井上ひさし「藪原検校」

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は診療所は休みで、
午後から遅ればせに「アバター」を見に行きます。
こういうトピック的な「見世物」は、
非常に好きなので。

今日はちょっと演劇の話です。

井上ひさし氏の訃報が入りましたね。

上の画像は、1979年に上演された時の、
井上ひさし作、木村光一演出の舞台、
「薮原検校」のパンフレットの表です。

これは僕が初めて自分でチケットを買って、
観に行ったまともな芝居で、
それだけに思い入れも深い作品です。
当時高校生で、学校の帰りに、
学生服のままで劇場に入りました。
僕の前の席に、妙に顔の大きなおじさんが座っていて、
帰り掛けにチラ見したら、
それは渥美清でした。
1979年の10月13日のことです。

劇場は新宿の紀伊国屋ホールで、
次にそこに入ったのは、
つかこうへいの「熱海殺人事件」を観た時でした。

この作品の初演は1973年で、
主役は高橋長英、相手役に太地喜和子です。
再演が1974年にあって、
僕が観たのは３演目ということになります。

今思うとこの作品は、
井上ひさしが当時流行っていたアングラ演劇を、
彼なりに咀嚼して造り上げたもので、
最初に木鐸の響きと共に、
場内が深い闇に包まれるのですが、
その辺りは寺山演劇のパクリに近いのです。
また、井上ひさし氏の実兄が、
客席の最前列で生ギターの伴奏を奏でるのですが、
その趣向は、つかこうへいの常套手段でした。

ただ、僕はその頃はそうした知識はなかったので、
そこに繰り広げられる情景の１つ１つが、
非常に斬新で衝撃的で、
世の中にこんなに僕好みのものが存在していたんだ、
と素直に喜ぶ思いがしました。

この作品は一種のピカレスクで、
舞台は江戸時代。
不幸な生い立ちから、
悪行の限りを尽くした杉の市という盲目の若者が、
検校の位まで上り詰め、
最後は国家権力のスケープゴートとなって、
悲惨な死を遂げます。

何より印象的だったのはそのラストで、
巨大なデフォルメされた主人公の人形が舞台に吊るされ、
それが一瞬にバラバラになって処刑されます。

ただ、この舞台はその後も再演を重ね、
僕は１９９０年代の後半にもう一度、
同じ演出家による再演を見たのですが、
その時は非常に退屈の極みで、
ラストの人形も滑稽なだけで、
とても衝撃的とは言えませんでした。
過去の僕の記憶が汚されたように感じ、
とてもショックを覚えました。

更に最近では蜷川幸雄演出でも再演されましたが、
これも残念ながら、空間がスカスカで、
無残な出来栄えでした。

まあでも、演劇とはこうしたものかも知れませんね。
それが書かれた時の時代の空気と、
濃厚に結び付いていて、
それが変化してしまうと、
もう以前は衝撃的であったものも、
滑稽にしか思えなくなってしまうのです。
演劇に限ったこととは言えませんが…

井上ひさしの作品が、
全て好きとは言えませんし、
不出来なものも、そのテーマ性にとても共感の出来ないものも、
多くありますが、
それでも稀代の劇作家であることは間違いがありません。

僕の好みは、初期のものでは、
「藪原検校」と「雨」、「天宝十二年のシェイクスピア」。
中期のものでは、「頭痛肩凝り樋口一葉」。
戦中戦後ものでは、
「闇に咲く花」。
番外で１人芝居の「化粧」といったところです。

ご冥福をお祈りします。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

コメント 3

井上ひさしは，昨年 『兄おとうと』 を観ました．
初めてでしたが，楽しい舞台でした．
『アバター』 は如何でしたか？
by midori (2010-04-12 06:57) 

midori さんへ
コメントありがとうございます。

「アバター」は話はドラえもんと宮崎駿のミックスのようで、
ラストが能天気に変更された「もののけ姫」みたいでした。
（絶対参考にはしていると思います）
本当はもっと悪い奴は他にいる筈なのに…
と苛立たしい気分になりましたが、
ドラえもん相手に怒っても仕方がないですね。
その是非は置くとして、
アメリカの時代は完全に終わるな、
という思いがしました。
3-Dは最初は結構ワクワクしましたが、
1時間くらいすると、目が疲れて来て、
後半は殆ど平面のようにしか見えませんでした。
ただ、前半はかなり良く出来ていると思いますし、
後半はこうした作品の性質上、
ああなって仕方がないのだと思います。
by fujiki (2010-04-12 08:21) 

ドラえもん(笑)．たしかに．
おかげさまで風邪のほうは，ほぼ完治し，
元気に出勤しています．咳は出ませんでした．
ありがとうございました．
by midori (2010-04-12 08:45)