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向精神薬への注意喚起を憤る [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から介護保険の意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。

オペラ座のデセイ様は悪くなかったです。
まあ、全盛期と比べれば高音は出ていないし、
お顔のしわは見ていて辛いのですが、
人間なのだから仕方がありません。
後半の演出は彼女自身の考えが、
多く入っていると思います。
寝転がって歌ったりするのは彼女の得意で、
アリアの終盤に掛けてのちょっとした小細工も、
彼女自身の考えだと思います。
ピドという指揮者は好きではないですが、
デセイ様のお気に入りなので仕方がありません。

話は飛びますが、昨日の「竜馬伝」で、
西郷隆盛を高橋克美が演じていました。
意外と悪くなかったですね。
彼の悲劇的最後から逆算した役作りで、
薩摩一国主義をさらりと示したり、
豚姫の話をちらりと出したり、
長州へ1人で行くと言って、
後年の征韓論を暗示したり、
台本は手が込んでいるし、
それを理解した演技も悪くありませんでした。
ただ、こういう趣味的な工夫は、
あまり一般受けはしませんね。
あとビジュアルがイメージと違うのは、
これはもうどうしようもありません。
演じて違和感のないのは、
かつての武蔵丸くらいですもんね。

すいません。
余談が長くなりましたが、今日の話題です。

先週腸の煮えくり返るような、
こんなニュースがありました。

【向精神薬、自殺前に過剰服用も 厚労省が注意喚起】
精神科を受診したあとに自殺した患者が、処方された向精神薬などを自殺直前に過剰服用していたケースが多いとして、厚生労働省は24日、都道府県や日本医師会など関係団体に、自殺傾向のある患者に向精神薬を処方する場合は、投与日数や量に配慮するように求める通知を出した。同省の担当者は「向精神薬の処方は医師によって異なる。経験の浅い精神科医が必要以上処方してしまうことも多く、慎重な処方を徹底してほしい」と話している。

厚生労働省の研究班で、
自殺をされて亡くなられた方の遺族にお話を聞いたところ、
複数の事例で自殺時に過量服薬があり、
それが自殺行動を後押しする道具となった可能性がある、
と指摘されたのです。

このこと自体に関しては、
僕は今日議論するつもりはありません。
当該のレポートもまだ読んでいないので、
可能であればそれを読んだ上で、
その感想をまた記事にしたいと思います。

今日問題にしたいのは、
「向精神薬の処方は自殺の道具となりうる」
という認識を持ちながら、
厚労省は睡眠剤の14日間という処方の制限を撤廃し、
30日分の処方を可能にするという決定を、
2年前に行なっている、と言う事実です。

つまり上の記事では、
必要以上に処方しないよう、
注意喚起がなされており、
その文面を読む限り、
如何にも厚労省の担当者は、
以前からその危険性を感じていたように思われるのに、
その一方でたった2年前にその同じ厚労省が、
それまでは14日間以内しか処方出来なかった薬を、
その倍の30日間処方出来るように、
規則を変えたのです。

もし向精神薬というものが、
自殺の道具となる危険な薬であるのなら、
その処方は最小限度になるように、
規則を作るべきではないでしょうか?

行政の二枚舌の最たるものがここにあると、
僕は思えてなりません。

向精神薬とは何でしょうか?

ちょっと紛らわしい言葉ですが、
これは医学用語というよりは法律用語としての言葉です。

麻薬及び向精神薬取締法という法律があり、
そこに第1種から第3種までに分類されて、
一覧表になっている薬剤が、
向精神薬です。

つまり乱用や違法な譲渡、犯罪への使用などが問題となるため、
他の薬以上に厳密な管理が必要となる薬剤、
という意味合いです。

第1種が一番厳しい管理の薬で、
皆さんにもおそらくお馴染みのリタリンという薬が、
この区分に当たります。

第2種はラボナや痛み止めのペンタゾシン、
そして睡眠剤のサイレース(ロヒプノール)が含まれます。

そして、第3種はサイレース以外の、ハルシオン、マイスリーなど、
殆どの睡眠導入剤がそこに含まれ、
更にはワイパックスやセルシンなどの安定剤も、
この区分に含まれています。

この区分けは色々な意味で不自然なものです。

まず、どうしてサイレースだけが、
他の睡眠剤より厳しい管理区分に含まれているのでしょうか?

おそらくは歴史的な何らかの理由があるのでしょうが、
薬理学的にユーロジンやハルシオンと違いがあるとは思えず、
はなはだ奇怪な分類です。

また、ワイパックスやソラナックスは含まれているのに、
デパスは入っていません。
このことにより、
ワイパックスの処方は30日を超えては認められないのに対して、
デパスは1ヶ月を超える処方にも縛りはないのです。

デパスはワイパックスやソラナックスより安全で、
依存性の少ない薬でしょうか?

そんなことは絶対にない、
というのが臨床での僕の実感です。

この法律における向精神薬は、
以前には14日以上の処方は認められなかったのです。
それがいつの間にか次々と解除され、
最後に残った睡眠剤も、
2年前に30日間の処方が可能となりました。

病名や患者さんの状態による制限もなく、
長期処方が可能となるのであれば、
そもそも取締法の指定から、
外す方が筋ではないか、と僕は思います。

一方では物凄く危険な薬のような言い方をしながら、
何故一方では処方の期間の制限を、
次々と撤廃するのでしょうか?

患者さんの利便性のため、とか、
色々ときれいごとは並べていますが、
要するに医療費削減のための手段であることは、
ことの経過から見れば明らかです。

つまり安全性より経済原理を優先させたのです。

皆さんは睡眠剤の処方は、
海外ではもっと緩やかなように、
思われるかも知れませんが、
これは国によっても様々で、
シンガポール在住の方から聞いた話では、
シンガポールでは睡眠剤の14日を超える処方は、
どんな理由があろうとも認められないそうです。

つまり、睡眠剤を1ヶ月もまとめて処方することは、
決して世界の常識などではないのです。

処方の制限を撤廃すれば、
当然1回の処方の量は増えます。
そうした行政をしていながら、
一方で過量服薬を医者のせいにして戒めるなど、
厚労省の担当者は一体何枚の舌を持つ、
水木しげる先生に教えてあげたいような怪物なのでしょうか?

こんな注意喚起をするくらいなら、
早く向精神薬の処方量の上限を、
引き下げる決定をするべきなのです。

それから向精神薬の区分については、
もう一度しっかりとした検討が必要だと思います。

皆さんはどうお考えになりますか?

最後に補足しますが、
僕は決して医者の処方に責任がないと言うつもりはありません。
医師が処方した薬が自殺に使用されたとすれば、
その最大の責任は処方した医者にあるのは、
これはもう当然のことです。
ただ、この問題は決して医者に、
「お前ら気を付けろよ」
と言えばそれで解決するような単純な問題ではありません。
また、過量服薬と自殺とを、
安易に一緒くたにして論じるのも、
乱暴な意見ではないかと思います。

その辺の問題はまた後日取り上げたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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midori

そういえば私のメンタル面の主治医は『デ』も『ワ』も
ゼッタイに2週間分までしか出してくださらないですね.
というか,薬に関してはホントに最低限の処方しかしてくれません.
前に一度,調子が悪くて頓服の薬を結構飲んでしまい足りなくなって,
予約日を前倒しして「薬いただきに来ました」と言ったら
「あなたは,人よりも薬のほうが効くの?」と訊かれて絶句したことがありました.
薬の力をあんまり信用していない人みたいです.
by midori (2010-06-28 10:26) 

ひろみ

以前片頭痛でかかっていた心療内科からデパスを処方されていました。デパスを服用した後のなんともいえない心地よい気だるさを今も覚えています。もう服用しなくなって何年もたちますが。
by ひろみ (2010-06-28 13:32) 

永遠の通りすがり

先生のこういった内容のblogを読むと、いつも何となく宮本政於の『お役所の掟』を思い出してしまいます。
by 永遠の通りすがり (2010-06-28 14:09) 

fujiki

midori さんへ
コメントありがとうございます。

僕はそういう考え方の方が、
基本的には正しいと思います。
by fujiki (2010-06-28 19:18) 

fujiki

ひろみさんへ
コメントありがとうございます。

デパスは他の安定剤にはない、
幾つかの特徴を持った薬で、
決して悪い薬ではありません。
ただ、依存性は強いので、
その点には注意が必要だと思います。
by fujiki (2010-06-28 19:19) 

fujiki

永遠のとおりすがりさんへ
ごめんなさい。
あれは僕はあまり好きではないのです。
ただ、その拒否反応には、
嫉妬の感情が入っているのだと思います。
by fujiki (2010-06-28 19:22) 

九子

はじめまして。
先生の主張はまったくそのとおりで、はじめnice!を3つくらい付けようと思ったのですが、それは出来ないのですね。(新参者です。)
不勉強なので表を鵜呑みにして「サイレースだけが特別なんだ。」とずっと思っていました。目からウロコでした。m(_ _)m
これからも先生のブログをずっと読ませて頂きます。
それにしても皆様のコメントにもいちいち御返事されてびっくりしています。どうぞご無理の無いように・・・。
by 九子 (2010-06-29 13:21) 

liz

はじめまして。

ブックマークをし、よく読ませて頂かせております。
とても良い勉強になります。
by liz (2010-06-30 01:53) 

Liz

度々申し訳ございません。

いままで書き込みをしようと努力してましたが、
『認証コード』のWが,どう見てもbdに読めて、
何度打っても書き込みが出来ないでおりました。

ところで石原先生のBlogより、次のタイトル
『抗うつ剤の併用をどう考えるか?』の記事URLを、
わたしどものBlogの『クロルプロマジンとアレルギー』の
書き込みの際に使わせて頂きました。
その記事の直URLは次の通りでございます。
http://blogs.yahoo.co.jp/zimmersisi/1021857.html

ご挨拶が前後してしまい大変に申し訳ございません。

今後とも何卒よろしくお願いを申し上げます。
by Liz (2010-06-30 02:19) 

fujiki

九子さんへ
コメントありがとうございます。

そう言って頂けると非常に嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2010-06-30 06:14) 

fujiki

Lizさんへ
コメントありがとうございます。

またご丁寧に御連絡頂きありがとうございます。
医療のシステムは、
変わらなければいけないのだとは痛感しますが、
その混乱にこれから巻き込まれるのかと思うと、
不安が先に立つのが正直なところです。
 
これからもよろしくお願いします。
Lizさんのサイトにもお邪魔させて頂きます。
by fujiki (2010-06-30 06:26) 

Liz

こんにちは。

:: デパス ::
わたしは処方を受けたことは有りませんが、PTSDを発症以前に
通院をしていた例の大学病院付属クリニックの元主治医曰くも
デパスは依存症になりやすいと仰られてました。

ところで、わたしはまだ記事にはしておりませんが、
パキシルを処方され,その服用から悪夢を見ることが多くなり
それを元主治医に診療の際お話をしたのですが, そのお答えも
得られませんでした。
by Liz (2010-06-30 22:37) 

fujiki

Liz さんへ
コメントありがとうございます。

悪夢のメカニズムははっきりと分かっている訳ではないので、
推測にはなりますが、
セロトニンの比較的急激な上昇が、
脳内のバランスを崩して、
睡眠中に一部の神経を活発に活動させ、
そうした症状の原因となることは、
考えられるのではないかと思います。
by fujiki (2010-07-01 14:46) 

通りすがり

初めまして。
14日分に戻してほしいというのは、患者のためと言いながらそれこそ医者の利益のためではないのでしょうか?
14日分にしたからといって、患者の薬の溜め込みが減ると思いますか?
私はそうは思いません。
一番の問題は、副作用や離脱症状ばかりの、何年飲み続けても一向に良くならない薬を、医者がこれを飲まなければもっと悪化すると言って飲ませ続けていることではないのでしょうか?
by 通りすがり (2010-08-03 04:34) 

fujiki

通りすがりさんへ
御一読ありがとうございました。
by fujiki (2010-08-03 06:15) 

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