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生の声でしか分からないもの [身辺雑記]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日も診療所は休診ですが、
妻の病院に出掛けます。
昨日は夕方に少し走り、
今朝はいつものコースを走って来て、
いつものようにローソンでパンを買って、
それを食べたりお風呂に入ったりして、
それから今PCに向かっています。

世の中は本当に酷い状況で、
まさかこんな時代に生きるとは思わなかったし、
僕もこんな中で普通に生活していて、
果たして良いのだろうか、
全てを投げ打ってやるべきことがあるのではないか、
と思ったりもするのですが、
「長い物には巻かれたい」という卑怯な気持ちもあるので、
何も言うことは出来ません。

「世に棲む日々」など読んでいるので、
尚更そう思うのですが、
皆んな駄目だよ、引きこもっていられるのも、
今のうちなんだよ、
自分の生きている意味は何だろうなんて、
そんなことを考えることが出来るのは、
もう後ほんの僅かの時間だけなんだから、
自分を捨てて何かをしようと思わなければ、
自分だけ生きることも出来ない時代になるんだよ、
なんて叫んで廻りたい気分にもなるのですが、
お前はどうなんだ、と言われればそれまでのことなので、
1人で悶々としているしかないのです。

それでは愚痴はこれくらいにして、
今日も趣味の話題です。

藝術には、
生で見たり聴いたりしないと、
その真価が分からないものと、
その複製や録画、録音で鑑賞しても、
実際に体験するのと、
何ら変わりのないものとがあります。

たとえば絵画では、
ガラスケース越しにしか見ることは出来ませんが、
ピカソの「ゲルニカ」は実際に目にしないと、
その真価は決して分からない作品だと思いますが、
マドリッドの美術館で、
同じフロアに並んでいたダリの作品は、
画集で目にするのと、
その印象は全く変わりはありません。

ただ、これはダリが劣っている、
という意味ではなく、
ダリの絵は複製で劣化しないことが、
そのそもそもの狙いでもある訳で、
ある種の彼の現代性でもあるのだと思います。

演劇やオペラの舞台の中継技術は、
最近は非常に進歩しているので、
実際に生で観るより、
却って作品の真価が感じられることもあります。

ただ、人間の声のニュアンスというのは、
今でも録画や録音では、
100%はそのままには伝わらないもののようです。

六世中村歌右衛門は、戦後の大女形で、
その舞台の録画も、
比較的多く残っていますが、
その画像を観られた方は、
演技は確かに凄いけれど、
声は何かざらざらしていて、
美声ではないな、
と思われるのではないかと思います。

僕も歌舞伎を観始めたのは平成7年で、
比較的遅かったので、
歌右衛門の生の舞台は、
1回観ただけです。

その時もかなり衰えていて、
後見が介助に付き、
台詞は全てプロンプが最初に喋ったのを、
少し遅れて繰り返すだけで、
プロンプの声の方が、
大きいという有様でした。

ただ、その声は非常に美しくて、
所謂澄んだ声ではないのですが、
深い味わいがあって舞台に良く響き、
これは絶対に録音では再生出来ないものなのだな、
と納得した思いがしました。

マリア・カラスの声は、
あまり良い録音が残っていない、
という点もありますが、
聴いて美しいと思えるようなものではありません。

僕の意見では彼女の声も、
録音機器で再生することは、
困難な性質のものなのではないかと思います。

コロラトゥーラの大御所の、
エディッタ・グルヴェローヴァの声も、
録音で聴いても確かに美声なのですが、
実際に耳にすると、
その音質の響きが全く違います。
大人数で同じ旋律を歌っても、
そこに決して埋没せずに、
特異な波長として観客の耳に届きます。
また、その弱音が、
殆ど囁くような音なのに、
大舞台に見事に響き渡るのです。

マイクを使った歌唱は、
こうした微妙なニュアンスを奪うのです。
従って、マイクを使った舞台であれば、
それはもう録画とその音は、
全く変わりのないもので当然のことなのです。

それではそろそろ病院に出掛けます。

皆さんは良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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コメント 8

midori

先生、奥様のご心配等いろいろとお疲れでしょうけども
元気出してくださいね。
by midori (2010-10-11 18:17) 

のりこ丸

「世に棲む日々」の話題が、出てきて嬉しいです。
本の中の、吉田松陰の言葉、
「今日の読書こそ、真の学問である。」
を、いつも、思い出しています。
純粋な志が、松下村塾生のみならず、
時代を超えて、伝わってきます。
by のりこ丸 (2010-10-11 21:36) 

fujiki

midori さんへ
ありがとうございます。
大丈夫です。
by fujiki (2010-10-11 22:08) 

fujiki

のりこ丸さんへ
コメントありがとうございます。
世の中は確実に幕末より危機的だと思いますが、
それでこの有様は、
本当に無念な思いはします。
by fujiki (2010-10-11 22:17) 

hiiragiyama

実物の絵画を見たときに、自分で予想外の感動を体験したことが何度かあります。
「ゲルニカ」をマドリッド?のピカソ美術館で見たとき、本で見たものとは別物としか思えませんでした。
新宿の安田火災美術館にあるゴッホの「ひまわり」を見た時は涙が出てしまいました。たぶんその時は心に何か抱えていたのかもしれませんが。
できる限りは実物を見たいと思っています。

オペラの舞台はこれまで3回しか見たことあがありませんし、特にひいきの歌手の歌声を生で聞いたことはありません。ずいぶん前に東京、福岡で見ました。
もっぱらCDを聞くだけですが、やはり生の声がいいですよね。

by hiiragiyama (2010-10-11 23:30) 

yuuri37

息子を見ると思います。この子が成人するとき、この国はあるのだろうかって・・・今、自分が凹んでるせいか、今夜は寝顔を見ながら、泣けちゃいました。
by yuuri37 (2010-10-12 00:12) 

fujiki

hiiragiyama さんへ
コメントありがとうございます。
海外の美術館では、
ガラスケースなしに置かれている作品が、
日本で展覧会をすると、
たいていガラスケースに入っているのでがっかりします。
ただ、ガラス越しでも「ゲルニカ」は良かったですね。
僕が見たのは94年頃で、
マドリッドの何たら美術館にあったと思います。
by fujiki (2010-10-12 08:17) 

fujiki

yuuri37 さんへ
ほぼ間違いなくないと思いますが、
それで良いと思う人が多いのでしょうから、
仕方がないことなのかも知れません。
by fujiki (2010-10-12 08:19) 

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