SSブログ

麻疹の抗体価とワクチンの適応についての一考察 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

診療所に大人の患者さんがお見えになり、
これまで麻疹(はしか)に罹ったことがないので、
免疫があるかどうか調べて欲しい、
と言われることがあります。

ワクチンを以前打ったのかどうかは、
覚えていない、と言われます。

こうした場合には、
通常採血をして、
血液の麻疹に対する抗体の値を調べます。

以前麻疹に罹ったことがあるか、
以前ワクチンを打っていて、
その効果が充分に残っていれば、
血液の麻疹に対する抗体の値は、
上昇している筈です。

抗体が上昇しているということは、
麻疹のウイルスを迎え撃つ準備が、
身体の免疫連合軍には出来ている、
ということになり、
麻疹のウイルスが鼻の粘膜から身体に侵入しても、
ウイルスが血液中で増えることはなく、
要するに麻疹には罹りません。

ただ、問題はどの検査法による抗体価が、
どのくらい上がっていれば
その方は今後麻疹には罹らないと言って良いのだろうか、
という点にあります。

昨日お話したように、
麻疹は怖い病気です。
抗体価の数値が、ウイルス血症を防御する水準に満たなければ、
ワクチンの接種をお勧めする、
ということになります。

通常、日本で行なわれている抗体価の測定法には、
NT法(中和法)とHIもしくはPA法、
そしてEIA法の3種類があります。

このうち、おそらく現在最もよく行なわれているのが、
EIA法(酵素免疫測定法)です。

ただ、この数値の意味合いには、
ちょっと注意が必要です。

中和抗体というのは、
直接ウイルスの増殖を阻止している反応を見ているので、
感染防御を直接見ているということで、
陽性であれば、少なくともその時点では、
麻疹には罹らない、と言えるのです。

しかし、EIA法の抗体価は、
それが基準として陽性であっても、
本当に感染を阻止出来るレベルであるのかは、
直接的には判断出来ません。

一般にEIA法による麻疹の抗体価(IgG抗体)は、
4.0以上が陽性とされています。

しかし、抗体価が4.0を超えていても、
麻疹に罹ることがあるということが、
実際の検討では明らかになっています。

たとえば、2007年の春に都内の大学生を中心とした、
麻疹の大流行がありましたが、
この時は重症の患者さんの中にも、
病初期の状態において、
抗体価が4.0を超えている方が、
多く含まれていた、と報告されています。

つまり、この数値の判断には、
臨床的検討が必要なのです。

僕の以前読んだ本の中で、
抗体価が8.0以上であれば、
感染を阻止出来る可能性が高い、
と書かれているものがありました。

それで僕は概ね8.0未満を、
ワクチンを接種する必要性があり、
と判定していました。

ところが…

2009年の2月に、
日本環境感染学会という学会から、
「院内感染対策としてのワクチンガイドライン」
という資料が刊行されました。

これは各種感染症において、
感染予防のためのワクチン接種をどう考えるか、
という基準を示したもので、
それによると、麻疹のEIA抗体価は、
16.0未満であればワクチン接種を考慮する、
というように記載されています。
これは医療関係者の院内感染予防のためのマニュアルなので、
かなり底上げされた数字ではあるのですが、
その根拠には、
16.0を超えていれば、
ウイルスに接触しても、
速やかに体内で抗体が上昇する、
というデータが存在するようです。

2009年の別の文献によると、
EIA抗体が12.0以上であれば、
感染が防御出来るレベルであるが、
12.0未満では追加のワクチン接種が望ましい、
という見解が示されています。

ガイドラインの中では、
水痘は4.0以上、風疹は8.0以上でOK、
とされているので、
麻疹の感染防御には、
より高いレベルの抗体価が必要である、
という考えのあることが分かります。

実際にこれらの病気に罹ると、
どのくらい抗体価が上昇するものなのか、
僕の乏しい経験の中からお話しますと、
水痘のケースでは、
発疹の出た時期には3.0という数値で、
1ヶ月後の回復期には34.7というデータがあります。
おたふくでは耳の下の腫れが確認出来た時点で3.2で、
回復期の1ヶ月後に19.1となっていました。
麻疹の方の場合、発疹が出現した時点で5.5、
2ヶ月後の回復期で94.0というデータが残っています。
また別の事例では、発疹が出現した時点で4.5、
1ヶ月後の回復期で64.5という数値でした。

つまり、抗体価の上昇には個人差もあると共に、
病気による上がり易さの差もあるようです。
それなのに検査の陽性の基準は一律に、
4.0以上とされているところに、
大きな問題がありそうです。
実際に麻疹に罹ると、
抗体価は100近くまで上がることがあるのですから、
4.0以上で抗体があると考えるのは、
如何にも臨床を知らない判断だ、
という気がします。
(修飾麻疹の場合は抗体はより高い数値を取る、
という話もあるので、厳密に言えば、
少数例での数値の解釈は微妙です)

最近の僕の判断としては、
抗体価が12.0未満ではワクチンの追加接種を強く勧め、
12から16の間の数値では、
その方の状況を考えて、
どちらかを選んで頂く、
という方法を取っています。

僕は昨年の後半の時期になるまで、
2月のガイドラインの存在を知りませんでした。

だから末端の医者は無知で勉強不足なのだ、
と言われればその通りなのですが、
無数の学会や研究班があり、
様々の活動をしている中で、
真に有用な情報を、
臨床の末端まで行き届かせるような対策が、
どうも取られてはいないのではないか、
というように思えてなりません。

このことも、日本の医療の不幸だと僕は思います。

今日は麻疹の抗体価の問題点についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(34)  コメント(10)  トラックバック(0) 

nice! 34

コメント 10

アキコ

以前、MRワクチンの追加について質問したものです。
6歳近くになってから(昨年の暮れ)熱性痙攣をおこした
ので、予防接種が心配、というご相談をしたときに、
無料で接種できるぎりぎりまで待ってうつのがいいのでは、
その際にかかりつけのお医者さんに相談して、というお返事
をいただいたものです。
その節はありがとうございました。

実は救急病院へ行くことはあっても、かかりつけ医を
もっていなかったので、息子の痙攣について、
健康状態を相談できるところがなく、いざ接種を、
となると少し心配になってきました。

小学校に入ってしまうと有償になってしまったり、
補償の関係もあるとうかがいましたが

もう少し成長して、39度くらいの熱では痙攣を
起さなくなってから予防接種を受けたい、と思った
のですが、少し神経質になりすぎでしょうか。

または、麻疹が周囲で流行りだしてから予防接種を、
というのは抗体の関係上遅いでしょうか。

お忙しい中質問ばかりですみません。
お時間のあるときに教えていだけますか。
by アキコ (2010-06-03 10:12) 

みぃ

抗体とは不思議なものですね。
私は子供の頃、何度結核の予防接種をしても、結核のツベルクリン検査がいつも陰性にしかなりませんでした。  結局、6年生の時に、何度予防注射をしても陰性になる人は、免疫力が有る人なんだから、注射しなくても大丈夫だと言われた記憶が有ります。
長男や二男の頃の生ワクチンは、出来の良くない時代だったらしく、自分の子供から、移される親が増えていると言うニュースが有りました。 抗体が有るかどうか、早めに検査を受けさせたいと思っていましたが、・・・抗体検査も必ずしもまだ確立されてはいないと言う事なのでしょうか。
by みぃ (2010-06-03 20:43) 

RIO

先生昨日はお忙しい中お答えいただきありがとうございました。
8歳の長男は3歳のときに水痘の予防接種を受けていたのに今回かかってしまいました。予防接種の種類でも抗体のつき具合は違ってくるのでしょうが、読んでいて個人の差もあるんだなあと実感しました。
昨日お答えいただいた3歳の次男は予防接種していません。今夜発熱してしまいました。長男から移った水痘か、お腹の風邪か様子を見ているところです。
先生もどうぞお体大切になさってください。これからも勉強させてください。
by RIO (2010-06-03 22:33) 

シロ

こんばんは
百日咳が周りではやっているのですが、抗体があるかの検査ってできますか?
あと大人向けの予防注射ってありますか?
もうひとつ6年ほど前1ヶ月咳が止まらないことがあり、耳鼻科を受診しましたが原因不明で、おそらく風邪と言われたことがあり、もしそれが百日咳だとしたら、一度百日咳にかかっていたら、もうならないものなのでしょうか?

教えて頂ければ幸いです
by シロ (2010-06-03 22:54) 

yuuri37

末端の医者は無知で勉強不足なのだ・・・そんなことはないと私は思います。先生には脱帽です。先生は、お医者様で、いろいろな病気を治してくださる。私は職人・・・


by yuuri37 (2010-06-03 23:00) 

fujiki

アキコさんへ
コメントありがとうございます。

前回の麻疹のワクチンで、
特に副反応のなかったのでしたら、
熱性痙攣から半年以上経っていますし、
接種すること自体は、
大きな問題はないと思います。

抗体云々のことで言えば、
血液で抗体価を測定するのが、
確実だと思いますが、
記事にも書きましたように、
却って迷うようなケースもあります。
ただ、少し接種を遅らせても、
これも大きな問題はないと思います。
(前回接種後9年くらいから抗体が下がる、
というのが1つの目安のようです)

診療所に受診されている方で、
同様のケースでしたら、
僕は基本的には接種をお勧めします。
周囲で熱の風邪の方がいないことを確認し、
熱が出たら、痙攣止めと解熱剤は、
予めお出ししておきます。

ただ、お母さんがご不安でしたら、
遅らせても間違いではありません。
ご自分のお気持ちに正直に決めるのが、
僕は正しいことだと思いますし、
それでお子さんに悪い結果になることは、
僕はないと信じています。

ご参考になれば幸いです。
by fujiki (2010-06-04 08:40) 

fujiki

みぃさんへ
コメントありがとうございます。

抗体の検査は、
微妙な数値で迷うことは確かにありますが、
基本的には信頼の置ける検査だと僕は思います。
by fujiki (2010-06-04 08:42) 

fujiki

シロさんへ
コメントありがとうございます。

抗体価の測定は健康保険で出来ます。

一度罹れば、しばらくは罹らないことは確実ですが、
一生罹らない、という訳ではないようです。

ワクチンは現時点で専用のものはありません。
ただ、自費の接種で、
3種混合のワクチンを代用しているケースや、
海外から輸入して接種している医療機関もあります。
ただ、そのうちには追加接種用のワクチンが出るのでしょうから、
あまり慌てる必要はないと思います。
by fujiki (2010-06-04 08:49) 

fujiki

yuuri37 さんへ
コメントありがとうございます。

僕はでも職人にあこがれますね。
by fujiki (2010-06-04 08:51) 

アキコ

石原先生、お返事ありがとうございました。
先生のお話を聞いて心が軽くなりました。
3月末には受ける方向でいこうと思います。
石原先生がおっしゃった、

「自分の気持ちに正直に決めるのが正しい。
それで子どもは悪い結果になることはないと信じる」
というお言葉、とてもうれしかったです。

子育て中、これで正しいのか不安になることが多く、
周囲も、「ああしろ、こうしろ」と意見ばかり。
でも、石原先生のこの言葉、これから子育てしていく中で、
さまざまな場面で思い出して、自分を信じていこうと
思います。

石原先生、いつもありがとうございます。
by アキコ (2010-06-04 16:04) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0