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HbA1c の標準化について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

先週海外のHbA1c の論文を取り上げたところ、
海外の数値と日本の数値とは、
違うのではないか、とのご指摘を頂きました。

僕は無知だったので、
あまり気に留めていなかったのですが、
調べてみると確かに言われる通りで、
海外のHbA1c の数値と、
日本で測っている数値との間には、
結構大きな違いがあり、
それをしっかり認識していないと、
数値の読み方を誤る結果になります。

それで、今日はちょっとその辺りの話です。

HbA1c というのは、
血液のヘモグロビンという蛋白質の、
ある特定の部分にブドウ糖がくっつき、
一種の変性をしたものを、
グリコヘモグロビンと呼び、
全体のヘモグロビンの中で、
そうした変性をしたヘモグロビンが、
どのくらいの比率で存在するのかを、
%で示したものです。

この数値が高ければ、
当然血糖値も高い、という道理で、
この数値の高低が、
糖尿病のあるなしの診断と、
糖尿病の患者さんのコントロールの、
重要な指標として使われています。

この数値を測定する、一般的な方法は、
HPLC(高速液体クロマトグラフィー)と呼ばれる方法です。
ただ、この方法は初期にはその精度にばらつきがあり、
何を測るかの標準となる「標準物質」が、
国によってもばらばらで、
比較することが難しい、という欠点がありました。

その後大体国や地域毎に、
その数値の標準化に対する取り組みが行なわれ、
大雑把に言えば、日本のJDSによる数値と、
アメリカのNGSPと呼ばれる数値、
そしてヨーロッパのIFCCと呼ばれる数値に、
まとめられたのです。

この3者は、一応近似式によって、
互いに比較可能になりました。

日本のJDS値より、概ね0.3~0.4くらい、
アメリカのNGSP値は高い数値になります。
NGSP値の正常上限である6.0%が、
日本では5.8%になり、
同じように日本の測定での7.0%は、
アメリカの基準では7.43%になります。

ヨーロッパの基準であるIFCC値は、
単位が%ではなく、mmol/mol という特殊なものになっています。
たとえばアメリカの6.0%は、
ヨーロッパでは41.24(mmol/mol )と換算されます。

うーん。ちょっとピンと来ませんね。

2007年には国際的な話し合いの結果として、
ヨーロッパのIFCC法が標準的な方法として、
採択されました。

日本はその取り決めに従う、という方針なので、
結果として今後HbA1c の値は、
%ではなく、mmol/mol という、
すこぶる分り難い単位に、
統一されることになるのかも知れません。

どうも分かり難い話です。

ただ、先週ご紹介したLancet 誌の論文では、
HbA1c は%表示しか記載されていません。

HbA1c の表示はmmol/mol に決まった筈なのに、
イギリスの一流誌がそうした記載でOKなのですから、
どうも何処までが正しい話なのか、
ちょっと疑問に思うところでもあります。

HbA1c の測定は、現在ではHPLC法以外に、
酵素法などの多くの方法が日本では使われています。
簡易測定器も普及していますが、
その全てがJDS値と一致しているとは
(勿論建前はそうですが)、
僕にはとても考えられません。

LDLコレステロールの測定のあやふやさの時にも感じましたが、
日本では次々と新しい測定法が開発され、
コストの面でそちらの方が安上がりだと分かると、
殆どの検査会社が一斉にそちらへと変更されます。
しかし、その方法が実際には精度が低かったり、
国際基準と合わなかったりして、
実際にデータを見る医者は、
往々にしてそうした検査の知識に乏しいので、
以前と同じものとして解釈してしまい、
それが結果として患者さんの治療方針を、
誤る結果に繋がりかねない、
という問題を孕んでいる、と僕は思います。

その裏には、
検査の保険点数が安く抑えられ、
ぎりぎりのところで検査が行なわれている、
という現状がある訳です。

僕も今後は検査法の変更に対して、
もっと注意を払おうと思っているところです。

僕の今日言いたいことは、
HbA1cの数値には結構ばらつきがある可能性があり、
0.2とか0.3の違いに、
一喜一憂するほどのものではない、
ということが1つ。
そして、僕も何となく同じに読んでいたのですが、
アメリカ発の論文でのHbA1c の数値は、
日本のものとは少し違いがあり、
その点を注意して内容を読まなければいけない、
という事実です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 5

シロ

御返答ありがとうございました。
食事前だけ気をつけます。
by シロ (2010-02-22 08:54) 

まみしゃん

この半年くらいA1cが正常値の高値ギリギリくらいで変動しているのですが、専門医であるスーパー主治医は注意するに越したことはないけれど神経質にならないほうがいい・・・と言ってくださったのですが、呼吸器のドクターにメチャクチャ怒られてきました^^;
病院によっても標準値の違いはありますよね・・・A1cは糖尿病学会で決められたものだったと思いますから日本国内では共通だったと思いますが。
雪が溶けたら、食事だけでなく運動にも気を配りたいと思います!
by まみしゃん (2010-02-22 20:06) 

fujiki

まみしゃんさんへ
コメントありがとうございます。

そうですね。
食後の血糖を急激に上げ過ぎないのが、
一番大事だと思いますので、
運動が一番の予防だと思います。
by fujiki (2010-02-23 08:39) 

ハイリョウ

こんばんは。
詳しい説明ありがとうございます。


>HbA1cの数値には結構ばらつきがある可能性があり、0.2とか0.3の違いに、一喜一憂するほどのものではない

確かにそうですね。
以前患者さんにHbA1cが0.1違うと血糖値としてどのくらい違うのか、なんて質問され返答に困ったことがありました。
次同じような質問を受けた時には参考にさせていただきます。
by ハイリョウ (2010-02-23 22:08) 

fujiki

ハイリョウさんへ
コメントありがとうございます。

HbA1cを平均血糖値に換算する、
という考えもあるようです。
でも、どうなんでしょうか。
余計紛らわしいような気がしないでもありません。

こういう数値の導入は、
患者さんのためというより、
論文で統計処理がし易い、
ということから重宝されている面があるようで、
問題は単純ではない、
という気がします。
by fujiki (2010-02-24 06:32) 

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