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PSA検診についての新しい考え方 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は前立腺癌の検診についての話です。

前立腺癌は高齢男性において多い癌で、
その早期発見のために、
血液のPSA という数値を測る、
PSA 検診が広く行なわれています。

僕も50代以上の男性の方で、
検診を受けていない方には、
年に一度は必ずPSA の測定をお勧めしています。

ただ、この前立腺癌検診には、
色々と問題のあることも確かです。

前立腺癌の診断には、
前立腺の生検という検査をしないといけないのですが、
それは患者さんにも苦痛をもたらす検査である上に、
本来殆ど全身的には問題にならない、
悪性度の低い癌を、
過剰に診断して治療する、
という過剰な医療を生むことになりました。
また、その一方で最近では、
PSA が高くても、
患者さんがご高齢であると、
それだけの理由で殆ど検査をしない、
という極端な方針の医者もいます。
PSA の基準値は一般には4.0ng/ml 未満ですが、
その数値の解釈は、
専門の医者でも個別に違っており、
ガイドラインは存在しても、
必ずしもその通りには診断が行なわれていないのが実状です。

しかし、前立腺癌がご高齢の方で増えていて、
現にその転移の痛みに苦しむ方も多いのですから、
少なくとも転移するような前立腺癌が、
見落とされず、適切に治療をされるような、
検診のあり方が必要になるのではないかと思います。

そこで今年9月の英国の医学誌、
British Medical Journal に、
興味深い論文が掲載されました。
その題名は
「Prostate spcific antigen concentration at age 60 and death or metastasis from prostate cancer: case-control study 」
です。

これはどういう内容かと言うと、
スウェーデンでの一般男性を対象とした、
長期間の研究を利用したもので、
トータル1167人を25年間追跡し、
その後前立腺癌を発症した、
126名と対象したものです。

ポイントは60歳時に測定したPSA の数値が、
その後の経過や前立腺癌の予後を、
予測することが出来るか、ということです。

論文にある図表を見て頂きます。
こちらです。
60歳時のPSA.jpg
図の横軸は60歳時のPSA の数値で、
縦軸は今後予測される癌の発生や転移の発生率です。

60歳時のPSA の数値が高ければ、
それだけその後の癌の発生と、
転移の発生の危険性は高まります。

ポイントはPSA の数値が1以下では、
癌が将来転移するような可能性は、
非常に低い、ということです。
その確率は概ね5%以下です。

このデータにおける、
60歳時のPSA の平均値は、
ほぼ1です。
従って、数値が平均値以下であれば、
将来前立腺癌に苦しむ可能性は、
かなり低い、というように考えられます。

大事な点は、前立腺癌の多くは悪性度の低いもので、
存在はしてもそれで痛みが出たり、
命に関わったりすることは、
確率的には低い、という事実です。

癌の存在する可能性ではなく、
それが今後の人生にとって問題になる可能性を、
25年という長期間で検証した、
という意味で、
これは非常に意味のあるデータなのです。

日本にこうしたデータは存在しないので、
この結果を直接日本人に当て嵌めることは出来ませんが、
参考にすることは可能です。

闇雲に検査をするのではなく、
しかし、その病気で苦しむ方を、
決して1人たりとも見逃さないための、
より効率の良い検診体制が、
望まれるのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 4

シロ

こんにちは。悩んだ時いつもアドバイスくださってありがとうございます。
最近舌癌のことをテレビでやっていました。僕はもともと胃腸が弱く舌に亀裂が入ったりしています。
舌癌になると見た目ですぐにわかるものなのでしょうか?
舌に歯が当たるかと言われればあたっているので、胃腸が荒れてて舌が軽く痛いのかなんだか、よくわかりません。
舌癌はどれぐらいに1人の割合で発症しますか?
歯に舌が当たるからといって必ずなるものではないですか?
いつも我が儘な質問ばかり申し訳ありません。
by シロ (2010-10-15 17:21) 

萩野 尚

PSAのデータを見せて頂き有難うございます。私は既に70歳を越えておりますが、幸いにPSA値は1 以下で過ごしています。しかし、50歳の少し前に急性前立腺炎になり、先輩の診察を受けました。先輩は家内を呼んで前立腺肉腫でダメだと。私は炎症でもPSA値は非常に高くなると主張し、先輩は日本一の触診の名人を呼んで判断を仰ぎました。その名人は即座に炎症であると診断されました。以来、触診の大切な事を忘れずに、自分で行なっています。触診の重要性もご検討下さい。一昨年外科医の同窓生が突然に前立腺癌で急死しました。運命には逆らえません。
前「タケシの舌癌の番組」の内容ですが、殆んど嘘です。あの番組には困りものです!亀裂は舌炎ですし歯が当っていない人などいません!
余計な口出し申訳ありませんが専門医ですので失礼しました。
by 萩野 尚 (2010-10-15 23:41) 

fujiki

シロさんへ
発症の頻度は即答出来ませんが、
舌の痛みや亀裂、荒れは、
通常は癌とは無関係で心配はないと思います。
勿論必ずなる訳ではありません。
あまり番組の内容は気にされない方が良いと思います。
もし、どうしても気になる部分があれば、
口腔外科を標榜している歯医者さんか、
耳鼻咽喉科にご相談してみて下さい。
by fujiki (2010-10-16 08:37) 

fujiki

萩野尚先生
コメントありがとうございます。
確かに診察所見は重要ですね。
すいません。どうしても検査重視の物言いになってしまいがちで、
反省しています。
僕も直腸診は可能な限りは行なっていますが、
正直前立腺の触診に自信はありません。
ただ、泌尿器科にご紹介しても、
以前は必ず触診所見の記載がご返事にあったのですが、
最近はあまりない返書が多くなりました。

僕も前立腺炎で、
50やそれ以上のPSA値を経験しています。
最初は驚いてすぐ紹介しましたが、
今は尿に炎症所見があれば、
そちらをコントロールしてから、
まずは再検の方針としています。
by fujiki (2010-10-16 08:44) 

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