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大阪府高校生の新型インフルエンザ抗体測定結果を考える [新型インフルエンザA]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は1日大掃除の予定です。
掃除は苦手なので、
もう既にやる気がめげそうですが、
何とか頑張って、すっきりとした気分で、
新年を迎えたいと思います。

それでは今日の話題です。

今日は新型インフルエンザ関連の話です。

12月25日に公開された、
「新型インフルエンザの発生動向」
という資料の中で、
長く詳細がはっきりしていなかった、
新型インフルエンザが5月に集団感染を起こした、
大阪府の私立高校の、
新型インフルエンザ抗体検査結果が、
やや不充分な形ながら、
記載されています。

今日はその内容を、
検証してみたいと思います。

この調査は、大阪公衆衛生研究所と、
国立感染症研究所とが主体となり、
5月に新型インフルエンザの集団感染のあった、
大阪府の私立高校の生徒、教職員のうち、
希望者647名を対象に、
8月下旬に採血を行ない、
その血液の中和抗体価を測定した、
というものです。

それに加えて、その採血時および5月の時点での、
採血をした人の健康状態や、
新型インフルエンザに感染したかどうかの、
症状出現の有無のチェックを行ない、
更にはその後の生徒の欠席状況の有無を、
学校から情報提供された、
という内容です。

そこから、果たして何が分かったのでしょうか?

まず、以前にもご紹介した、
新聞記事をもう一度見て頂きます。

【新型インフル、感染も2割は無症状―大阪で血清疫学研究】大阪府は12月11日、新型インフルエンザに感染しても2割は無症状だったとする血清疫学研究の結果を発表した。新型インフルエンザでもこうした「不顕性感染」があることが、データに基づいて確認されたのは初めてという。大阪府によると、研究は府立公衆衛生研究所が国立感染症研究所の協力を得て実施。5月に新型インフルエンザが集団発生した関西大倉中学・高等学校の生徒、教職員など計647人から8月下旬に採血し、中和抗体価の測定とアンケート調査を行った。その結果、中和抗体価160倍以上が102人、10倍以上160倍未満が211人、10倍未満が334人だった。採血日までにPCR検査で確定診断された21人では、85.7%に当たる18人が160倍以上だった。このことから研究班は、「160倍以上の中和抗体価を有する人は、新型インフルエンザウイルスに感染した可能性が非常に高い」と指摘している。一方、中和抗体価が160倍以上で、5-8月の症状の有無が確認できた98人のうち、18人(18%)は無症状だった。18人のうち17人が高校生、1人が教職員で、中和抗体価が最も高い人は1280倍以上だった。この18人について研究班では、感染しても症状が出ない不顕性感染の可能性が高いと結論付けている。また、採血日以降にインフルエンザを発症した108人のうち、中和抗体価が160倍以上の人が3人いた。研究班では「中和抗体価が160倍以上でも、新型インフルエンザウイルスに感染し、発症する可能性がある」としている。

この記事の時点でははっきりせず、
今回の資料で初めて明らかになった点が、
幾つかあります。

まず、抗体の測定法についてですが、
資料によれば、中和試験による中和抗体価が、
測定されていることが明記されています。

通常測られている抗体は、
HI抗体ですが、これはウイルスが、
動物の赤血球を、互いにくっつける性質を利用した、
抗体の測定法です。
これに対して、中和抗体は、
抗体の濃度を変えて、直接にウイルスの増殖が、
阻止される濃度を求めるもので、
より、感染防御の直接の指標となりうるものです。

それは良いのですが、この測定法は、
厳密に言えば、HI抗体と同一ではありません。
また、計測法や施設によって、
その値は微妙に異なることが指摘されています。
また、ウイルスそのものを用いるので、
感染するリスクがあり、
施行出来る施設は限られます。

HI抗体価の40倍、と言うのと、
中和抗体価の40倍と言うのは、
ほぼ同じ意味合いですが、
厳密には違います。

それで、少なくとも海外で発表されている、
まっとうな論文では、
こうした場合、HI抗体と中和抗体
(場合によっては他の抗体も)、
を同時に測定し、その換算を行なって、
免疫の評価を行なっています。

しかし、今回のデータでは、
中和抗体価しか測定はされていません。
その検査の主体はおそらく感染症研究所です。

ここで皆さんに、今までの日本での、
新型インフルエンザワクチンの、
臨床試験の結果を思い出して頂きたいのですが、
最初に公表された「健康成人」への臨床試験では、
HI抗体価と中和抗体価が同時に測定されていますが、
主にHI抗体価で、その効果の有無が、
判定されているのです。
その検査を行なった主体は、
ワクチンを提供した北里研究所です。

次に最近公表された妊娠されている方への試験では、
抗体価はHI抗体価のみで測定され、
その検査は矢張りワクチンを提供した、
北里研究所で行なわれています。
その効果判定は、従って、
HI抗体価のみで行なわれています。

更に中高生での試験は、
阪大微研のワクチンが使用され、
HI抗体価のみの測定で、
その検査も阪大微研で行なわれています。

つまり、バラバラの検査機関で、
バラバラの方法で、抗体価の測定は行なわれているのです。

この結果を比較することに、
果たして厳密な意味があるでしょうか?

これがまず、僕の第一の疑問です。

本来は実際に感染した方の抗体価の測定と、
ワクチンの効果を見るための抗体価の測定は、
同一の方法で、同一の検査機関で行なってこそ、
議論が出来る筈です。
色々と事情はあるのでしょうが、
こうした杜撰な調査では、
本来分かることも分からないままに終わるのではないか、
という不安が頭をもたげます。

次に、以前にも触れた、
「不顕性感染」と「再感染」についてです。

この調査の一番の問題点は、
調査が個別の聞き取りではなく、
調査票を渡し、それに書き込んでもらうだけの、
「アンケート調査」であることです。
そのために、インフルエンザの症状との対比が、
あまり明確には出来ていません。
また、あくまで希望者のみの測定となっているため、
実際に確認された新型の感染者は、
647名中21名にしか過ぎません。
(全校生徒は1500名です)
その21名はいずれも中和抗体価は、
56倍以上に分布しています。
ただ、上の記事でも分かるように、
抗体価が10倍未満の人が、
半数以上の334名に上っており、
感染者がむしろ調査を希望しなかったのでは、
という疑問が湧かざるを得ません。
従って、この結果だけを元に、
「不顕性感染」がどのくらいありそうだ、
というような数字を出してみたところで、
あまり意味があるとは思えません。

最後にこの調査で一番のポイントとも言える、
短期間での「再感染」の有無についてですが、
これは正直、非常にがっかりの内容です。

8月以降に新型インフルエンザに感染したことを、
どのようにして確認したのかと言うと、
学校から欠席状況の届出の提供を受け、
「インフルエンザで欠席」という申告のあった人数を、
ただカウントしただけなのです。

その生徒の個別調査をした訳でもなければ、
アンケートすら再度実施した訳でもありません。
極めつけは、一体いつの時点で、
その確認をしたのか、と言う点も、
報告には一切書かれていません。
再感染の有無を確認した、と言うからには、
「どの時点で確認したのか」という期日は、
明確にしなければ、意味がありません。
そんなことは偉い先生は百も承知の筈ですから、
敢えて書いていないのは、
それが書けないような、何らかの事情があるのだと思います。

つまり、皆さんが学校に提出する、
お子さんの登校許可の証明書を、
ただ集計しただけなのです。

それで再感染の有無を、検証することなど出来るでしょうか?

せめて、その方本人への聞き取りはすべきですし、
同意が得られれば、抗体価も、
再測定を行なうべきです。
それを何もしないで、
中間報告もくそもない、
というのが僕の見解です。

今回の報告内容を見る限り、
上の記事の内容はかなりオーバーなもので、
実際には、「不顕性感染」も「再感染」もありそうだ、
という程度で、確定的なことは何も言えませんし、
言えるほどの内容ではありません。

疫学調査というからには、
せめてもう少し精度の高いものを提供するべきですし、
それだけの研究費は何処か天の財布から、
確実に出ている筈なのですから、
周囲ももう少し、高いレベルのものを求めるべきだと思うのですが、
皆さんはどうお考えになりますか?

今日は新型インフルエンザの、
疫学調査と称するものについての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 4

a-silk

くそもない報告、石原先生ボルテージが上がりますよね。
国民の血税で、仕事してる立場の人は、誰のための報告書を、
書いているのでしょう。
介護保険料で運営されている、母が転倒した特養の、屁にもならない、三つの報告書を検証してきましたが、それも終わり。
1月中には、私の報告書と共に、施設の報告書を、国に報告します。
消費者安全法なる、生まれたばかりの法律が、事の真相を、明らかにしてくれるかもしれません。
真相は、分かっているのですが。やるべき事を、国民のために、やる立場の方には、きっちり仕事して、頂きます。
お陰で、大掃除も、年賀状も、来年に持ち越しになりそうです。

母の居る施設は、老健です。長くて半年しか入れません。
認知症ユニットにいる方は、それは、それは、どう表現していいか。
みんな大好きなんですが。
自宅で、毎日介護するのは、家族がまいるだろうな、と感じます。

隣の同じ認知症のユニットから、毎朝ご訪問していただき、毎回名言を
言っては、お帰りになる、トメさんという方が、いつの間にか、退所しました。
「人間は、生きがいというものが、なくちゃならん。」
「自分の気持ちを、素直に、伝えて、お互いが、分かり合って、みんな仲良くしなくてはならん。」
こんな名言を、言われた後、車椅子に座る、母の裏にいた私に、
「ところで、あんたは、この人の、お兄さん?」と、おしゃった。
漫才のM1もかなわない、本物のギャグでした。
彼女が、大好きでした。
出会いと、別れ。
看取りは、もっと、大変ですね。













それだけの研究費は何処か天の財布から、

除は苦手なので、
もう既にやる気がめげそうですが、
何とか頑張って、すっきりとした気分で、
新年を迎えたいと思います。


by a-silk (2009-12-30 20:25) 

fujiki

a-silk さんへ
コメントありがとうございます。

良い年の瀬をお迎え下さい。
by fujiki (2009-12-31 10:47) 

ペポ

こんにちはペポです。
年末年始は千葉の実家にも帰らず、相変わらず宮城です。

にしても

技術立国 日本 の名が泣きますよね。

データーに目を通しましたが、
お粗末過ぎ・・・。

自分で作ったワクチンを自分で評価したものって
信憑性どれくらいでしょうね。

公平な立場の第三者機関により、
同一測定方法を用い、
各メーカーのワクチンの臨床データーをこそ
取って欲しいなぁと思います。

が、検証していくというよりは最近は
検査なんていらないって方向ですし。
これだと、鳥インフル来たらアウトですよね。

調査でインフル発症日が分からないのでは、
採血時には潜伏期間中だった人とか平気で入ってそう・・。
既に抗体を作りはじめ体の中でウイルスと戦っている最中とか・・。



by ペポ (2009-12-31 17:27) 

fujiki

ペポさんへ
明けましておめでとうございます。

言われるように、
もう少ししっかりとした検証体勢を、
造ってから、
「ワクチン安全保障」のような議論をして欲しい、
と思います。

今年もよろしくお願いします。
by fujiki (2010-01-01 08:00) 

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