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鼻炎と花粉症の治療についての私見 [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

それでは今日の話題です。

今年はそれほどの飛散量ではないようですが、
花粉症のシーズンが始まりました。
症状のお強い方は、
もう目の痒みや鼻のぐずつきが、
見られているようです。

さて、通常花粉症やアレルギー鼻炎の治療と言えば、
「抗アレルギー剤」、というタイプの薬が使用されます。
「抗アレルギー剤」には、
ヒスタミンをブロックする「抗ヒスタミン剤」と、
それ以外のアレルギー反応を起こす物質、
主に「ロイコトリエン」をブロックする、
「ロイコトリエン拮抗薬」があります。
それ以外にも幾つかの種類があって、
これこれのメカニズムで、アレルギーを抑えるのだよ、
と説明はされますが、
現実的にはヒスタミンのブロックが、
効果の主な部分で、
それ以外にはロイコトリエンのブロックが、
若干効果があるかもね、
というくらいです。

アレルギーというのは一種の免疫異常です。

IgE と呼ばれる免疫グロブリンが上昇し、
それが肥満細胞と呼ばれるリンパ球の一種を刺激して、
ヒスタミンが放出されると、
粘膜がうっ血して痒みが出、
涙や鼻水が溢れます。

IgE は所謂抗体の一種です。
通常抗体と言えば、
身体を外敵から守るために作られる物質の筈です。
しかし、このIgE に関しては、
果たして何のために作られるのかが、
良く分かりません。

たとえばスギの花粉が鼻の粘膜にくっつくと、
それを感知して身体でスギに反応するIgE が作られ、
次にまたスギの花粉がくっつくと、
IgE がじゃんじゃん出来て、
それがリンパ球を刺激し、
ヒスタミンがじゃんじゃん出て、
鼻水がダラダラ出て不快になります。
でも、ウイルスが相手なら、
鼻水を出すことで、
ウイルスの侵入を妨害するのだ、
という理屈も分かりますが、
スギの花粉は別に粘膜に侵入することもなく、
細胞の中で増殖することもありません。
要するに、本来は免疫防衛軍の活躍する対象ではなく、
無視していれば良い筈の対象です。
仮に撃退する必要があるにしても、
一時的にくしゃみをしたり、
一時的に鼻水がちょっと出るだけで済む筈です。
つまり、反射的な反応があるだけで十分で、
免疫に記憶させ、
抗体を作って次に備える必要は無い筈です。
それなのに何故、
このような意味のない抗体が、
作られてしまうのでしょうか?

それがアレルギーという現象の、
本質的な謎の1つです。

アレルギーの起こり難い人は、
このIgE があまり作られません。
しかし、アレルギーの起こり易い人は、
このIgE がじゃんじゃん作られてしまいます。

以前ご紹介した「高IgE 症候群」という疾患は、
この現象の極端な事例で、
IgE が極度に上昇するため、
他の抗体があまり作られなくなり、
その結果として、免疫不全の状態になります。
つまり身体が感染に弱くなり、
中耳炎や気管支炎、副鼻腔炎を繰り返して治りません。

これほど極端なことはなくても、
アレルギーでは免疫の状態は低下します。

アレルギー性鼻炎の結果として、
身体は感染に弱くなり、
病原体が侵入して感染を起こせば、
当然免疫の一部であるIgE も活性化して、
更にアレルギーも悪化する悪循環に陥ります。

問題は現在の「抗アレルギー剤」と称するものが、
果たして免疫全体にとって、
プラスの効果のあるものなのだろうか、
ということです。

「抗ヒスタミン剤」は風邪薬の成分で、
ヒスタミンをブロックすることによって、
鼻水や身体の痒みを抑える薬です。
短期間の使用であれば、
身体にそれほど大きな影響は与えないことは推測出来ます。
ただ、たとえば通年性のアレルギー性鼻炎で、
長期間抗ヒスタミン剤を使用することは、
結果として免疫系のバランスを乱し、
却って体調を悪くするのではないか、
という推測もまた成り立ちます。

実際僕の知っている患者さんは、
「アレルギー性鼻炎」の診断の下に、
耳鼻科で2年間「抗ヒスタミン剤」を飲み続け、
飲み始める前より飲み始めてからの方が、
明らかに風邪を引く機会が増え、
その度にこじらせて抗生物質を長期間使用され、
微熱は続き、身体はだるくなり、頭は冴えず、
2年後にその耳鼻科の医者に
「先生いつになったらアレルギーは治るのでしょうか?」
と訊いたところ、
「アレルギーは治りませんよ。
当たり前じゃないですか」
と言われてすぐに飲むのを止めました。
現在この患者さんは、
症状の強い時のみ、一時的に抗アレルギー剤を使用して、
症状が改善すればすぐに中止するようにしていますが、
それで症状が悪化することもなく、
体調は明らかに良くなっています。

「ロイコトリエン拮抗薬」の方が、
より明確にそのことが分かっています。
この薬がブロックする、ロイコトリエンは、
確かにアレルギーの原因物質の1つではありますが、
免疫系にとって、重要な役割を持つ物質です。
チャーグ・シュトラウス症候群という全身性の血管炎は、
部分的にはこの薬の長期使用が誘因となっている、
と言われています。
つまりこの薬は一種の免疫抑制剤なのであり、
長期使用するのには、
慎重に事例を選択する必要があります。
しかし、実際には軽症の患者さんにも、
ダラダラと使用されているのが実状です。

本来アレルギーの治療は免疫系のアンバランスを、
調節する治療でなくてはならない筈です。
IgE が増えているぞ、とか、好酸球が増えているぞ、
とか、ヒスタミンとロイコトリエンが出過ぎるのだ、
とか、インターロイキン5が多過ぎるのだ、とか、
いやいやTNF-α が悪そうだ、とか、
色々と理屈はありますが、
いずれも片っ端から測れるものを測ってみて、
目立って高い数値があると、
それを「悪玉」にして、
それを退治したり減らしたりする治療ばかりです。

最近は免疫治療が流行りで、
抗IL5 抗体や抗TNF-α 抗体、抗IgE 抗体まで実用化され、
たとえば抗IgE 抗体は、
ゾレアという名前で、昨年から日本でも重症喘息に、
使用が開始されています。

これは血液のIgE にくっついて、
その働きをブロックしてしまう、という注射薬です。

しかし、それがどんな働きをし、
どのような理由で上昇しているのかも、
明確には分かっていないのに、
ただ単純にそれをブロックすれば、
アレルギーの治療になるのでしょうか?

これは言ってみれば、動物実験的な治療です。
取り敢えず目立った数値を強引に下げてみて、
その時に何が起こるのかを、
何年も掛けて観察しよう、
という訳です。

勿論重症の喘息でコントロールが困難なケースに、
この薬剤を「仕方なく」使用することは、
決して間違いとは思いません。
その選択肢が増えたことは、
間違いなく治療の進歩です。
しかし、これが理想的な治療とは、とても思いません。
IgE が異常に上昇しているのには、
それなりの理由がある筈です。
それを理解せずにただ強引にブロックしても、
身体全体にとって良い結果が生まれる道理はありません。

僕の意見はこうです。

アレルギー疾患には多くの種類があり、
その中には全身に影響を及ぼす血管炎のようなものもあり、
また時に命に関わる発作を起こす、喘息のような病気もあります。
その一方で、不快な症状はあるけれども、
全身的な影響はさほどではない、
花粉症やアレルギー性鼻炎のような病気もあります。
(重症の花粉症の方はお怒りになるかも知れませんが、
これは症状の強さという意味合いではなく、
身体全体に与える影響、という意味です)
そのメカニズムに共通の要素のあることは事実ですが、
重症の病気の治療を、
安易に軽症の病気にも同じように適応するのは、
基本的には誤りです。
アレルギーを抑える薬は、
一種の免疫抑制剤の側面を持ち、
従って、軽症の病気での長期の使用は慎むべきです。
僕は個人的には、誰でも鼻水が出ればすぐにアレルギーと診断し、
抗アレルギー剤を長期間処方し続ける、という行為が、
結果的には「風邪が治らない」
「微熱が続いてだるくて調子が悪い」
といった現在よくある症状の、
1つの大きな要因になっていると、
思えてなりません。

それではアレルギー性鼻炎には、
どのような治療が望ましいのでしょうか?

僕は最近では鼻炎や花粉症のコントロールには、
主に漢方を使用するようにしています。
それは、少なくとも免疫系のアンバランスを助長するような、
副作用は少ない、と考えられるからです。

長くなりましたので、
僕の漢方の使用の考え方については、
明日に続けたいと思います。

最後に念のため補足しますが、
僕は全てのアレルギー疾患に、
「抗アレルギー剤」の長期投与が良くない、
と言うつもりはありません。
喘息を始めとして、必要な事例が多くあることは確かですし、
僕自身も処方はしています。
ただ、いずれにしても、
ベストの治療ではないこともまた確かです。
従って、積極的な必要性がそれほどでないなら、
念のために使う、
というような考え方や、
アレルギー性鼻炎に何となく使う、
というような考え方は誤りだと思うのです。
その点はご理解の上、お読み頂ければ幸いです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 8

iyashi

リウマチなども免疫異常の疾患と言われていますが、体の免疫系がすべて解明されない限り、根本的な治療にはならないのですね。
by iyashi (2010-02-12 08:48) 

みぃ

こんばんは。
御訪問有り難うございました。
下の息子が幼稚園の年長の頃から、突然喘息になり、小学校の最終学年になるまで、本当に苦しみました。  やはり、テオドール、メプチン等の他、ステロイドの吸入剤等々、投与される薬がどんどん増えて行きました。 症状も良くならず悩んでいた折に、漢方薬で治ったと言う話を聞いて、渋谷の道玄坂の漢方医を何とか探して行った所、私が通いやすい秦野のお医者様を紹介して下さいました。 毎月1時間以上を掛けて、通い続けましたが、お陰さまで、中学になって、喘息の方は直りました。  けれど、大学受験直前から、ひどいアトピーになってしまいました。  
今は大分落ち着きましたが、突然になった物ですから、直ぐ治るものと信じていたらしく、、何年も直らないアトピーに、最初はイライラしていました。
今は、タリオン10mgとプロトピック軟膏0.1%を使用して5年目に入っています。
アレルギーとは、本当に難しい物ですね。
気長に付き合うように話しています。
by みぃ (2010-02-12 20:59) 

fujiki

iyashi さんへ
コメントありがとうございます。
分からないのに分かったような顔をして、
薬を漫然と使うのは、
矢張り僕にはあまり良いことだとは思えないのです。
by fujiki (2010-02-13 08:32) 

fujiki

みぃさんへ
コメントありがとうございます。
アレルギーは免疫のアンバランスとして、
自己免疫疾患などと一連で考えるべきものだと、
僕は思います。
by fujiki (2010-02-13 08:36) 

むみ

花粉症は重くないので、薬は使っていませんが、私も息子も気管支喘息で私はキプレスとアドエア100、息子はオノンとフルタイド100を使用しております。間欠的な気管支喘息でもロイコトリエン拮抗薬は、1ヶ月単位で使用せねばならないのですしょうか?ステロイド(粉)吸入も発作のない時も使用しなければならないのでしょうか?
風邪を引きやすく、副鼻腔炎にもなり、今はムコダインとクラリスも3週間に処方されていて、不安です。
by むみ (2010-02-14 10:54) 

fujiki

むみさんへ
コメントありがとうございます。

喘息については、ロイコトリエン拮抗薬の、
長期使用の効果は示されており、
喘息の発作と病状のコントロールに有益であれば、
使用は止むを得ないと僕は思いますし、
僕自身実際に処方もしています。

喘息の場合、主に発作の回数と、
ピークフローの数値を含めた、
呼吸機能の数値が、
その経過の指標になると思うのですが、
間欠性で呼吸機能の数値も安定していれば、
まずオノンやキプレスの方から一時中止して様子を見ても、
問題はないのではないか、と思います。

ポイントは自覚的な症状がなくても、
気道の炎症が持続している場合はあることで、
ステロイドの吸入はある程度持続し、
減量中止も慎重にした方が望ましい、と思います。

医者の立場から言うと、
吸入がおろそかになっているケースが多いので、
何となく抗アレルギー剤も、
安心のために乗せてしまうことが多いのですが、
実際には吸入ステロイド単独でコントロール可能なケースも多く、
そうした場合にはロイコトリエン拮抗薬は中止すべき薬剤だ、
というのが僕の立場です。

ただ、これは僕の個人的な見解で、
必ずしも喘息治療の一般的な考え方ではないので、
その点はどうかお間違えのないようにお願いします。

でも、主治医の先生に、
出来ればロイコトリエン拮抗薬は早めに止めたい、
と言って頂くのは良いことだと思います。
医者は何も言われなければ、
何となく薬を続けてしまう生き物だからです。

ご参考になれば幸いです。
by fujiki (2010-02-14 12:43) 

むみ

丁寧で判りやすいご説明、大変助かります。
『ステロイド』と言う薬は、あまり身体には良くないと言う認識がありまして、調子が良いとそちらを先に中止していました。先生のブログとお返事にて、中止する順番と薬の内容等が良くわかりました。
本当にありがとうございました。
by むみ (2010-02-14 18:32) 

むみ

判りやすく丁寧にご説明いただきまして、大変助かります。
『ステロイド』という薬が身体には良くないという思いがあり、調子が良いとやはり先に中止しておりました。
今回の先生のブログと回答等にて薬の事が良くわかりました。
本当にありがとうございました。
by むみ (2010-02-14 18:36) 

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