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アジュバントと生ワクチンの話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はインフルエンザのワクチンの話です。

今月初めからは新型インフルエンザ以外の、
所謂「季節性インフルエンザワクチン」の接種が始まり、
今月の19日からは「新型インフルエンザワクチン」の接種も、
どうにか始まる予定です。

新型インフルエンザワクチンに関しては、
国産と輸入ワクチンとの両者があり、
輸入ワクチンには「アジュバント」が添加されている、
との情報が溢れています。

今日はその「アジュバント」とは何か、
という話と、海外でのみ使われている、
鼻の粘膜に噴霧する生ワクチンの話です。

それではまず、アジュバントの話です。

アジュバントとは「免疫増強剤」とも訳され、
「助ける」という意味のラテン語が元になっています。
その名の通り、ワクチンに添加して、
その効果を高める物質のことです。
かなり昔から、油や金属を少し加えると、
そのワクチンの効果が高まることが知られていました。

ワクチンとして一番効果があるのは、
ウイルスを弱毒化したそのものである、
生ワクチンです。
しかし、この生ワクチンは弱いとはいえ、
病原体そのものなので、
体力の衰えた人に打てば、
その病気に罹ってしまう危険がありますし、
副反応も強い場合が多いのです。

このため、ウイルスの一部分だけを精製した、
不活化ワクチンが造られるようになりました。
これには毒素を使うものや、
ウイルスの粒子を死滅させたもの、
ウイルスの蛋白質を精製したものなどがあります。

ただ、この不活化ワクチンは、
生ワクチンに比べれば、
弱い免疫反応しか起こしません。
そのため、打った方の免疫を増強する、
アジュバントを加える、という構想が浮上したのです。

何故アジュバントを加えると、
免疫反応が増強するのでしょうか?

これには幾つかの理由が考えられます。

まず、不純物のあるワクチンは、
それだけ打った場所に長く留まります。
従って、長く免疫を刺激して、
効果を高めると考えられるのです。
次に、自然免疫を刺激する作用です。
自然免疫というのは、
特定のウイルスに対する免疫反応ではなく、
身体に入った異物に対して、
常に働くタイプの免疫反応です。
アジュバントは、自然免疫を活性化する作用があることが分かっています。
これは生ワクチンにはあるけれども、
不活化ワクチンにはあまりない作用なのです。

日本で造られているインフルエンザワクチンは、
ウイルスをバラバラにして精製した、
スプリットワクチンです。
アジュバントは含まれていません。

それに対して、海外では、幾つかのアジュバントを添加した、
スプリットワクチンが造られています。
そして、今回新型インフルエンザワクチンとして、
輸入される予定の2種のワクチンは、
いずれもそうしたアジュバント添加ワクチンなのです。

そのうちの1つ目は、
ノバルティスという会社のワクチンで、
それにはオイルエマルジョン(MF59)という、
アジュバントが添加されています。
これはコレステロールの合成途中で造られる脂に、
界面活性剤を加えたものです。
これはインフルエンザワクチンの添加物として、
1997年から使われている歴史の古いものです。

2つ目の輸入ワクチンは、グラクソ社のもので、
これにもグラクソ社のオリジナルのアジュバントが添加されています。
これは細菌の成分などの幾つかの物質を、
融合させて1つのアジュバントにしたものです。
これは2005年から使われています。
今まで鳥インフルエンザワクチンやB型肝炎ワクチンとして使われ、
今回新型インフルエンザ用として、
使用された訳です。

いずれのアジュバントも、
日本では使用の許可されていないものです。
それを殆どまともな臨床試験をすることなく、
半ば超法規的に使用してしまおう、
というのが今回の新型インフルエンザワクチン行政の、
大きな問題点の1つです。

両者を比較すると、
ノバルティスのワクチンの方が、
歴史も長く、今までもインフルエンザのワクチンとして、
使われてきた実績のある分、
安全性が高いのではないか、と考えられます。
アジュバントの構造も、
グラクソのワクチンと比較すれば、
シンプルです。

さて、最初に生ワクチンはリスクが高く使い難い、
という話をしました。
また、通常生ワクチンは何度もウイルスの培養を繰り返して、
造り上げるので、かなりの時間が掛かり、
新型インフルエンザに対応するような状況には、
そぐわないのです。
また、簡単に別の抗原の種類のワクチンを、
造ることも出来ません。
新型インフルエンザの生ワクチンを造るには、
新型インフルエンザのウイルスを何度も培養し、
その毒性を弱める作業が必要だからです。

ところが、海外では新型インフルエンザ用の、
生ワクチンが実用化され、
実際に接種が開始されています。

一体どのようにして造ったのでしょうか?

ちょっと長くなりましたので、
生ワクチンの話は明日に続けます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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或るケミスト

こんばんわ。
TVで海外の接種状況を放映していました。鼻に噴霧してました。簡便でよさげでしたが、日本では注射しかないですね。
グラクソのアジュバントはおそらくToll Like receptorのリガンドでCpGアイランドを含みTh1応答を優位に引き起こし、アレルギーの抑制にもなりそうな気もしますが、好ましくない副反応も起こしそうで・・・・。
海外ではサイトカインをワクチンに添加することも検討されているようですね。
今年はインフルエンザ対策をどうしようかと例年になく真剣に思案中です。
by 或るケミスト (2009-10-17 03:14) 

fujiki

或るケミストさんへ
コメントありがとうございます。
僕もグラクソ社のワクチンはリスクが高いと思います。
海外の製品でもアジュバントを含まない製品はあり、
色々と事情はあるのでしょうが、
今回の決定には非常に疑問を感じます。
by fujiki (2009-10-17 06:26) 

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