れた点と、
同じものを強く感じます。

敢えてこの作品の欠点を言えば、
役者が「記号化」されていて、
人間としての役者の魅力に乏しいところでしょうか。
深津絵里を期待して行かれた方は、
意外にその出番が少ないことに、
がっかりされるかも知れません。

この作品のテーマは、
現代が失ってしまった「闇」です。

ただ、寺山演劇はこうした場合に、
全ての灯りを消す、
「完全暗転」を実現したのですが、
この作品では残念ながらそれは実現しませんでした。

しかし、それを除けば、
この作品に僕は文句はありません。

集客のある役者さんは、
深津絵里だけなので、
それでこのチケット代はちょっと高いな、
と言う気はしますが、
懐と時間に余裕のある方は是非。
演劇は生ものなので、
今回の上演が以前と同じとは確約出来ませんが、
キャストもメインはほぼ同じなので、
それほど出来が下がることはないと思います。

最後に1つ、
もしご覧になる方は、
原作の「春琴抄」とエッセイの「陰翳礼讃」は、
是非お読みになってからをお勧めします。

たとえば、劇場に入ると、
黒いホリゾントの上の方に、
僅かに金泥が引かれているのですが、
その意味は、
「陰翳礼讃」を読んでいないと、
決して分からないのです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
nice!(34)  コメント(10)  トラックバック(0) 

nice! 34

コメント 10

ゆい委員長

はじめまして。

7月のインフルエンザワクチンの記事、大変興味深く読ませて頂きました。

私は、認定されている副反応だけでなく、脳神経に与える影響など、ワクチンに対して慎重に考えなければいけないと思っています。

最近、ラッセルブレイロック博士の動画インタビューを観て、ステルスウイルスの存在を知りました。

石原先生のステルスウイルスの見解を聞きたく、書き込みさせて頂きました。

過去の記事から、見つけ出せなかったので、もし書かれていましたら、どの記事が教えてくださると嬉しいです。

よろしくお願い致します。
by ゆい委員長 (2010-10-17 14:09) 

fujiki

ゆい委員長さんへ
コメントありがとうございます。
ステルスウイルスというのは、
たとえば、EBウイルスというヘルペスウイルスの一種が、
人間のリンパ球に持続的に感染する様式のことを、
そう呼んでいるようです。
つまり、本来は人間の免疫の敵の筈なのに、
その防御をかいくぐって、
潜んでいる、という意味ですね。
この博士の主張は、
そうしたウイルスの一種が、
ワクチンに混入されているのではないか、
ということのようです。
僕はどちらかと言えば、
そんなことはないのではないか、と思いますが、
確証がある訳ではありません。
by fujiki (2010-10-17 15:29) 

yuuri37

Dear Dr.Ishihara,
ゆっくり過ごすことができましたか。
秋という季節のせいなのか、何をしても寂しさを感じてしまいます。
こんなにたくさんの人がいるのに・・・

by yuuri37 (2010-10-17 16:23) 

nemo

はじめまして。

アンドレア・ロストの記事を検索して訪問しました。
昨年のリサイタル、よかったですね!私も見に行きました。
来年の4月にも、来日してリサイタルがありますね。

Andrea Rost (born June 15, 1962) is a Hungarian lyric soprano.
みたいですよ。

おもしろそうなので、春琴のチケット確保しました。
久しぶりの演劇鑑賞になります。
by nemo (2010-10-17 19:40) 

acco

☆ こんばんは ☆

私は、国文学系の高校に通っていたので、
『陰翳礼讃』は、現代文学と言う科目で「習い」ました。
授業で取り上げられなければ出逢わなかった作品ですが、
正直、自分の感性とタイミングで読みたかったですし、
谷崎って面倒臭い人だなぁ、と思ったのを覚えています。
それから、テスト対策用の教科書ガイドに非凡なセンスを感じ、
谷崎を上回ってしまったかも?と、甚く感動もしていました。
まだ流通していれば、先生にも是非読んで頂きたいのですが、
随筆に解釈を加えるというのは、本来間違ってますね・・・。

・・・また読んでみたくなりました。

by acco (2010-10-17 20:30) 

シロ

御返事ありがとうございました。
安心いたしました。
よっぽどの以上があったら、病院に行きます。
by シロ (2010-10-17 21:23) 

fujiki

yuuri37 さんへ
なかなかゆっくりした気分にはならないですね。
明日からまた頑張ります。
yuuri さんも元気を出して下さい。
by fujiki (2010-10-17 22:11) 

fujiki

nemo さんへ
コメントありがとうございます。
そうですね。
出身はルーマニアではなく、
ハンガリーです。
書いた後すぐ間違いに気付いたのですが、
直し忘れました。
(今直しました)
僕の手持ちの本には1966年生まれと書いてありましたが、
多分62年が正解の気がします。
去年のリサイタルは、
本当に良かったですね。
去年のベストと言って良いくらい。
技術的にもあんなに上手いとは思いませんでした。
来年も非常に楽しみです。
by fujiki (2010-10-17 22:23) 

fujiki

acco さんへ
コメントありがとうございます。
谷崎は子供っぽい人で、
特にエッセイはちょっと幼稚な感じがします。
でも、それがまた今読むと、
良いかな、という気がします。
隣のあまり賢くはない伯父さんに、
説教されているような感じ。
ああいう子供っぽい理屈の破綻したような文章は、
今の作家は逆に書けないような気がします。
言葉は不適切かもしれませんが、
「偉大な白痴」のイメージがあります。
by fujiki (2010-10-17 22:29) 

ゆい委員長

回答ありがとうございます!

まだまだ勉強不足なので、今後も興味深く注意深く、拝見させて頂きますね。


by ゆい委員長 (2010-10-29 11:07) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0