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代替医療と現代医学について [身辺雑記]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日もちょっと雑談的な話です。

現代医学の限界ということが良く言われ、
代替医療をもっと取り入れ、
患者さんにとって、
もっとより良い治療を目指すべきなのではないか、
という論調があります。

鍼灸や漢方はもう半分くらいは、
通常の医療の体系の中に組み込まれ、
医者で真っ向から、
「漢方薬など無効だ」と言う人はおそらくいませんし、
「鍼灸なんて全く効かないからやるだけ無駄だ」
と言う医者も極少数だと思います。

ただ、そのそもそもの鍼灸や漢方薬の体系の中には、
現代医学と称するものと、
相容れない部分を残していることも確かです。

鍼灸には経絡という概念があって、
これは西洋医学の通常の概念とは、
相容れない性質のものです。
生物の身体の中には、
血液や神経、リンパ管といった、
解剖学的に同定出来る構造物とは別個に、
経絡という調節系があり、
鍼灸の刺激は、
その経絡の要点をツボとして刺激するものだ、
というのです。

僕の手元に昭和43年に発行された、
「経絡の発見」と題された本があって、
そこには朝鮮半島のボンハン教授が、
経絡を「ボンハン管」と言う組織として、
解剖学的に証明した、
という報告が、ほぼ事実として語られています。

そこにはDNAを多量に含む「ボンハン液」が流れ、
それこそが身体のエネルギーの実体だと言うのです。
ご丁寧にボンハン管の顕微鏡写真と称するものも記載されています。

面白いでしょ。

今では勿論そんな面白いことを言う人はいません。
ボンハン管などという構造は、
存在しないことが分かったからです。

ただ、この事例は、
西洋医学というものの本質的な部分を、
明らかにしてくれるもののように、
僕には思えます。

鍼灸というものが存在して、
経験的な方法論でツボと称する部分を刺激すると、
痛みや痺れなどの症状が、
一時的にせよ緩和することは事実です。

その事実を西洋医学としては、
取り入れることにやぶさかではないのです。

ただ、問題はその現象の説明が、
経絡という、
解剖学的事実とは相容れないものを
その理論的根拠としている、
という鍼灸側の立場にあります。

つまり、現象は取り入れても、
その理論をそのまま取り入れるのは不味いのです。

西洋医学の枠組みの中で、
それに矛盾しないように同じ現象を説明出来ないと、
それを取り入れることは出来ない、
という、ある種融通の利かない部分が、
西洋医学というものの本質的な特徴だからです。

現在それではどういう説明になっているかと言えば、
あるツボを刺激すると、
ある部分の血流が増加することが確認された、
とか、
自律神経系の活動が、
それにより活発化した、
といった研究データがあり、
それを元に経絡自体は否定しながらも、
鍼灸の効果は認めているのです。

漢方薬についても、
事情は同じです。

漢方の基本的概念には「気・血・水」というものがあり、
このうち「気」については、
経絡と同様に西洋医学にそれに対応する概念はありません。

従ってそのことは敢えて見てみぬ振りをして、
たとえば「六君子湯」という漢方薬には、
食欲増進作用のある、
グレリンという物質を増加させる効果が、
実験的に認められているので、
この薬は食欲不振に効果があるのだ、
というような説明の仕方をするのです。

本来は漢方医学は「気・血・水」の概念なしでは、
その体系として成立しない筈です。

しかし、それをそのまま取り入れては、
西洋医学の体系に矛盾してしまうので、
それは出来ないのです。
従って、現象とそれに見合う当座のデータから、
強引に「西洋医学的」根拠を見出し、
それを前面に掲げてその効果だけを、
都合良く取り込もうとするのです。

問題はもう1つ、この時点で本来の漢方の概念よりも、
西洋医学的に得られたデータの方が、
意味付けとしては上になる、
ということです。
「気」が云々、という説明よりも、
「グレリン」が上がって云々、という説明の方が、
より上位のものとして評価されるのです。

代替医療の中でも、
もう少しその独自の概念に対する執着が強いと、
それは一種の信仰に近付くので、
現代医学とは相容れない部分が、
より先鋭化し、その代替医療の側は、
その教義を捨てて、現代医学に取り込まれることを拒否します。

そして、むしろ所謂西洋医学の方が誤りであり、
自分達の医療の体系の方こそ、
真実である、というような主張が、
概ね展開されます。

この場合、観念的な理論では、
西洋医学は代替医療に対して分が悪いのです。

何故なら、医学を含め、
ルネサンス以降にヨーロッパで成立した、
所謂科学技術は、
ある種の仮定から出発していて、
その仮定自体は未だに証明されてはおらず、
確信を持って、
「その仮定はそもそも誤っている。我々の言う概念こそが、
それに代わる真実なのだ」
と断定的に言われれば、
それに反論する言葉は持たないからです。

古典物理学の例を取りましょう。

この話は遠い昔、
予備校で物理の坂間先生に聞いたものなので、
その真偽のほどは僕に訊かないで下さい。

ニュートン力学においては、
その仮定の本質的な部分は、
「絶対静止」という概念で、
この宇宙の何処かに、座標軸の元となる、
止まっている一点が存在する、
という仮説です。

この仮説はもとより証明はされないのですが、
そのあやしげな仮説の上に、
物理学の体系が積み上げられ、
その結果として巨大なビルが建ち、
ロケットやミサイルが空を飛んでいます。

今の時点で「物理法則が嘘だ」と言う人はいないでしょう。

しかし、その本質的な証明は未だにない訳で、
「私は霊能力者で宇宙には絶対静止はない、ということを知っている」
と言われれば、それに反論する理論的な言葉はないのです。

証明はあくまでその仮定の結果にある訳で、
古典物理学の計算式によって、
実際にミサイルが飛んで目標に当たる、
と言う事実がそれを証明しているのです。

医学においても、
「病気などという概念はそれ自体が誤りだ」、
と言われれば、
「はい、そうですか」
と言う以外にはなく、
問題はその仮定に基いて積み上げられた治療により、
その患者さんが治ったり改善したりしたかどうか、
という結果にしかないのです。

代替医療の枠組みは、
特に先鋭で西洋医学との対決姿勢の強いものでは、
むしろ宗教に近いので、
その概念の根本には揺るぎがなく、
それは疑うことすら許されないような真理です。

ただ、真理である分閉鎖的であり、
その発想は硬直していて、
自由度は少なく、その真理が否定されれば、
全ては無に帰してしまいます。

現代医学の強みは別に真理を前提にはしていないので、
仮にそもそもの仮定が誤っていれば、
それを新たな仮定に修正し、
再びそこからデータを積み上げて行けば良いのです。

その節操のなさこそが、
現代医学が今日ある強みなのだと思います。

僕は個人的には漢方の理屈も、
鍼灸の理屈も、
それなりに信じるに値するものを持っていると思います。
ただ、その用語やその理論の体系は、
その成立した時代の影響を強く受けているので、
それを現代に咀嚼するには、
また別の概念や別の言葉が、
必要となるのではないかと思います。

ある代替医療と現代医学との対決が、
報道等でも取り上げられることの多い昨今ですが、
医者の側ももう少し自分達の立ち位置を、
冷静に見た上で発言するべきだと思いますし、
代替医療の側の皆さんや一般の皆さんも、
何故歴史的にこのあやふやな西洋医学のシステムが、
広く認知されるようになったのかを、
もう一度認識するべきではないかと思います。

この社会が陥っている多くの権威の失墜と混乱とが、
医療にも波及して、
多くの病院や研究施設や学会の権威が失墜し、
そこに目を付けたある種の利潤追求行為が、
代替医療と言う隠れ蓑を着て、
跳梁跋扈するような事態には、
なって欲しくないと思います。

皆さんはどうお考えになりますか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 7

midori

「この世界には、わからないことのほうが多い」
ということを、現代文明に生きる人は忘れかけているのでしょう。
我々も、現在わかっている(とされている)ことを前提としてしか日々生きられないわけで、でも「科学を鵜呑みにはしないぞ」と心にとどめておくことが大事なのだと、私個人的には思っています。

by midori (2010-09-16 13:04) 

A・ラファエル

お互いが協力し合うと、
すごく発展すると思うのに対立がやまないですね。
by A・ラファエル (2010-09-16 17:07) 

fujiki

midori さんへ
コメントありがとうございます。
そうですね。
適切なバランス感覚が必要なのだと思いますが、
それは難しいですね。
by fujiki (2010-09-17 08:35) 

fujiki

A・ラファエルさんへ
コメントありがとうございます。
権力闘争的な生臭さがあるのが、
何か嫌だな、という気がします。
by fujiki (2010-09-17 08:37) 

tondemo-igk

こんにちは、初めてコメントします。名前がtondemoであるから、といって主張していることがトンデモ(疑似科学)であると思わないでくださいね。退会しましたが、質問サイトであるOkWaveで使用していたIDなので。

現代医学と代替医学の問題、とくに鍼灸や電磁気など薬を使わない物理療法についてなのですが、それらは現代医学によって多くは否定されてきましたが、事実であり現代医学をはるかに上回る効果があります。しかし、これまでは確実に再現できる条件が不明であり、その現象から法則を発見し、原理を説明することができなかったのです。そのために、二重盲検法なんて、物理法則とは無縁の検証法によって否定されてきたのです。物理的作用を加えて治癒したのであれば、物理法則によって解明されるべきでしょう。陰陽五行論や経絡は、思弁的説明であり、排除すべきです。同様に生命エネルギーなんて言葉も。そのうえで、物理的治癒させることは可能であり、きわめて有効です。これについての意見は、例えば、「現代医学 科学的」など、文中の言葉を手がかりに検索していただければ。

小学生でも分かるような治療法則を一つ知れば、簡単な方法で、多くの病気は即効的に治癒可能です。うつ病も、喘息も、肝炎も、耳鳴りや関節炎が、同じ方法で、一日で治癒なんてことも。

現代医学は「モノ」についての医学でしたが、その大部分は「コト」の医学に転換するべきであると考えます。
by tondemo-igk (2010-12-18 18:07) 

fujiki

tondemo-igk さんへ
ご一読ありがとうございます。
by fujiki (2010-12-20 08:45) 

tondemo-igk

Re.コメントを拝察すると、私が言っていることはご理解いただけなかったようですね。しかし、うつ病や喘息、肝炎などが簡単に治癒するということは事実であり、そのような治療理論は既にあります。残念ですね。
私のコメントは、これで終わりとします。


by tondemo-igk (2010-12-22 03:51) 

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