ニコチン酸の話 [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日は久しぶりに以前結構記事にした、
ビタミン関連の話をします。
ビタミンの仲間の中でも、
非常に興味深い性質を持つ、
「ニコチン酸」の話です。
ニコチン酸（nicotinic acid ）は、
ごく少量は必須アミノ酸である、
トリプトファンから人間の身体で合成されますが、
その大部分は食事として摂る必要があり、
その意味でビタミンの仲間に分類されています。
トリプトファンから合成される物質には、
他に皆さんお馴染みの「セロトニン」があります。
両者は全く別個の物質ですが、
無関係かと言うとそうでもなく、
ニコチン酸が過剰で現われる「ほてり感」のような症状は、
セロトニンの過剰による血管拡張と同じですし、
ニコチン酸の欠乏は、
意欲低下や幻覚妄想などの、
精神症状の原因ともなります。
また、腫瘍がセロトニンを合成する、
「カルチノイド症候群」では、
トリプトファンがセロトニンの合成のみに使われて、
ニコチン酸が作られなくなるため、
ニコチン酸の欠乏症状が出ることが知られています。
ただ、実際には身体で作られるニコチン酸は、
食事で得られる量の60分の1程度とされていて、
何故それがなくなっただけで、
欠乏症状が出るのか、
ちょっと理屈に合いません。
どうも、セロトニンとニコチン酸との関係には、
まだ分かっていない点が多くありそうです。
ニコチン酸という言葉は、
ちょっと紛らわしい点が多く、
その言葉の定義もかなり混乱しています。
まず、タバコに含まれ、副交感神経を刺激する、
「ニコチン」との関係がよく誤解を招きます。
ニコチンとニコチン酸とは、
基本的には全く別の物質ですが、
ある条件でニコチンを加熱すると、
ニコチンが酸化してニコチン酸になるので、
この物質がニコチン酸と命名された、
という経緯があります。
しかし、実際に人間の身体の中で、
そうした反応の起こることはありません。
また、ナイアシン（niacin ）という言葉があります。
ニコチン酸は体内でアミノ基と置換して、
ニコチン酸アミド（nicotinic acid amide ）になりますが、
この2つを総称して、ナイアシンと呼ぶことがあります。
その一方で、ニコチン酸のみをナイアシンと呼ぶこともあり、
それが非常に混乱の元になっています。
僕は基本的にはナイアシンという言葉は使わず、
ニコチン酸とニコチン酸アミドを、
分けて考えるようにしています。
さて、ニコチン酸とニコチン酸アミドは、
単独で固有の作用を現わしますが、
それ以外に人間の身体の中で、
NADとNADPという名前の物質に変換します。
このNADは、人間の身体のエネルギー代謝に、
なくてはならない物質であると共に、
人間の老化やメタボリックシンドロームの予防にも、
大きな役割が期待されています。
余分なカロリーを摂ると、
その行為は細胞の老化に繋がります。
肥満は動脈硬化を進行させ、
それが脳梗塞や心筋梗塞などの原因となる訳ですが、
そうしたことの以前に、
細胞内への余分なエネルギーの流入自体が、
細胞の寿命を縮めるのです。
しかし、生物というのはうまく出来ているもので、
身体にはこの細胞の老化を、
遅らせる蛋白質が存在しています。
この蛋白質をSirt1 と呼んでいます。
赤ワインが老化を抑えるとか、動脈硬化を抑える、
といった話がありますね。
これは赤ワインの中のポリフェノールである、
レスベラトロールという物質が、
このSirt1 の活性を高めるためだと言われています。
（それ以外の意見を主張する方もいて、
最近記事になりましたね）
そして、このSirt1 は細胞の中のNADの量が増加することで、
その活性が高まるということも、
ほぼ明らかになっています。
つまり、ニコチン酸は細胞内のNADを上げることにより、
Sirt1 を活性化させ、そのことによって、
細胞の老化を防ぎ、
メタボリックシンドロームを予防する効果も、
あると考えられるのです。
ここまでは、ちょっとほら話のように、
思われた方もいらっしゃると思います。
ところが、今年、非常に興味深い論文が、
有名なアメリカの医学誌、
「the New England Journal of Medicine 」に掲載されました。
「Extended-Release Niacin or Ezetimibe and Carotid Intima-Media Thickness 」
と題する論文です。
これはどういう内容かと言うと、
スタチンと呼ばれる一般的なコレステロール低下剤
（リポバスやメバロチンがその代表です）
で治療している患者さんに、
その治療の上乗せ効果を見るために、
ニコチン酸と、ゼチーアというコレステロールの吸収を抑える新薬とを、
2つの群に分けて使用し、その効果を見たものです。
その効果の指標は、首の血管の動脈硬化を、
超音波で診る検査と、心臓病の発生率です。
その結果は非常に意外なもので、
コレステロールの新薬よりも、
ニコチン酸の方が、
動脈硬化の改善率も、心臓病の発症予防効果も、
全て上回っていたのです。
おまけに新薬は善玉コレステロールを減らしたのに対して、
ニコチン酸はそれを18%以上も上昇させていました。
つまり、高価な新薬よりも、
安いニコチン酸の方が、
圧倒的な効果があったのです。
ニコチン酸は悪玉コレステロールを低下させ、
中性脂肪を低下させ、善玉コレステロールを上昇させます。
更に首の血管の動脈硬化を改善し、
心臓病の発生も抑えます。
ただ、ちょっと問題もあります。
この研究では1日2000mg のニコチン酸が使用されていますが、
これはかなりの高用量です。
一般的にサプリメントに含まれているニコチン酸は、
ニコチン酸アミドで1日せいぜい150ｍｇ 程度です。
果たしてその10倍以上の量を使用して、
問題はないのでしょうか？
ちょっと長くなりましたので、
実際にどの程度の用量が適切かについての話は、
明日に譲りたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日は久しぶりに以前結構記事にした、
ビタミン関連の話をします。
ビタミンの仲間の中でも、
非常に興味深い性質を持つ、
「ニコチン酸」の話です。
ニコチン酸（nicotinic acid ）は、
ごく少量は必須アミノ酸である、
トリプトファンから人間の身体で合成されますが、
その大部分は食事として摂る必要があり、
その意味でビタミンの仲間に分類されています。
トリプトファンから合成される物質には、
他に皆さんお馴染みの「セロトニン」があります。
両者は全く別個の物質ですが、
無関係かと言うとそうでもなく、
ニコチン酸が過剰で現われる「ほてり感」のような症状は、
セロトニンの過剰による血管拡張と同じですし、
ニコチン酸の欠乏は、
意欲低下や幻覚妄想などの、
精神症状の原因ともなります。
また、腫瘍がセロトニンを合成する、
「カルチノイド症候群」では、
トリプトファンがセロトニンの合成のみに使われて、
ニコチン酸が作られなくなるため、
ニコチン酸の欠乏症状が出ることが知られています。
ただ、実際には身体で作られるニコチン酸は、
食事で得られる量の60分の1程度とされていて、
何故それがなくなっただけで、
欠乏症状が出るのか、
ちょっと理屈に合いません。
どうも、セロトニンとニコチン酸との関係には、
まだ分かっていない点が多くありそうです。
ニコチン酸という言葉は、
ちょっと紛らわしい点が多く、
その言葉の定義もかなり混乱しています。
まず、タバコに含まれ、副交感神経を刺激する、
「ニコチン」との関係がよく誤解を招きます。
ニコチンとニコチン酸とは、
基本的には全く別の物質ですが、
ある条件でニコチンを加熱すると、
ニコチンが酸化してニコチン酸になるので、
この物質がニコチン酸と命名された、
という経緯があります。
しかし、実際に人間の身体の中で、
そうした反応の起こることはありません。
また、ナイアシン（niacin ）という言葉があります。
ニコチン酸は体内でアミノ基と置換して、
ニコチン酸アミド（nicotinic acid amide ）になりますが、
この2つを総称して、ナイアシンと呼ぶことがあります。
その一方で、ニコチン酸のみをナイアシンと呼ぶこともあり、
それが非常に混乱の元になっています。
僕は基本的にはナイアシンという言葉は使わず、
ニコチン酸とニコチン酸アミドを、
分けて考えるようにしています。
さて、ニコチン酸とニコチン酸アミドは、
単独で固有の作用を現わしますが、
それ以外に人間の身体の中で、
NADとNADPという名前の物質に変換します。
このNADは、人間の身体のエネルギー代謝に、
なくてはならない物質であると共に、
人間の老化やメタボリックシンドロームの予防にも、
大きな役割が期待されています。
余分なカロリーを摂ると、
その行為は細胞の老化に繋がります。
肥満は動脈硬化を進行させ、
それが脳梗塞や心筋梗塞などの原因となる訳ですが、
そうしたことの以前に、
細胞内への余分なエネルギーの流入自体が、
細胞の寿命を縮めるのです。
しかし、生物というのはうまく出来ているもので、
身体にはこの細胞の老化を、
遅らせる蛋白質が存在しています。
この蛋白質をSirt1 と呼んでいます。
赤ワインが老化を抑えるとか、動脈硬化を抑える、
といった話がありますね。
これは赤ワインの中のポリフェノールである、
レスベラトロールという物質が、
このSirt1 の活性を高めるためだと言われています。
（それ以外の意見を主張する方もいて、
最近記事になりましたね）
そして、このSirt1 は細胞の中のNADの量が増加することで、
その活性が高まるということも、
ほぼ明らかになっています。
つまり、ニコチン酸は細胞内のNADを上げることにより、
Sirt1 を活性化させ、そのことによって、
細胞の老化を防ぎ、
メタボリックシンドロームを予防する効果も、
あると考えられるのです。
ここまでは、ちょっとほら話のように、
思われた方もいらっしゃると思います。
ところが、今年、非常に興味深い論文が、
有名なアメリカの医学誌、
「the New England Journal of Medicine 」に掲載されました。
「Extended-Release Niacin or Ezetimibe and Carotid Intima-Media Thickness 」
と題する論文です。
これはどういう内容かと言うと、
スタチンと呼ばれる一般的なコレステロール低下剤
（リポバスやメバロチンがその代表です）
で治療している患者さんに、
その治療の上乗せ効果を見るために、
ニコチン酸と、ゼチーアというコレステロールの吸収を抑える新薬とを、
2つの群に分けて使用し、その効果を見たものです。
その効果の指標は、首の血管の動脈硬化を、
超音波で診る検査と、心臓病の発生率です。
その結果は非常に意外なもので、
コレステロールの新薬よりも、
ニコチン酸の方が、
動脈硬化の改善率も、心臓病の発症予防効果も、
全て上回っていたのです。
おまけに新薬は善玉コレステロールを減らしたのに対して、
ニコチン酸はそれを18%以上も上昇させていました。
つまり、高価な新薬よりも、
安いニコチン酸の方が、
圧倒的な効果があったのです。
ニコチン酸は悪玉コレステロールを低下させ、
中性脂肪を低下させ、善玉コレステロールを上昇させます。
更に首の血管の動脈硬化を改善し、
心臓病の発生も抑えます。
ただ、ちょっと問題もあります。
この研究では1日2000mg のニコチン酸が使用されていますが、
これはかなりの高用量です。
一般的にサプリメントに含まれているニコチン酸は、
ニコチン酸アミドで1日せいぜい150ｍｇ 程度です。
果たしてその10倍以上の量を使用して、
問題はないのでしょうか？
ちょっと長くなりましたので、
実際にどの程度の用量が適切かについての話は、
明日に譲りたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2010-01-20 08:20
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コメント(11)
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お返事ありがとうございました。
先生のお返事をみて安心しました
一昨日ぐらいから、お腹に風邪菌が入ったみたいで、下痢したり、胃が気持ち悪かったりするのですが、熱は全くありません
続くようなら、予防接種前に内科の先生に診ていただこうと思っていますが、熱がないこれぐらいの症状なら打っても差し障りないですか？
ちなみに季節性の時はやや風邪気味でした
でも風邪気味の日は多いのであまり酷くないものは気にしなくてもいいですか？
ダラダラと長い文をすみません。
心配性なので、答えて頂ければ幸いです
by シロ (2010-01-20 09:38)
何度もすみません
健康成人は国産ワクチン、輸入ワクチンは選べるんでしょうか？
自分は国産ワクチンを打ってもらいたいんですが、もし輸入ワクチンしか打ってもらえない場合は自分のような身体でも大丈夫でしょうか？
by シロ (2010-01-20 15:04)
シロさんへ
コメントありがとうございます。
熱があったり、引き始めで寒気があったりする場合には、
避けた方が無難ですが、
治りかけのような時期であれば、
それほどご心配される必要はないと思います。
輸入ワクチンと国産ワクチンは、
希望で選択が可能です。
ただ、まだ1月中は輸入ワクチンは出回らないので、
全て国産ワクチンと考えて頂いて、
間違いはありません。
by fujiki (2010-01-20 15:45)
お忙しい中、早いお返事ありがとうございます
先生のご意見のおかげで心がすごく楽になりました
とても感謝しております
また質問なんですが、脳の視床下部の働きが悪いと症状をみてると思うんですが、何か視床下部をトレーニングする方法などありますでしょうか？
前も書いた通り倒れて、かれこれ４年経ちます
劇的変化はないものの、ゆっくり回復しています
やっと１人で近くに買い物に行けるようになってきたんですが、他にもトレーニング方法があれば教えて下さい。
今春から大学も決まっていて、それまでに体力作りと外出慣れができれば、講義も受けやすくなるかな、と思っています
by シロ (2010-01-20 16:15)
ここ最近のニュースや新聞を見て｢だったら国産ワクチンがあるうちにワクチン受けよう！｣という人がたくさんいるだろうなぁ～と思っていたら・・・
今日、定期受診で行った総合病院はワクチン接種患者さん＆予約をする人でで大混雑でした。
私は先生のブログの記事と主治医の意見を参考に、受けないと決めているんですけど・・・
輸入ワクチンは、現物が来てから健康な人を対象にデータを集めると新聞で見たのですが、心配ですね。
お腹の風邪も流行っているようですね～～～
｢１週間以上下痢が続いて・・・｣って、予約の日まで待たないで近所の病院行きなさいよ！と、突っ込みたくなりました^^;
by まみしゃん (2010-01-20 20:14)
シロさんへ
コメントありがとうございます。
あまり画期的なことはお話出来ませんが、
僕が重視していることは、
身体に適度な刺激を与えることと
（ストレッチとか体操程度で構いません）、
規則正しい生活を維持することです
（特に起床時間をずらさない）。
でも、特別なことより、
シロさんのペースで少しずつ進めていければ、
良いのではないか、と思います。
by fujiki (2010-01-21 08:34)
まみしゃんさんへ
コメントありがとうございます。
診療所の周辺では、
ワクチンの希望者は非常に少ないと思うのですが、
地域によっても違いがあるのですね。
また情報があれば教えて下さい。
by fujiki (2010-01-21 08:36)
昨日のコメントの訂正と補足です！
昨日、内科でワクチンを接種されていたかたは｢季節性｣のワクチンです。
混雑していた予約窓口は｢新型｣で、新型ワクチンは接種場所もまったく別のところでされているそうです。
今、予約されているかたは優先順位のつかなかった一般の方だそうです。
北海道は例年では季節性が流行る時期で、ワクチンも年内に済ませる方が多いと聞きますが・・・２月初めの雪まつりの前後に大流行するのが、北海道の例年のパターンです。
by まみしゃん (2010-01-21 16:43)
すごく面白いブログですねっ！
これからも頑張って下さい！
by メタボリックを解消するダイエット方法 (2010-01-21 22:03)
まみしゃんさんへ
コメントありがとうございます。
何となく国産新型ワクチンの接種希望者は、
ここ数日増えているようです。
by fujiki (2010-01-22 08:28)
「メタボリックを解消するダイエット方法」さんへ
ご一読ありがとうございました。
by fujiki (2010-01-22 08:29)