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アラジン1とアレルギーの話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
紹介状など書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

6月7日にこんなニュースがありました。

【アレルギー反応ほとんど抑制…アラジン1発見】
花粉症やアトピー性皮膚炎などさまざまなアレルギー反応を抑え込むたんぱく質を、○○教授らが世界で初めて発見した。このたんぱく質は、アレルギー反応を引き起こすヒスタミンなどの物質を生産して放出する「肥満細胞」の表面にあった。○○教授らはこれを人間とマウスからみつけ、「アラジン1」と命名した。

論文は世界的な科学誌、
Nature Immunology の今月6日号に掲載されています。

花粉症はどのようにして起こるのでしょうか?

その主な原因は、特定の花粉に結合する性質を持つ、
IgEというタイプの免疫グロブリンです。

免疫グロブリンは一般に抗体と呼ばれ、
身体を外敵から守る働きをしています。

IgE抗体は寄生虫が身体に侵入することを、
防ぐ役割を持っていることが分かっています。
しかし、スギなどの花粉に対しても、
それに特有のIgE抗体を産生します。

スギの花粉は寄生虫でしょうか?

どうもそんなことはなさそうです。

それでは何故スギの花粉に対して、
IgE抗体が出来るのでしょうか?

それはまだ分かってはいないのです。

衛生仮説という考え方があって、
これは昔のような不潔な環境がなくなり、
寄生虫がいなくなったことにより、
IgEが本来の役割を失い、
花粉や食品にくっつくようになったのでは、
というものです。

ただ、それは何となくお話めいていて、
説得力に欠ける、という気はします。

IgEは肥満細胞という白血球の1種にくっつく性質があります。
言葉を変えれば、肥満細胞にはIgEの受容体が沢山存在するのです。

そのIgEにはスギの花粉にくっつくものや、
ダニの蛋白質にくっつくものなど、
多くの種類があるのですが、
スギに対するIgEだけが異常に増えたような状態に、
肥満細胞がなっていると、
その細胞は非常にスギ花粉に敏感な状態になっています。

そこに沢山のスギ花粉が襲来すると、
それが一気にスギ花粉に敏感な肥満細胞にくっつきます。

これが1つのシグナルになって、
肥満細胞はその中に蓄えていた、
分泌か粒をどばっと放出します。
その主成分はヒスタミンで、
これがかゆみや鼻水の主な原因となるのです。

IgEの生い立ちを考えると、
これも随分と変ですよね。
IgEは身体を寄生虫から防御するためのものの筈ですが、
鼻水じゅるじゅるで身体が痒くなることが、
どうして寄生虫症の予防になるのでしょうか?

勿論他にも多くの物質を肥満細胞は分泌し、
その中には他の白血球を増やしたりと、
予防に働く部分もあります。
たとえば好酸球という白血球は、
インターロイキン5という物質の刺激により活性化され、
寄生虫を殺菌する働きをしています。
しかし、アレルギー反応で、
必ずしも常に好酸球が多い、という訳ではありません。

さて…

最初のニュースに戻りましょう。

今回同定されたアラジン1(Allergin-1 )は、
肥満細胞の膜を貫通している蛋白質です。

この蛋白質は膜の表面では、
IgEの構造にとても良く似ています。

つまり花粉などをくっつけるような部分に似ているのです。
その部分が実際に何にくっつくのかは、
どうもまだ分からないようなのですが、
そのアラジン1のある細胞は、
中のヒスタミンを放出し難いのに対して、
その蛋白質の遺伝子を取り去ったネズミでは、
非常にヒスタミンが放出され易くなった、
というのが、今回の発見の概要です。

つまり安易に肥満細胞が暴発しないように、
安全弁のような働きをしているのがアラジン1で、
それが何らかの原因で、
作用し難くなった状態が、
重症のアレルギーなのではないだろうか、
という理屈です。

この発見自体は、意義のあるものだと思います。

ただ、これはアレルギーという巨大な謎の、
ごく一部のステップを絵解きしたものに過ぎず、
それが全体の中でどれだけ重要な働きをしているのか、
と言う点については、まだ未知数なのではないか、
と思われます。

発表された先生は、

「アラジン1の働きを高める薬剤が分かれば、ヒスタミンなどの放出自体を抑え込める。殆どのアレルギー反応を根底から抑えられるので、これまでよりはるかに有効な治療が出来る」

と治療に直結する発見であることを強調されています。
確かに現在の技術では、
そうした薬剤自体の開発は、
それほど困難なものではないでしょうが、
その効果については、
アレルギーの本態が充分に解明されていない現状では、
あまり甘い期待は禁物だ、
という気がします。
まだネズミの研究に過ぎず、
人間にも同じ蛋白質のあることは分かっているけれど、
その作用がネズミと同じ保証はない、
という点にも注意が必要です。

複雑な生体現象では、
その反応を進める遺伝子群もあれば、
当然抑制する遺伝子群も存在する訳です。
ヒスタミンの放出を抑制する役割の蛋白質が見付かったとしても、
それを刺激することで、
何処までアレルギーという複雑怪奇な反応が抑えられるのか、
他に身体にとって弊害は起こらないのか
(単純に肥満細胞の役割を押さえ込むとすれば、
おそらく多方面で不具合はありそうです)、
7、8年して鳴り物入りで新薬が出て、
使ってみたら酷い消化器症状ですぐに使用中止、
みたいなことではないかしら、
と思えなくもありません。

ただ、アラジン1という名前は、
何かやぼったくてスマートな感じはないですね。
せっかくだからもうちょっと気の利いた言葉を作ればいいのにね。

ごめんなさい。余計でした。
「素晴らしい」研究に水を差すつもりはありませんので、
どうかお許し下さい。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 7

yuuri37

わ~すご~い発見!!
がしかし何故アラジン1・・・なんだかなあ。。。トホホ・・・な感じ
考えただけで気が遠くなるような時間と労力・・・頭が下がります。
by yuuri37 (2010-06-11 01:35) 

fujiki

yuuri37 さんへ
そうですね。
あまり茶化すようなことは良くないのですが、
多分「アラジンと魔法のランプ」は頭に有ったのだろうな、
と思うと、何となく脱力する感じはあります。
by fujiki (2010-06-11 08:12) 

yuuri37

魔法をかけられたらっていつも私も思うので、渋谷教授もそんな方なのかしらね。。。だとしたらちょっと好きかも^^;
by yuuri37 (2010-06-11 12:12) 

みぃ

こんばんは。
たぶん、allergenから、想像した造語なのでしょうね。
そうすると、納得する気が致します。
いずれにしろ、主人始め、下の子がアレルギーで苦労している現在。早めの解決方法が、見つかる事を祈っています。
世の中には、光アレルギー(紫外線アレルギー)やイギリスの少年の様に、3種類以外の食べ物をアレルギーで摂取できないうえに、海の匂いにまで反応する重症なアレルギー患者がいるそうです。 彼は殆どの物に反応して、命に関わるアレルギー反応を起こす為に、主治医の先生はその少年を診察に訪れる時は、整髪料は勿論、全てに気を付けているとか…。。
アレルギーの怖さを感じざるを得ません。
by みぃ (2010-06-11 23:23) 

fujiki

みぃさんへ
コメントありがとうございます。

アレルギーは確実に現代という時代と、
結び付きのある現象だと思いますが、
その解明はまだ道のりは遠いのでは、
という気がします。
by fujiki (2010-06-12 08:17) 

サワディ

今回、渋谷教授がアラジン1を発見したニュースを聞いて早速アポをとりお会いしました。私の母が開発した抗アレルギー剤の動物実験データ(東大、順天堂大)を見てもらいました。喘息、花粉症が4日間で抑制するデータを見て強い興味を抱きましたが、『実はこのアラジン1は製薬企業が特許を持っているので使用できない』と言い訳をしていました。
それから、あなたの新薬は『アラジン1以外の細胞が抑えているのかも知れない』と、弱気な発言でした。今、現在、成分特定し作用メカニズム試験も控えてますのでアラジン1で正解なのか楽しみです。
発表するならもっとしっかりしたデータを取ってからにして欲しいですね。
ちなみに、私の新薬は、近日中に発表します。
by サワディ (2012-01-09 12:43) 

fujiki

サワディさんへ
ご一読ありがとうございました。
研究うまく行くと良いですね。
by fujiki (2012-01-10 08:16) 

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