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ジェネリック薬品の報道されないニュースの話 [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

医薬の業界紙に先週こんなニュースがありました。

【○○薬品、ミス隠蔽で業務停止へ】岐阜県は17日までに○○薬品工業の高山工場に対して、近く業務停止命令を出す方針を固めた。高山工場で製造する後発品「ガスポートD錠20mg」(一般名ファモチジン)について、安全管理に重大な問題があったことが判明したため、3月下旬から10日間前後、業務停止とする見通しだ。(3月18日配信)

このニュースは一般にも報道はされていますが、
扱いは小さく、また内容も踏み込んだものではありません。

元の記事の会社名は実名ですが、
個人攻撃の意図はないので、
敢えて匿名にしました。
皆さんもご存知の、
CMもやっているジェネリック薬品の大手企業です。
ジェネリック薬品の大手の会社の工場で、
「安全管理に重大な問題」があった、というのです。

一体どのような問題があったのでしょうか?

内容を読むと、
ちょっとびっくりです。

ファモチジンはガスターのジェネリックです。
皆さんお馴染みの胃薬ですね。

この薬の製造工程で、
「主成分」と「造粒原料」の割合を取り違え、
あるロットでは主成分が通常の120%になった一方、
他のロットでは主成分が通常の80%になっていたと言うのです。

つまりあるロットのものは、
ガスポートD錠20mgと書いてあっても、
実際には20mgではなく、24mgが入っており、
また別のロットのものには、
20mgと書いてありながら、
実際には16mgしか入っていなかったのです。

まあ、ものが胃薬ですから、
16mgでも24mgでも、さしたる違いはないだろう、
という言い方は出来ます。

しかし、これがもっと厳密な調整を要する薬、
たとえばステロイドのプレドニンならどうでしょう。
麻薬だったらどうなのかしら、
と考えるとちょっと恐ろしい話です。

これが氷山の一角でないことを、
祈りたいと思います。

あなたが10mgのステロイドを飲んでいて、
それをある日ジェネリックに変えたとしましょう。
変えたらどうも調子が悪く、
それを主治医に相談しても、
薬の量は変わっていないので、問題はない筈だ、
と言われます。
ところが、実際には工場のミスで、
その薬には額面は10mgと書いてあっても、
実際には8mgしか入ってはいなかったのです。

しかし、それを薬局や医療機関のレベルで、
確認することは出来ません。

上の記事の事例はどのようにして発覚したのでしょうか?

これは実は偶然で、
長野県の医薬品のサンプル検査の対象に、
たまたまガスポートD錠が選ばれたため、
その会社が保存してあったロットを再検査したところ、
その工場のロットに異常が見付かったのです。

しかし、定期的に品質検査はロット毎に行なわれている筈です。

それなのに、どうしてロットの異常が見付からなかったのでしょうか?

実は工場の作業員の人為的ミスで、
割合の数字を間違え、
あるロットがまるまる不良品になってしまったのです。
それを知っていながら、
工場の担当者はそれを「誤差の範囲」と判断。
不良ロットをそのまま出荷してしまうと共に、
品質管理部に提出するサンプルは、
正常のロットのものとすり替えていた、
というのです。
「まあ、胃薬なんだから、多少量が違っていたって、
大して問題はないし、分かる訳もないだろう」
という訳です。

酷いでしょ。

これは何処かの国の話ではなく、
他ならぬ日本の話なのです。
でも、ひょっとしたらもう、
そこは既に何処かの国なのかも知れませんね。
本当に大切なものも、
知らないうちに誰かに売り払われて当然の世の中です。

不良品を平然と出荷出来る、という感覚が、
一部の現場には確実にあるのです。

この事例の場合、
会社自体の管理体制には誤りがなかったため、
ロットの異常は明るみに出ました。

しかし、もし会社ぐるみでこうした不正を行なおうとすれば、
その歯止めになるものは何もありません。
県の調査に素直に応じたので明るみに出ましたが、
もしロットのサンプル自体が、
全てすり替えられていれば、
その証明は不可能になるからです。

厚生労働省の担当者のコメントが載せられていますが、
その内容がふるっています。

「(後発品使用促進が)ブレーキになるので残念だ。印象が悪く、がっかりしている」

何か如何にもですよね。
「君にはがっかりだよ」
というのは、通俗ドラマではお馴染みの、
悪党のセリフです。
大悪人が部下の小悪人にそのセリフを言うと、
その小悪人は粛清されるのです。
通俗ドラマのリアリティを、
馬鹿にしてはいけませんね。
このコメント1つ読むだけで、
ジェネリックの安全性などということには、
お役人様は微塵も興味もないことは、
はっきりと読み取れます。

上の記事にある工場では、
916品目の薬を同時に製造しているそうです。
この数量にもびっくりですよね。
芸能人を起用したCMを打つには、
このくらいのことはしないといけないのです。
しかし、安全面の不祥事は今回ばかりではなく、
たとえば2008年には、抗生物質のバイアルに、
ガラス片が混入し、訴訟にもなっています。

でも、こうしたニュースは、
専門誌のようなもの以外には、
殆ど報道されません。
報道されても、その扱いは小さく、
あっさりとした筆致のものです。
つまり、あまり皆さんに読んで欲しくはないのです。
皆さんも多分お読みになったことはあまりないと思います。
医者の医療ミスとはえらい違いですよね。

皆さんに通常「餌」として与えられる情報には、
最初からバイアスが掛かっているのです。
医者の医療ミスは、大きな活字で読んで欲しいのですが、
ジェネリック会社の不祥事は、
「お役人様をがっかりさせる」ので、
あまり読んでは欲しくなく、
その扱いも活字も小さいのです。
でも、なかなか餌を待たずに食料を探すのは、
伝手のない身には難しいですね。

今日はあまり報道されていない、
ジェネリックの安全性についてのニュースの話でした。

念のため補足しますが、
僕は決して全てのジェネリックのメーカーが、
いい加減な管理をしている、とは思いませんし、
良心的なメーカーが殆どだと思っています。

しかし、このジェネリック推進の政策は、
明らかに安全性を軽視して、
経済原理を優先させたものなのです。
900種類もの薬を同時に造らざるを得ないのは、
薬の値段を下げられて、
薄利多売に徹しないと黒字には出来ないからです。
しかし、皆さんの命を守る製薬が、
果たしてそのような利益優先主義、
医療費さえ節約出来ればそれでOK、
というような方針で、
本当に良いのでしょうか?
僕は是非皆さんにもその点を考えて頂きたいと思うのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 8

MDISATOH

興味深い記事でです。

先ず、私は双極Ⅰ型障害で、気分安定薬をほぼ一生涯飲み続けなくてはならないので、具体的に言えば、商品名リーマスとデパケンRは可塑剤等の違いからあえてブランド品を選び、胃薬のガスター、降圧剤コニール、抗アレルギー剤ジルテックはそれぞれジェネリックのプルゴーギュ、ベネジピン塩酸塩、セチリジン塩酸塩を価格が安いので選んでいます。然し基本的にはジェネリックは好きでは有りません。
by MDISATOH (2010-03-23 10:14) 

シロクマ

程度の差こそあれ、権力による情報操作は、先日Googleの撤退が決まった某国と同じですね。日本のモノ作りに対する誇りも危ぶまれます。何を求め進むべきか、その軸が揺らぐ故、国全体が揺れていると思います。
by シロクマ (2010-03-23 14:32) 

iyashi

恐ろしいですね。。。。
これがジェネリックメーカーでなく先発メーカーだったら、メディアにも圧力をかけることなく大々的に報道されていたのではないでしょうか?
行政が推進していることの裏には他にも色々ありそうで嫌になりますね。
by iyashi (2010-03-23 18:15) 

fujiki

MDISATOH さんへ
コメントありがとうございます。

まだ患者さんがジェネリックか先発かを、
選択出来るうちは良いのですが、
今後はそうではなくなるのではないか、
という危惧はあります。

多くの薬が既にジェネリックのみになっています。
by fujiki (2010-03-24 08:20) 

fujiki

シロクマさんへ
コメントありがとうございます。

ご指摘の通りだと思います。
優良な中小企業こそ危機にある訳で、
それは医療の分野でも同じなのですが、
あまりそうした観点は、
メディアにも政治にも認められないようです。
by fujiki (2010-03-24 08:23) 

fujiki

iyashi さんへ
コメントありがとうございます。

ジェネリックの安全性については、
もっとオープンに議論されるべきだと思いますが、
不祥事も半分もみ消すような体質では、
それは無理なのかも知れません。
by fujiki (2010-03-24 08:25) 

Hackmaster

>「ガスポートD錠20mg」

これを書いてしまったら

>○○薬品工業の高山工場

伏字にしても意味がないと思います。
訴訟になったときに有利になるのでしょうか?
by Hackmaster (2010-03-25 07:50) 

fujiki

Hackmaster さんへ
ご一読ありがとうございました。

薬品名を出しているのは、
それをお飲みになっている患者さんも、
現実にいらっしゃるからです。
実際に実名で報道されている事例でありますし、
薬品名を伏字にするのは、
適切ではないと考えました。
僕は原則として直接個人名や団体名を、
出しての批判はしないという方針です。
(勿論過去の記事にそれに矛盾するものがあるかも知れません)
伏字にしても意味がないとは僕は思いません。
当然薬品名から調べれば、
企業名は分かりますが、
直接記載するのとは、
意味合いは異なると思うからです。

伏字にしているのは、
訴訟云々のためではなく、
僕が書きたいことは個別の事例ではなく、
もっと構造的なものだということを、
出来れば分かって頂きたい、
と考えてのことです。

色々な考え方があるということで、
ご容赦頂ければ幸いです。
by fujiki (2010-03-25 08:23) 

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