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「とびひ」の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
昨日病院へ行って妻の状態も落ち着いていたので、
今日は唐先生のテント芝居を観に、
井の頭公園に行く予定です。

それでは今日の話題です。

今日は「とびひ」の話です。

「とびひ」はお子さんに多く、
治りの悪い細菌感染が原因の病気です。

その名の通り、
最初に出来た湿疹が、
その周辺にあっと言う間に、
飛び地のように広がる病気です。
大抵治りかけは痒くなるので、
どうしてもお子さんは引っ掻いてしまいます。
すると、その引っ掻いた指が不用意に触れた場所から、
再び湿疹が広がってしまうのです。

一応医学的名称としては、
「伝染性膿痂疹」と呼ぶのが一般的です。

この膿痂疹には、
溶連菌という細菌による、
痂皮性膿痂疹と、
黄色ブドウ球菌という細菌による、
水疱性膿痂疹の2種類があるとされていますが、
実際には両方の細菌の感染が、
混合して起こることが殆どだ、
と考えられています。

黄色ブドウ球菌は、
人間の表皮の細胞を破壊する、
表皮剥奪毒素を持っています。

この毒素を持つ菌が、
小さいお子さんやお年寄りなどの、
薄く弱い皮膚にくっついてある程度の時間が経ち、
皮膚を引っ掻いたり、
皮膚が傷付くような物理的刺激が加わると、
菌が皮膚に侵入して増殖し
皮膚の細胞を破壊して、
そこに「水疱」を作ります。

その水疱が破裂すると、
今度はその周辺に病巣が広がるのです。

一方の溶連菌はぐちょちょのカサブタを作ります。
ジクジクした黄色っぽいカサブタです。
通常最初に溶連菌の感染が起こり、
その痛んだ皮膚に今度は黄色ブドウ球菌の感染が起こる、
というのがハリソン内科学の記載ですが、
日本の教科書には、
両者は別物で、
原因としては圧倒的にブドウ球菌の感染が多い、
というように書かれています。
どちらが正しいのかは、
正直よく分かりません。

原因となるブドウ球菌の多くは、
現在MRSA と呼ばれる耐性菌です。
つまり、通常は有効性のある筈のペニシリンが、
全く効果のないタイプの細菌です。

ただ、院内感染を起こして問題になるMRSA と比較すると、
それほど質は悪くないタイプのもので、
全ての抗生物質が効かないのではなく、
ペニシリンやその仲間のセフェム系と呼ばれるタイプの薬にのみ、
耐性のあるのが特徴です。

通常の普段な健康なお子さんの「とびひ」のうち、
少なくとも3割はこの「それほど質は悪くない」MRSA が、
その原因菌であるとされ、
それが「とびひ」の治り難い、
1つの原因になっています。

その原因は、
勿論抗生物質の普段の乱用です。

現在の「とびひ」を治療する上での、
これが第一のポイントです。

「とびひ」の状態が軽いと、
現在でも「ゲンタシン軟膏」という薬が、
使用されることがあります。

しかし、実際には「とびひ」の原因菌の、
7割以上はこの薬に耐性化していると報告され、
現実には効果のない場合が多いのです。

従って「とびひ」の外用剤には、
耐性菌にも一定の効果のあるタイプの、
抗生物質の軟膏を、
使用しなければいけません。

この目的に通常使用されるのは、
フシジン酸ナトリウムの軟膏(商品名フシジンレオ)や、
それをゲンタシンと混合したもの、
また、ニューキノロンというタイプの抗生物質の軟膏や、
ニキビにも使われるアクアチム軟膏などです。

ある程度広がりのある「とびひ」では、
外用剤だけでは不充分なので、
飲み薬の抗生物質が、
併用して使用されます。

この場合も耐性菌の性質により、
抗生物質の選択は変化するため、
患部の培養検査が最初の時点で必要になります。

初期治療に用いるのは、
ブドウ球菌に治療効果の高い薬剤が望ましく、
耐性菌の少ないホスミシンが推奨されています。
ホスミシンという薬は、
通常感染性胃腸炎以外では、
あまり使用されることがないので、
耐性菌が少ないのです。
ただ、殺菌的な効果のある薬ではないので、
症状が重度の場合には、
殺菌的な抗生物質と、
併用するのが効果的で、
商品名セフゾンなどの、
セフェム系の抗生物質との併用が、
行なわれるケースもあります。
3~4日の使用により、
症状が改善するかどうかをチェックし、
改善傾向がなければ薬の変更を検討します。
商品名ジスロマックはよく使用されますが、
無効例が多いようです。
総じて、風邪症候群で使用されることの多い抗生物質は、
耐性菌が多く効かない場合が多いのです。
その意味では難治性の「とびひ」も、
医原病の性質があるようです。

多くの皮膚のブドウ球菌が、
ペニシリンやゲンタマイシンには耐性になっています。

従って、変更の選択肢は、
セフェム系では比較的ブドウ球菌に強い、
商品名パンスポリンかケフレックス、セフゾン、
カルバペネム系の商品名ファロム、
ミノマイシンやST合剤、
ということになります。
ミノマイシンは皮膚科の先生はよく出されますが、
めまいや吐き気、光線過敏など、
意外に副作用が強く、
僕はあまり好んでは処方していません。

小さいお子さんでの「とびひ」は、
鼻の中にいるブドウ球菌が、
原因の場合が多いと考えられています。

特に鼻の周りがジクジクしていたり、
鼻の周りにかさぶたが付いているお子さんは、
それが「とびひ」の原因となるリスクが高いのです。

これが「とびひ」治療のもう1つのポイントです。

従って、指を清潔にする、
鼻をほじらない、などの指導と共に、
鼻の中とその周囲の除菌が必要です。

「とびひ」を繰り返すケースでは、
鼻の培養を行ない、
MRSA が検出されれば、
商品名バクトロバン軟膏による、
除菌治療を考慮します。

僕は個人的にはアクアチム軟膏の外用と、
ホスミシンの内服を、
初期治療ではまず行ない、
効果がなかったり、
他院での治療で改善のなかった方では、
ファロムの内服に切り替えて、
概ね一定の治療効果を得ています。

今日は「とびひ」の総説でした。

最後に補足ですが、
本記事の内容は僕の経験則の部分もあり、
教科書等の記述とは、
異なる場合もありますので、
その点はご了承の上お読みください。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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モカ

毎日ブログの更新を楽しみにしております。

今日のとびひについて質問させてください。
ブログを見た後に、いつも鼻をいじる子供の鼻を見ると
鼻の穴の中にかさぶたがたくさんあり、ちょっとじぐじぐした様な感じもあります。

もしやとびひでは?と疑っているのですが、鼻の中の場合、
皮膚科と耳鼻科のどちらを受診したら良いのでしょうか?
ご教授下さい。

by モカ (2010-10-17 09:48) 

fujiki

モカさんへ
コメントありがとうございます。
記事の内容は、
あくまで「とびひ」を起こした場合の話で、
お鼻の軽い炎症自体が、
全て問題、という訳ではありません。
ただ、なるべく癖でほじるのは避けた方が良い、
ということと、
指を清潔に保つことは重要だと思います。
(爪を切る、などの一般的な話です)
受診されるなら、耳鼻科で良いと思いますが、
ご心配でしたら、お鼻の細菌培養の検査を、
お願いするのが良いかも知れません。
by fujiki (2010-10-17 10:12) 

モカ

アドバイスありがとうございます。

鼻を触るなと言っても、ついつい無意識のうちに触ってしまってなかなか治らないんだろうなと思います。
ひどくならないうちに耳鼻科へ受診したいと思います。

ありがとうございました

by モカ (2010-10-17 16:14) 

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