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麻疹(はしか)の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は診療報酬のチェックがあるので、
終日事務仕事の予定です。

それでは今日の話題です。

今日は麻疹(はしか)の話です。

麻疹はRNAウイルスである、
パラミクソウイルスに属する、
麻疹ウイルスによるウイルス感染症です。

ウイルスと接触してから、
概ね10日から12日ほどして、
まず高熱と咳、咽喉の痛みや鼻水などの、
所謂風邪症状が出現します。
数日で一旦熱が下がると、
それを合図にしたように全身に湿疹が出現します。

こんな感じです。
薬疹麻疹様.jpg
湿疹と共に、
一旦は下がった熱が再び上がります。
そして咳き込みも酷くなり、
合併症がなければ、
それから徐々に回復へと向かいます。

麻疹が怖い病気であるのは、
1つは非常に感染力が強く、
集団感染の原因となる、ということと、
ウイルスが身体の免疫の主体である、
リンパ組織に感染し、
感染してから1ヶ月間は、
高度の免疫不全の状態になってしまう、
ということにあります。

麻疹ウイルスが感染したリンパ球は、
巨細胞という異常な細胞に姿を変え、
そして死滅してしまいます。
身体の細胞性免疫の連合軍は、
それでも最後はウイルスを駆逐するのですが、
それまでの1ヶ月間は、
身体は外敵に立ち向かう力をなくしてしまうのです。

麻疹は今でも発展途上国を中心に、
年間数千万人が罹患し、
数十万人が亡くなっています。
死亡原因の多くは、
肺炎と脳炎です。

まず肺炎ですが、
これはウイルスそのものによる肺炎と、
他の細菌やウイルス感染による肺炎の両方があります。
つまり、麻疹に罹った時は、
麻疹そのものもさることながら、
他の病原体にも無防備である、
という点に大きな問題がある訳です。

従って、回復するまでは、
他の病気にも罹らないように、
充分な注意が必要です。

ウイルス性の肺炎も、
急激に重症化することが多く、
早期に治療が必要です。
免疫状態の低下した患者さんでは、
巨細胞性肺炎という、
特殊な組織型の肺炎になることが知られています。

脳炎は殆どがウイルスそのものが原因ではなく、
感染をきっかけとする免疫反応が、
その原因であると考えられています。
つまり一種の身体の過剰反応による、
自己免疫疾患です。
感染から1ヶ月以内に起こることが多いのですが、
数ヶ月後に起こることも稀にあり、
また、亜急性硬化性全脳炎と言って、
数年間を過ぎてから慢性の経過で発症する、
特殊なタイプの脳炎のあることも知られています。

麻疹はアメリカでは生ワクチンの集団接種により、
1980年代より激減し、
2000年にウイルスの排除が宣言されました。
つまり、日本のような海外からの侵入を除けば、
ほぼ絶滅したとされたのです。

一方で日本では、
1歳時のワクチン接種率が低く、
また長く1回接種であったため、
毎年麻疹の発生が続いています。
2007年に大学生を中心に大流行があったことは、
記憶に新しいところです。
2006年からワクチンの2回接種が始まり、
今後は感染の減少が期待されます。

日本製の生ワクチンの安全性については、
「全く心配ないです」と言い切れないものはありますが、
実際に麻疹に罹るリスクと比較すれば、
確実にメリットの方が大きい、
という言い方はして間違いはないと思います。

特に2回の接種はされずに大人になった方は、
是非血液の抗体価の測定を、
一度はされることをお勧めします。

今日は麻疹の総論をお届けしました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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MDISATOH

Dr.Isihara
私は昔、国立予研(現在の感染症研究所)麻疹ウィルス部の協力研究員として研究していた事が有ります。実際には癌のグルタミン代謝の研究で、麻疹の研究はしていませんでしたが、亜急性硬化性全脳炎subacute sclerosing panencephalitis(SSPE)のが話題になっておりました。100万人に一人の発症頻度ながら、発症すると2年ぐらいで死亡すると言う疾患で有ると教わりました。麻疹ウィルスの変異株が
起こすと教えられました。当時を思い出すと懐かしいです。
by MDISATOH (2010-06-02 09:32) 

RIO

先生はじめまして。いつも楽しみに勉強させていただいております。免疫の低下についてですが、2週間前5月18日に8歳の息子が日本脳炎の予防接種の一期追加をやっと終了したら、その2日後に水痘に感染していて発疹が出ました。主治医に「予防接種と水痘で極端に免疫が落ちているから2~3週間は副反応が出ないように疲れすぎに気をつけなさい。」と言われました。確かに免疫は落ちているようで、水痘が治ったと思ったら一昨日からお腹の風邪にかかってしまいました。はしかと違うとは思いますが、免疫の低下はこの場合もかなり危険なのでしょうか。
3歳の次男がやはり18日に日本脳炎の予防接種をして8日に初回2回目を予約しています。潜伏期なのでキャンセルした方がいいのでしょうか。
いきなり申し訳ありません。免疫は大切ですね。正しく働いて欲しいものです。
by RIO (2010-06-02 23:24) 

fujiki

MDISATOH さんへ
コメントありがとうございます。

僕も昔研究していたことは、
時々懐かしく思い出します。
ただ、あまり研究生活に向いてはいませんでした。
細かい作業の積み重ねが、
どうも途中で面倒になってしまうのです。
by fujiki (2010-06-03 06:21) 

fujiki

RIO さんへ
コメントありがとうございます。

弟さんが水痘のワクチンを接種していないとすると、
罹るリスクは高いと思いますが、
8日で3週間になりますので、
その時点で症状がなければ、
可能性は低くなると思います。
当日までに発熱や湿疹がなければ、
接種しても良いと思いますが、
ご心配でしたら、
1週間遅らせても良いかとは思います。
4週あけば確実に感染はありません。

水疱瘡の後にも細胞性免疫の低下は見られますが、
麻疹と比べればその程度は低く、
他の病気で重症化する率も、
低いと思います。
ある程度の注意は必要ですが、
ご心配し過ぎる必要はないと思います。

ご参考になれば幸いです。
by fujiki (2010-06-03 06:33) 

もも

娘も就学前に、MRワクチンの予防接種をして、入学しました。
息子はどうやら中学生になってからの枠みたいです。
ホントに追加接種で、予防できるのか疑問ですけど、やらないよりかはいいのかなと思って接種しました。

by もも (2010-06-03 08:37) 

fujiki

ももさんへ
僕は麻疹の単独のワクチンの方が、
より望ましいのではないか、
という考えですが、
効率の良い接種のためには、
止むを得ないのかも知れません。

現時点で予防効果と安全性を天秤に掛けると、
現在使用出来るワクチンの中では、
有用性は高い部類だ、とは思います。
by fujiki (2010-06-03 21:35) 

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