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メトホルミンと糖尿病治療 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

昨日はメトホルミンという、
糖尿病治療薬の話をしました。
今日はその補足的な話です。

昨日の記事をまだお読みでない方は、
出来ればまずそちらからお読み下さい。

よろしいでしょうか?

それでは先に進みます。

メトホルミンは非常に有用な糖尿病の治療薬ですが、
その使用には幾つか注意しなければいけない点があります。

その最大のものは、
昨日お話した「乳酸アシドーシス」ですが、
これは通常予測が不可能ですから、
そのリスクの高いと思われる患者さんには使用を避けることと、
そのリスクが高いと考えられる病態では、
その使用を速やかに中止するのが、
そのポイント、ということになります。

その最大のリスクは腎機能障害ですから、
一般論で言って、血液のクレアチニンが、
男性で1.3、女性で1.2(単位はmg/dl )を超えていれば、
メトホルミンは使用するべきではない、
と思われます。

ただ、それ以下の数値であっても、
その患者さんが脱水状態になれば、
腎機能は悪化し、副作用のリスクが高くなります。
従って、たとえばお腹の風邪で、
下痢や嘔吐が続くような状況になれば、
この薬は中止するのが無難だ、ということになります。

ただ、これは糖尿病の薬ですから、
中止すれば当然血糖は上昇します。

従って、お腹の風邪に伴って、
血糖が不安定になれば、
一時的にインスリンの注射をするなどして、
血糖のコントロールをしなければいけなくなります。

この点が、この薬を使用し辛くしている、
1つの要因だ、と言う気がします。

この薬の副作用で、意外に多いのは、
下痢や吐き気などのお腹の症状です。
これは薬の飲み始めの時期に多く、
乳酸アシドーシスの初期の症状や、
お腹の風邪の症状とも見分けが付き難いのが、
厄介な点です。

僕は1例印象的な事例を経験しています。

患者さんは50代の男性で、
アマリールという糖尿病の飲み薬を使用していましたが、
血糖のコントロールが悪かったため、
それにメトホルミンを250mg1錠で追加しました。
通常1日500mgから開始してOK、という処方を、
わざわざ半量から開始したのです。

ところが、その数日後から激しい下痢と嘔吐が、
患者さんを襲いました。

当初はお腹の風邪と判断したのですが、
1週間ほどしても改善がなく、
メトホルミンを中止したところ、
速やかに症状は改善しました。

この事例を経験してから、
僕はメトホルミンの使用時には、
飲み始めに下痢や吐き気があれば、
迷わずすぐ薬を中止するように、
患者さんにはお話しています。

添付文書によれば、下痢の副作用は、
15.5%もあるのです。
もちろん軽症のものが多いとは言え、
これは結構高率で、重症になるケースもあるので、
注意が必要です。

もう1つの注意点は造影剤の検査です。

ヨード系の造影剤を注射して、
CTなどの検査をすることがありますね。

この時にメトホルミンを飲んでいると、
乳酸アシドーシスが起こり易くなる、
と言われています。
造影剤が腎臓に負担を掛けるので、
メトホルミンの血液の濃度が上がり易くなるのですね。

このため、日本では造影剤使用前後2日は、
メトホルミンを中止するように、
という申し合わせがあります。
ただ、海外の文献では、
腎機能が正常であれば、
造影剤の検査後2日間の中止のみでOKとなっていて、
こうした点にも、日本の基準のやや非科学的な慎重さが、
垣間見えるような気がします。

メトホルミンは欧米では、
糖尿病治療の第一選択薬です。
ただ、注意すべき点の多い薬でもあり、
たとえばお酒を多量に飲みながら、
薬も飲むような患者さんも多い現状で、
SU剤と同じような使用のされ方をすれば、
却って弊害を生むのでは、という懸念もあります。

また末端の医者が変な使い方をしたので、
副作用が出た、などと言われないように、
患者さんに有益で、リスクの少ない処方を、
心掛けたいと思います。

今日はメトホルミンを巡るあれこれでした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 11

新見健一

はじめて寄らせていただきました。

大変参考になりました。

さて、私どもの運営する「健康ウィキ!」は
健康的で楽しい毎日を過ごすための投稿型健康情報サイトです。

パソコン教室に通うシニア世代数名で運営している手作りサイトです。

よろしければ私どものサイトも覗いてみてください。
記事の投稿、書き込みなどしていただければうれしい限りです。

よろしくお願いいたします。

記事投稿についてはこちら
http://wiki.web9.jp/modules/tokopico/index.php?content_id=8
by 新見健一 (2010-05-15 17:37) 

fujiki

新見健一さんへ
御一読ありがとうございました。
by fujiki (2010-05-16 08:51) 

himannji

インスリンだけで何とか
A1c6.4
にまでもってきた
年期の入った(推定15年以上)2型糖尿(cペプチド6.7)
のデブです(95kg/175cm)
減量が究極の課題で
運動療法が最適なのでしょうが
現実には
仕事上睡眠2-3時間でとても時間がとれません
メトフォルミンもあるのでしょうが
ついに微量アルブミンが出てしまいました
(90mg/g.cre:網膜症は前期最終章でレーザー一歩手前:scrは幸い0.64mg/dlです)
こうなるともう
やはりメトフォルミン投与は
乳酸アシドーシスなど副作用の可能性からいって
リスキーなのでしょうか?
by himannji (2010-11-30 14:40) 

himannji

追記です

微量アルブミンが出てしまいました
(90mg/g.creは夕方の歩行後随時尿です)
by himannji (2010-11-30 14:49) 

fujiki

himannji さんへ
コメントありがとうございます。
微量アルブミンは腎機能そのものの低下とは別物なので、
クレアチニンが血中でその数値であれば、
メトホルミンの使用には問題はないと思います。
ただ、現在のHbA1c が6%台であるとすれば、
インスリンに上乗せしてメトホルミンを使用する、
メリットはあまりないような気がします。
睡眠2~3時間では、
どんな治療薬も、リスキーではないかと思います。
もう少し睡眠を確保する方策はないでしょうか。
by fujiki (2010-11-30 22:37) 

himannji

石原先生(Mr.fujiki)
早速のコメントありがとうございます(tahnk you so mach)

肥満の影響が大きいとおもわれますが
現在ものすごいインスリン抵抗性で
インスリンの投与量も非常に多く
明らかに極度の高インスリン血症で
大血管イベントのリスクが
相当高いように
思われましたので

根本的な解決手段として
体重低下と
イスリン投与量を減らし
少しでもリスクを減らしたいという
一心で投稿してしまいました!

メトホルミンの使用も考えられると理解します!

睡眠について、おっしゃるとうりだと思います
収入を得て生きて行く上の仕事上
止むをえない部分もあるのですが
努力したいと思います
ありがとうございました。

by himannji (2010-12-02 15:02) 

himannji

石原先生(Mr.fujiki)蛇足で恐縮です

書き忘れましたが
インスリンを減量し
低血糖リスクも
なるべく
減らしたいというのも
動機の一つです
循環器の専門医が
心血管イベントのリスク
で頻回の低血糖を
最も重視しておられたので
それに感化されてのことです
by himannji (2010-12-03 09:57) 

fujiki

himannji さんへ
確かにインスリン量が増加すると、
血糖自体が不安定になり、
高インスリン血症も相まって、
却って心疾患等のリスクは上昇する場合があります。
僕は個人的にはインスリン量は、
極力正常の分泌量を、
超えない範囲で使用するように考えています。
インスリン量を増やして、
少しHbA1c は低下しても、
身体のバランス的には、
却って弊害が大きいのではないか、
と考えるからです。
by fujiki (2010-12-04 09:20) 

himannji

石原先生(Dr.fujiki)

再度わかりやすい
コメントありがとうございます。

腎機能に注意しつつ
主治医と相談してみます

適切な解説
ありがとう
ございます!

不必要な
リスクを負わない
先生の
患者さんは
幸せですね

ありがとうございました!

by himannji (2010-12-10 16:24) 

まるい

メトホルミンの記事を見かけ参考になりました
ところで前回の話ではミトコンドリアの減っている高齢者では危険ということでしたが、メトホルミン自体にはミトコンドリアを増やすあるいは減らす作用はあるのでしょうか?
長期間常用すると、阻害作用によりミトコンドリアに悪影響があるのか、それともミトコンドリアを酷使するのでミトコンドリアは増えるのか気になるところです
by まるい (2016-11-04 05:00) 

fujiki

まるいさんへ
特にメトホルミンがミトコンドリアを増やすとか、
減らすとかということはないと思います。
欧米では高齢者にも安全な薬という認識なので、
日本での位置づけとはかなり異なる部分があり、
その辺りをどう考えるのかは非常に難しい問題です。
by fujiki (2016-11-04 08:51) 

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