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新型ワクチンの新たな臨床試験結果について [新型インフルエンザA]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日で診療所の年内の診療は終了します。
朝から検診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

先週、新型ワクチン接種は、
1回か2回か、という今更どうでもいいようなことを、
議論する専門家の検討会があり、
その場で妊娠されている方と、
中学生、高校生の1回接種の方針が、
改めて決定されました。

何と先週ようやっとその問題が、
決着したのです。

何と言うか、馬鹿馬鹿しくて嫌になりますね。

その検討会用の資料として、
妊娠されている方
(僕は「妊婦」」という言い方は基本的に使いません)
と、中学生、高校生への、
新型国産ワクチンの臨床試験の、
中間報告の結果が公表されました。

ところが、同じ時期に結果は判明している筈の、
もっと小さなお子さんへの、
臨床試験の結果は、
まだ公表されていません。

また、もうとっくに最終の結果まで出ている筈の、
輸入ワクチンの治験の結果も、
まだ公表されている、という話は聞きません。

勿論報道もありません。

仮に税金を使って行なった臨床試験であって、
国民の健康や安全に直結するものであっても、
会議の検討事項に必要な資料でなければ、
公開はしない、というのが、
行政の方にとっては、
当然のことなのかも知れません。

要するに情報は、
差し迫った必要性がなければ、
極力開示せず、都合の良いタイミングを図る、
ということのようです。
僕はこうしたことこそ、
情報操作ではないのか、という気がしますが、
別にメディアで問題になる訳でもなく、
政権交代があっても変わりがないところを見ると、
僕の考えの方が非常識なのかも知れません。

それはともあれ…

今回発表された臨床試験の中間報告の内容を、
ざっと見てみましょう。

まず妊娠されている方への、
臨床試験の結果です。

これはまあ、予想されたように、
以前の「健康成人」への臨床試験の結果と、
ほぼ同等のものです。
ワクチンは北里研究所のものが使われています。
抗体の上昇も同程度のもので、
基準上は80%以上が上昇の基準を満たしています。

ただ、以前触れたように、
実際に160倍の抗体価でも、
数ヶ月のうちに感染した事例が複数あり、
これで間違いなく効果があります、
と言えるような内容ではありません。
ただ1割弱の方は、陰性から、
抗体価が640倍以上に上昇していて、
元々の免疫が存在しないにしては、
抗体の上昇があまりに良過ぎるのでは、
という思いはします。
1つの問題はこの抗体価が、
感染防御に直結するものなのかどうか、
ということであり、
もう1つの問題はこの抗体価が、
どの程度の期間維持されるのか、
ということです。
ちなみに、今回はHI抗体価のみが、
公表されています。

次に中学生、高校生の臨床試験ですが、
不思議なことに、これは、
「インフルエンザ及び近年流行が問題となっている呼吸器感染症の分析疫学研究班」
という長ったらしい、
行政御用研究班が、
施行したという体裁になっています。
上記の研究班は、別個の研究内容で、
国から研究費をもぎ取っている筈で、
何故今回白羽の矢が立ったのでしょうか?
何となく裏のありそうな話です。

それはそれとして、
これまでの臨床試験の報告書と比べると、
内容は明らかにかなりスカスカのものです。
抗体価ははなからHI抗体価しか測定対象にはなっておらず、
2回接種の施行も予定すらありません。
あくまで1回接種後の抗体価を測って、
それでおしまい、という内容です。
これは1回接種か2回接種か、
どちらかを選ぶための研究の筈ですが、
最初から2回打つというつもりもないのです。
また、実際の抗体価がどの程度のものであったのか、
という個別のデータも、全く示されてはいません。

接種前の抗体価が40倍以上の方に限って見ると、
高校生では抗体が4倍以上上昇した率は、
3割に満たず、
その抗体価の上昇は、
それほどではない、ということが分かります。
情報が全て開示されていないので、
何とも言えませんが、
妊娠されている方や「健康成人」の結果と比べると、
抗体価が40~80倍に留まる率が、
かなり多いことが想定されます。

つまり、中学生、高校生では、
大人よりも抗体価の上昇は、
やや弱い可能性があると僕は思います。

この試験のもう1つの問題は、
この試験だけ、北里研究所ではなく、
阪大微研のワクチンを使用している、という事実です。
それなりの理由はあるのでしょうが、
はなはだおかしなことだ、と思わざるを得ません。

現時点で一番知りたいことは、
小さなお子さんでのワクチンの効果についての、
データである筈です。

その結果が是非早く開示されることを、
期待して待ちたいと思います。

今日は小出しに開示された、
新型ワクチンの臨床試験についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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kusuri

先生のお探しだった大阪府私立高校の血清疫学調査の結果が厚生省のページにUPされていました。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/pdf/091225-01.pdf

当施設でも、新型ワクチンの接種を開始しました。
副反応も考え、1日接種者を数人とし、接種2日間は、ステーション近くのお部屋に移動していただき、2日間、要観察としました。
今のところ、重篤な副反応が出た方は、いらっしゃいません。
今後は、お正月に、ご自宅に帰られた方の施設内、感染持込防止が課題と考えております。

いつも、参考にさせていただいています。

よいお年をお迎え下さい。
by kusuri (2009-12-26 13:19) 

まみしゃん

自分たち家族は受けないと決めたものの、高齢の両親には受けさせたほうがいいか、いまだ考え中です。

まぁ、年明け早々入院ですから・・・もう遅いかとも思っています。

先生、ゆっくりお休みになれますよう・・・



by まみしゃん (2009-12-26 19:07) 

fujiki

kusuri さんへ
コメントありがとうございます。

情報ありがとうございました。
ざっと見ましたが、
ちょっと杜撰な報告だと思います。
8月に抗体価の測定をして以降に、
感染が確認されたかどうかが、
大きなポイントなのに、
単なる聞き取りであるのに加えて、
いつの時点でその確認をしたのかも、
明記されていません。

要するに責任者が、
現場で調査をするつもりが微塵もないのです。
これではいけないと僕は思います。
by fujiki (2009-12-26 20:30) 

fujiki

まみしゃんさんへ
コメントありがとうございます。

迷いますね。
僕の関わっている老人ホームでは、
ご家族に聞き取りはしたのですが、
強く希望される方は、
現時点では1人もいませんでした。
by fujiki (2009-12-26 20:31) 

tashi

お久しぶりです。
本年4月の新型インフルエンザ発生以降、このブログから
発信される情報は、とても参考になりました。
ところで、今回のウイルスの起源について以下の論文は読ま
れましたでしょうか?
From where did the 2009 'swine-origin' influenza A virus
(H1N1) emerge?
Adrian J Gibbs, John S Armstrong, Jean C Downie
Virology Journal 2009, 6:207 (24November2009)
真偽はともかく、とても興味深い内容でした。

日本では、年明けから輸入ワクチンの行政主導バーゲンセール
が始まりそうです。
国産の5400万回分と合わせて、日本の全人口を大きく
上回る1億5300万回分のワクチンは、結果論かもしれ
ませんが、見通しを誤ったとマスコミに叩かれるのは間違い
ないように思います。
これからも、示唆に富んだ情報発信を期待しています。

それでは、良いお年を!

by tashi (2009-12-26 21:48) 

ペポ

先生、こんばんわ。

>僕はこうしたことこそ、
>情報操作ではないのか、という気がしますが、
>別にメディアで問題になる訳でもなく、
>政権交代があっても変わりがないところを見ると、
>僕の考えの方が非常識なのかも知れません。

私などのから見れば、先生の方が常識的(良識)だと思えます。

研究対象は違いますが、研究に携わる仕事をしてきた私から見ると、

同じ研究機関が、
同じメーカーのワクチンを使い、
同じ測定器を用い、
同じ検査項目を検証

してはじめて比較可能なデーターが得られると思うので、
研究機関(班)が違ってワクチンメーカーも別では、調べる気あるの?
と感じてしまいます。

なので余計に、言い方は悪いですが、

『自分たちに都合の悪い結果だったから隠蔽』

のように感じてしまいます。

私のような、うがった目で見られないように、
国には早く小児の臨床検査の情報を公開していただきたいものです。


今日で、年内の診療を終えられるということなので
ゆっくり体を休めてください。
(お医者さんは、皆さん毎日忙しいので・・。)

先生、良いお年を!
by ペポ (2009-12-27 00:41) 

fujiki

tashi さんへ
コメントありがとうございます。

また、貴重な情報ありがとうございます。
僕も何となくそんな気はします。

ワクチンは余りまくると思いますが、
おそらく誰もその責任を感じる方は、
いないのではないかと思います。
矢張り専門家にもっと権限を持たせて、
その代わり自分の決断の、
責任を取らないまでも、
責任を感じてもらうような仕組みがなければ、
同じことが繰り返されるような気がします。

tashi さんも良いお年をお迎え下さい。
色々とご教授頂き、
ありがとうございました。
by fujiki (2009-12-27 11:17) 

fujiki

ペポさんへ
コメントありがとうございます。

言われるように、
北里のワクチンを使った臨床試験は、
北里で抗体検査も行ない、
阪大微研のワクチンを使った臨床試験は、
微研で検査をしているのですから、
何だかなあ、という感じです。
特に中高生の試験については、
はなからやる気のなさが見え見えで、
とりあえずやっただけ、という感じです。
論文にも出来ないレベルだと思います。

でも、しっかり税金は使われている訳で、
こういうものこそ、しっかり仕分けして、
国庫に返納して頂きたい、
と僕は思います。

今年はありがとうございました。
コメントの一言一言からもらった元気で、
どうにか仕事を続けられた、
という感じです。

ペポさんも、
良いお年をお迎え下さい。
by fujiki (2009-12-27 11:24) 

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