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SSRI 使用中の妊娠について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日は妊娠と薬との話です。

うつ病やパニック障害で治療中に、
妊娠される女性の方がいらっしゃいます。

患者さんはSSRI という薬を飲んでいます。

この場合問題になるのはこのSSRI を妊娠中にどうすれば良いのか、
ということです。

勿論薬を中止出来れば、
それが一番良いと決まっています。

しかし、SSRI には、
人にもよりますが、
急に中断すると、
却って状態が悪化する、
という離脱症状が存在します。

たとえば無理に薬を止めて、
却って具合が悪くなったり、
またうつ病やパニック障害の状態が悪化したりすれば、
それはお腹の中にいるお子さんにとっても、
却って悪い影響があるのではないか、
と考えられます。

従って、その状況によって、
スムースに薬が止められれば、
それに越したことはありませんし、
それが望ましいのですが、
その方が薬を飲んだ状態で安定していて、
薬を中断するリスクの方が高い、
という判断があると、
薬を飲んだ状態のままに、
妊娠を継続するケースもあります。

それでは、SSRI を継続したまま妊娠を継続することには、
どのようなリスクがあるのでしょうか?

これは妊娠の前期と後期とに、
分けて考える必要があります。

まず、妊娠の前期においては、
お子さんの身体に先天的な異常が現われる、
という危険性が存在します。

そのリスクはどのくらいのものでしょうか?

アメリカの有名な医学誌、
New England Journal of Medicine に、
2007年にそれに関わる2つの論文が掲載されています。

いずれの論文でも、全体として、
明らかに胎児の異常が増えている、
というような結果は出ていません。
ただ、個別に言うと、心房中隔欠損のお子さんが、
2~3倍程度リスクが増加している、
といったデータは得られています。

つまり、関係が明瞭、というほどのものではありませんが、
特に心疾患のリスクは、
ある程度上昇する、と考えた方が良さそうです。

こうした異常は通常は、
出生後に治療の可能なものです。

これは概ね妊娠1~3ヶ月の間に、
ある程度継続して服用した場合の話です。

次に妊娠の後期にSSRI を飲むと、
どういうリスクがあるでしょうか?

SSRI は胎盤を通過します。

つまり、お子さんの身体にも移行するのです。

この場合、問題は産後の異常です。
これは大きく分けると2つあって、
新生児遷延性肺高血圧症(PPHN )と、
新生児禁断症候群(NAS )と呼ばれています。

まず、新生児遷延性肺高血圧症ですが、
これは通常よりも肺呼吸が始まる時期が、
遅れるというものです。
この症状の出現は、SSRI の使用により、
最大で6倍程度多くなる場合があるとされています。

新生児禁断症候群は、
SSRI を妊娠の後期に使用した妊婦の、
3割程度に発症すると言われています。

胎児はSSRI を飲んだ状態になっていて、
出産と同時に、その効果が切れます。
つまり、そのための離脱症状が、
新生児に出現するのです。

これはお子さんの焦燥感、甲高い泣き声や泣き止まないこと、
睡眠障害、怯え易い、痙攣といった症状が、
生まれてから2日以内に出現するものです。
この症状は比較的高用量で出現することが多いとされていて、
たとえばパキシルでは、
1日20mg以下では起こらなかった、という海外データがありますが、
それがそのまま日本でも適応出来るものなのかどうかは、
分かってはいません。

ただ、そのいずれの症状も、
出産後の経過と共に改善し、
通常は後遺症を残すことはありません。

従って、SSRI を妊娠の後期に使用した場合には、
そのお子さんの出産後、
48時間は問題となるような症状が出ないかどうか、
慎重に様子を見て置く必要があります。

以上をまとめるとこうなります。

SSRI を服用すると、
その時期が妊娠の前期か後期かによって、
それぞれ異なるリスクがあります。
ただ、そのリスクの多くは、
対応が可能な性質のものなので、
主治医や産科の医師と、
よく相談の上継続の是非を考える必要があります。
そのことで軽率に避妊を考える必要はありません。
無理な中断はしないで下さい。
中断することで症状が悪化すれば、
却ってお子さんにも悪い結果になりかねません。
中止出来ない場合でも、
なるべく減量することは意味があります。

以上の内容は僕なりに正確を期したつもりですが、
成育医療センターなどに、
専門の相談窓口がありますので、
妊娠中の薬のことで、
ご不安の方は、そちらにご相談することをお勧めします。

今日はSSRI と妊娠についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 14

みぃ

こんにちは。
今の所、我が家には縁の無いお話では有りますが、女性が妊娠した場合は、本当に大変だな~と感じざるを得ません。
姪が妊娠中、アトピーがひどくなっても、我慢して薬を使用していなかったので、見るも無残な顔になっていたのを思い出します。
私も妊娠中は、風邪気味でも、風邪薬も殆ど飲まない様にしていました。
病気をお持ちの方は、更に大変なのですね。
by みぃ (2010-03-24 10:37) 

さすらいの、、、

SSRI 最高の薬の呼び声高かったけれど知人は嘔吐、倦怠、等々の副作用で苦しみました。Dr.は1週間は耐えて服用するようにとのことでしたが3日目でダウンしました。
by さすらいの、、、 (2010-03-24 10:57) 

iyashi

私は男性ですが、自分の服用している薬で一番気になるのがベゲタミンBです。
フェノバルビタールが含まれているのでちょっと気になっています。
精子形成に異常が起きる可能性はあるでしょうか?
一応葉酸や亜鉛はサプリなどで食事から補えない分は摂取しようと思っていますが。
まだ独身なのですぐに問題にはなりませんが、今後就寝前の薬を減薬する時一番厄介な薬だと思っているので。
by iyashi (2010-03-24 11:48) 

U3

うちは残念な事に子供が授かりませんでした。
by U3 (2010-03-25 07:32) 

fujiki

みぃさんへ
コメントありがとうございます。

特に診療内科領域の薬と、
妊娠との兼ね合いは、
非常に難しいところだと思います。
by fujiki (2010-03-25 08:27) 

fujiki

さすらいの、、、さんへ
コメントありがとうございます。

最近発売されたリフレックスや類似薬もそうですが、
合わない方には、服用後すぐの副作用は、
かなり激烈です。
僕自身はそうした場合には、
すぐ服用は中止して他剤に変更するようにしています。
by fujiki (2010-03-25 08:30) 

fujiki

iyashi さんへ
コメントありがとうございます。

断定的には言えませんが、
多分ご心配はいらないと思います。
確かに葉酸は少し多めに摂った方が、
良いかも知れません。
by fujiki (2010-03-25 08:34) 

fujiki

U3 さんへ
ご一読ありがとうございました。
by fujiki (2010-03-25 08:37) 

MDISATOH

興味深い記事でした。

私達はもう歳を取っているので、妻が妊娠をする可能性は無いのですが、若い女性で、双極性障害で気分安定薬を連続服用している方ですと、リチウムが一番催奇形成が強い様で、他のバルプレイト、カルバマゼピンも催奇形成が有るので、一時服薬を中止して対応するとのことですが、その時に状態が不安定になった場合、最終的には、ECTで対応
する等大変です。もっと妊娠中に服用しても安全な気分安定薬の開発
を望みます。
by MDISATOH (2010-03-25 18:02) 

fujiki

MDISATOH さんへ
コメントありがとうございます。

そうですね。
双極性障害の薬は、
殆どが妊娠は完全にNGなので、
これは大きな問題だと思います。
サリドマイドなどの過去のトラウマもあるのでしょうが、
製薬会社も「妊娠中の安全性は確立していない」
と逃げるだけではなく、
もっと積極的に妊娠中の薬の問題にも、
関わって欲しいと思います。
by fujiki (2010-03-26 06:27) 

のえ

私は八年間、ゾロフト(自分で調べたとところ、1番安全そう)などの薬を飲んでいたことで、避妊をしてきてしまい、34歳になってしまいました。fujikiさんの言うとおり、薬について、軽率に考えてしまっていたと思います。
最近になって、薬も思うように辞められないし、このままでは出産自体ができなくなってしまうと思い、リスクを背負っての妊娠を考えていたところです。
私が出会ってきた医師達のほとんどは、処方しているのにも関わらずあまり薬のことが分かっていない様子で、ただ、薬飲んでるなら妊娠しない方がいいと言うだけで、それでも妊娠を希望するなら、断薬して自分でやっていけばいいと言われたこともあります。
難しい状況を理解し、ここにリスクの情報を、載せて頂いたことに本当に感謝したい気持ちでコメントしています。
ありがとうございます。
by のえ (2013-07-01 12:38) 

waka

私はルボックスを服用し13年になります。そんな事もあり妊娠は諦めていたのですが、42歳の現在、(ギリギリ産める年齢かと?)最後の望みで子供が欲しい気持ちが強くなり調べていた中で
先生のブログにたどり着きました。
現在ルボックスを一日5mg服用中です。
何回か薬の服用の中止を試みたのですが、離脱症状で断念。
高齢出産の上に一番心配なのは
薬によって奇形児が産まれて
しまう事。
妊娠中の服用中止で私が対応できるかという事です。
そんななか前の方もおっしゃっていたように、リスクの情報を、載せて頂いたことに感謝したい気持ちと共に
もう一度専門の窓口のある医療機関に
行って相談してみようと思いました。
ありがとうございました。
by waka (2013-08-04 08:41) 

fujiki

のえさんへ
コメントありがとうございます。
少しでも拙文でお役に立つ点があれば、
大変うれしいです。
軽率には言えませんが、
ご妊娠をされると、
お薬を中断出来るケースが、
多いと思います。
by fujiki (2013-08-04 09:57) 

fujiki

waka さんへ
コメントありがとうございます。
軽率に大丈夫とは言えませんが、
まずは極力減量し可能であれば1日おきでの使用、
というくらいを目指し、
それでご妊娠中のリスクの高い時期のみでも、
離脱を図る、という方針が実現性が高いように思います。
ただルボックスの5mgであれば、
非常に少量ですから、
リスクを慎重に考えた上で、
ご妊娠を継続するのも1つの考え方です。
まずはしっかりとご相談の上、
決めて頂くことが良いと思います。
by fujiki (2013-08-04 10:24) 

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