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グラクソ社新型ワクチンの資料を読む [新型インフルエンザA]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

一般への意見募集に際して、
国が輸入予定としているワクチンの1つ、
グラクソ・スミスクライン社の新型インフルエンザワクチンの、
膨大な検討資料が公開されています

今日はこの資料のポイントを、
僕なりにまとめてみたいと思います。

グラクソ社の新型インフルエンザワクチンは、
基本的には国産のワクチンと同じ、
鶏の卵で培養された、
スプリットワクチンです。
グラクソ社は、こうして造られた抗原を用いて、
何種類かのワクチンを製造しています。

その1種類が、Q-Pan(H1N1 )抗原製剤と呼ばれるもので、
その組成は国産新型ワクチンとほぼ同一のものです。
WHOお墨付きのウイルス株が、
その製造の元になっています。
基本的にはAS03と呼ばれるアジュバント(免疫増強剤)と、
一緒に用いる形式のものですが、
アメリカはアジュバントの使用を認めていないので、
アジュバントを含まない、
日本と同様の製法のものも、
別個に製造されています。

そして、もう1種類が、D-Pan( H1N1 )抗原製剤と呼ばれるもので、
これは、Q-Pan製剤とは異なる抗原を原料として用いているもので、
これもグラクソ社オリジナルのアジュバントを加えた製剤です。

そして、今回日本で輸入が検討されている
(実際にはもう輸入が決まっている)のは、
このQ-Pan抗原にアジュバントを含んだ、
カナダの工場で製造された新型ワクチンです。

アジュバントはワクチンの効果を高める物質だ、
と言われています。
従って、アジュバントを加えることで、
そのワクチンに添加する抗原の量は、
それだけ少なくすることが可能です。

通常アジュバントを含まないスプリットワクチンには、
大人1人分当たり、15μg の抗原が含まれていますが、
このグラクソ社の日本で輸入予定の製剤には、
大人3.8μg の抗原しか含まれてはいません。
要するにほぼ4分の1です。

抗原というのは勿論、ワクチンが変異すれば、
それに合わせたものを培養しなければなりません。
しかし、アジュバントは抗原が変異しても、
同じものを使うのですから、
単純に考えて、通常のスプリットワクチンの、
4倍の量が製造出来てしまう、
ということになります。

これはそれだけ多くのワクチンが、
短期間に製造出来、パンデミックを食い止められるのだ、
という言い方も可能ですし、
実際に行政や御用専門家は、
そう主張している訳ですが、
実際にはむしろメーカーにとって、
都合の良い方法である、という言い方が出来ます。
ほぼ同じ労力で、
4倍の量のワクチンが製造出来るのですから、
それだけ利潤も大きくなる道理です。

本来は日本と同様の製法のワクチンも、
グラクソ社では造っているのですから、
日本用にアジュバントを含まないワクチンを、
使用させて欲しい、と、アメリカと同じように、
要求することも出来た筈です。

実際にそうした交渉も行なわれたのですが、
提供出来るワクチンはアジュバント入りのものしかない、
とメーカー側から袖にされたのが、現実のようです。

実際、承認検討時の専門家の発言にも、
そのことを窺わせる文言が見られます。

「現時点でQ-Pan( H1N1 )を接種する必要性は疑問である。アジュバント無添加の製品を使用する方が良いと考えられる」

「アジュバントは、免疫に用いる抗原に暴露されたことがない集団の初期免疫に効果を発揮し、追加免疫には効果がないか、非常に低い。(中略)作用機序から考えてアジュバントを添加する必然性は低い」

ところが…

「Q-Pan( H1N1 )以外に、新型インフルエンザワクチンが入手できないという状況においては、新型インフルエンザ対策の選択肢の一つとしてQ-Pan( H1N1 )を使用できるようにしておくことは意義があるかもしれない」

というような、消極的な容認の意見をもって、
このワクチンは採用されたのです。

さて、グラクソ社のワクチンは、
アジュバントの容器と、
抗原の入った容器とが、
別々のバイアルに入っている点に、
その特徴があります。
その2つの容器を接種する前に混ぜ合わせ、
アジュバント入りワクチンを完成させるのです。
これによって、
様々の配合のワクチンを、
簡単に製造することが可能になります。
実際にアジュバントが半量のものなども、
製品として存在しています。

ただ、ノバルティス社のワクチンも、
独自のアジュバントを含む製剤ですが、
予めアジュバントと抗原とは一体となっています。

今回の検討で問題となった1つの点は、
グラクソ社のワクチンに、
製品としての不安定性があるのではないか、
ということです。

抗原の入ったボトルに、
本来はない筈の濁りが見付かり、
それが何故生じているのかが、
現時点ではっきりとしていません。

アジュバントと直前に混ぜ合わせる、という手法を含めて、
このワクチンはやや製剤としての安定性に問題があるのでは、
と疑われるところが、このワクチンの1つの問題点です。

このワクチンのもう1つの問題点は、
行政御用研究所で行なわれた動物実験において、
ネズミが、肝機能障害や出血を伴う循環不全、
胸水貯留を伴う炎症反応を来たした、という結果が報告され、
それがアジュバントの毒性によるものではないか、
と推測されている点です。

これは専門家の検討の結果として、
高用量での結果であり、
安全性に問題はない、と例によって、
結論付けられていますが、
委員からは、
サイトカインの誘導による、全身性ショックではないか、
との意見もあり、
興味深く感じるところです。

皆さんも良くご存知のように、
ワクチン接種後の出血傾向や、
細菌感染症の急性増悪、
胸水貯留を伴う肺炎の発生は、
国産新型ワクチンの接種後死亡事例でも、
複数報告されている症状であるからです。

矢張り、新型抗原の刺激によって、
稀ではあるけれども、
ワクチンでもこうしたことは起こり得るのだ、
という事実の1つの傍証に、
この動物実験のデータはなるのではないか、
という気がします。

それでは、このワクチンの効果は、
一体どの程度のものなのでしょうか?

長くなりましたので、
その点はまた明日に続けたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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a-silk

今日の東京新聞・こちら特報部に、疫学者、岡山大大学院教授
津田敏秀さんが、紹介されています。

デスクメモはこう書いています「学者には行政の審議会委員になり仕事を請け負う人と、「名誉とカネ」は得にくいが、不作為を厳しく指摘して世の中を変えたいという人がいる。津田さんは「第三の人」か。

反骨精神とも違い、大仰に構えていない。ただ、新聞記者が負けるほど「現場百遍」に徹し、その中に光を見ているのだろう。(呂)

記事読んでいたら、石原先生思い出しました。


by a-silk (2010-01-12 17:23) 

fujiki

a-silk さんへ
コメントありがとうございます。

結果はともかく、
意気込みだけは負けないようにしたいと思います。
by fujiki (2010-01-12 20:52) 

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