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新型インフルエンザの流行を予知するシステムについて [新型インフルエンザA]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は休みで、
さっき起きたところです。

今日はちょっとまた新型インフルエンザの話です。

診療所では現在も発熱者は、
別の待合室と診察室とを使用する方策を続けていますが、
先週もインフルエンザの簡易検査で陽性の方はいませんでした。
ウイルス感染と思われる咽頭炎と、
水ぼうそうがちょっと流行っているくらいです。
東京でも感染者は増えていますが、
世間の空気は何となく小康状態のムードです。

先週に新聞の記事で、
次のようなものがありました。

国立感染症研究所の主任研究員の方が、
インフルエンザの流行を事前に感知するための、
画期的なシステムを開発し、
注目を集めている、というものです。

それがどんなシステムなのかについての、
説明の部分のみ記事から引用します。

全国の薬局でのインフルエンザ治療薬の処方数を例年と比較し、新型の発生を監視するシステムを開発した。5月中旬に国内感染が初めて確認された今回の新型による患者発生を、このシステムが4月末には神戸市で探知していた可能性も明らかになった。秋冬に懸念される「第2波」の早期探知のため、現在、態勢を整えている。

皆さんはこの記事をどう思われますか?

薬局で処方されるインフルエンザの薬
(多分タミフルとリレンザを合わせた数ですね)
を適宜集計する訳ですね。
そして、ある地域でそれが急に増えれば、
その地域でインフルエンザの感染が始まった可能性がある、
ということのようです。

まず、素朴に疑問があります。
処方される薬があるということは、
どういうことでしょうか?

勿論、処方する医者がいるということですよね。
それならば、どうして、
医者に聞いて情報を集めるのではなく、
薬局の処方箋を集計しなければいけないのでしょうか?

何となく、理由は分かります。
分かるだけに、ちょっと切ない思いがします。
この切なさを、皆さんにも少し分かって頂きたいと思い、
以下説明をさせて下さい。

よくインフルエンザが大阪で流行しています、
みたいなニュースが流れますよね。
今の新型インフルエンザの話ではなく、
例年流行る季節性のインフルエンザの話です。

これは国立感染症研究所が、
各自治体に選択させた、
定点医療機関というごく少数の医療機関からの、
情報を元に流されているのです。
まあ、視聴率と同じ仕組みと考えて頂ければ、
そう間違いではないと思います。

この方法には、幾つかの問題点があります。
まずその1つ目は、
定点が本当にその地域の代表として、
適切な医療機関であるのかどうか、
ということです。
僕の診療所は定点医療機関ではありませんし、
頼まれたこともないので、
一体どのようにして選ばれているのかは、
正確には分かりません。
ただ、おそらくは医師会が間に入って決めているのでしょうから、
何となく推測は出来ます。
医師会で理事をされたり、学校医をされていたりする医療機関が、
おそらくはその主体なのだと思います。
疫学的な検証はおそらく皆無だと思います。
たとえば何年かに1度見直しをする、
といった話も聞いたことがありません。
地域によっては結構適切な配分もあるでしょうし、
また別の地域では、
その地域を代表するデータとは、
とても言えないような配分もあるでしょう。
たとえばA医療機関である月に、
50人のインフルエンザの患者さんが受診し、
B医療機関では10人、C医療機関では5人だったとしましょう。
もしBとCの医療機関がその地域の定点で、
A医療機関は定点でないとすれば、
その地域のインフルエンザの患者数は、
15人ということになり、
それはA医療機関1箇所の患者さんの数より、
実は少ない、ということになってしまいます。

これでは、本当の流行状況は把握出来ないのではないでしょうか。

更にこの定点観測の方法は、
集計するのに時間が掛かり、
概ね2週間程度しないと、
情報が発表されないようなタイムラグが生じます。

これでは、もし深刻な感染症の流行があった時、
対策が後手後手に廻る事態になってしまうのではないでしょうか。

最初の記事の研究所の主任研究員の方も、
当然そう考えたのです。

ここまでは分かります。

では、何故医者ではなく、処方箋なのでしょうか。

全国津々浦々の全ての医療機関が、
インフルエンザの患者さんを診断した時点で、
リアルタイムに報告を自治体に上げるようなシステムが存在すれば、
全ては解決する筈です。
それは不可能なことでしょうか。

僕はそうは思いません。

現在でも任意で感染症研究所に症例を登録するようなシステムはあるのです。
ネットで発信するだけのことです。
ただ、それは上から目線の非常に一方的なもので、
そのデータがどう使われるのかの説明もなく、
PRも殆どありません。
そうしたシステムをもっと整備して、
たとえばその日の診療の終わりに、
ポンポンと症例数のみ登録するような形にすれば、
それを嫌がる医者は存在しないと僕は思います。

それをしないで、何故処方箋を数えるのでしょうか。

要するに末端の医者を信用していないからだ、
と僕は思います。
医者に何かを頼むなど面倒だし、
お金も掛かりそうだし、
素直に言うことも聞かなそうだし、
第一町医者なんか馬鹿の集まりで役に立たないだろ、
くらいに思っているからです。

全ての医療機関がインフルエンザの患者さんを、
届け出ることは不可能ではありません。
それどころか、このネットの普及した世の中で、
いともた易いことではありませんか。
診療所のような医療機関は、
言ってみれば警察組織における交番のようなものです。
個々の患者さんに対応することは勿論ですが、
いざ全員で取り組まねばならないような問題があれば、
末端のセンサーの役割は充分果たせると僕は思います。
また、そうあらねばなりません。
ただ、もしそうしたシステムを組むのであれば、
取りまとめをされる偉い先生方も、
僕達に一定のリスペクトは示して頂きたいと思うのです。
ファックスの紙1枚や同じ文面のメール1通で、
済ませてもらったら困ります。
もし僕にその役目を任せてもらえるなら、
僕は全ての医療機関に電話かメールをして、
直接肉声で依頼をします。
これは報酬の問題ではなく、
信義の問題だからです。

でも、上の方の先生方に、そんな気は更々ないのです。
何かを頼む時はファクス1通か、
何処かに告知を出すだけです。
後は製薬会社や他の関係業者の社員を使って、
本来無関係の筈のそうした人に、
僕達のところを廻らせるのです。
国から何千万円とかという予算の付く、
臨床の調査研究と称するものの、
多くの実体がこれです。

これでは絶対に誰も動きません。

もう一度言います。
感染情報のネットワークは結構ですが、
末端に多くの医者が生身で診療をし、
あなたほどの賢い頭も地位もありませんが、
必死で日々の診療をしているのです。
実体のない処方箋の枚数で、
インフルエンザの流行を見張るような、
そんな研究以外に、
もっとやれることはないのでしょうか。
僕達を、ほんの少しだけ信じてはくれませんか。
あなたの賢い頭を、
もっと人間を見ることに役立てて下さい。
「踊る大捜査線」のセリフはもう古いですが、
矢張りそれがこうした場合には一番フィットします。
「パンデミックはあなたの研究室や、
厚生労働省の会議室で起こっているのではないのです。
現場は末端の医療機関なんですよ」
そのことに、
是非もう一度目を向けて頂きたいと思います。

そうした視点が少しでもあれば、
処方箋の数を数えるような馬鹿な研究など、
提案する筈がないと僕は思います。

ええと、補足ですが、今ちらほらと見ていたら、
全国500の厚生労働省協力医療機関に対して、
全てのインフルエンザ患者さんの、
ウイルスの詳細な検査を行なう、
との報道がまたありました。
これも勿論悪い話ではありません。
今まではポイントでしか流行の把握のためのウイルス分析は、
していなかった訳ですから、
それを速やかに行なって、
この冬に予想される、
新型と従来の季節性のインフルエンザの、
同時流行の混乱を少しでも解消しようと言うのでしょう。
ただ、どうせ結構高額な予算が、
このためにまたノーチェックにじゃんじゃん投入されるのだろうな、
と思うと効率の良い話とは思えませんし、
都合良く命令出来るところにのみ、
次々と仕事を振って、
その他の大多数の医療機関は蚊帳の外のような扱いなのですから、
これで対策がうまく廻るとは僕には思えません。

大体、「厚生労働省協力医療機関」というニュアンスが酷いでしょ。
それ以外の多くの医療機関は、
診療所を含めて、「非協力的医療機関」なのでしょうか。
もう少し末端の医療機関に気を遣って欲しいものだと思います。

煎じ詰めれば現状は、
大きな潰れそうな会社で、
毎日役員の会議ばかり開いているようなものです。
もう赤字だらけで潰れそうなのに、
「会社活性化対策費」みたいなものを、
役員にじゃんじゃん支払い、
そのお金は全て役員だけが懐に入れてしまうのです。
そんなことだけをしていて、
果たして会社が活性化するでしょうか。
末端の社員1人1人に届くメッセージを発信し、
社員が一丸となるような対策にお金を使ってくれるのでなければ、
未曾有の災害を乗り切ることなど、
不可能なのではないでしょうか。

皆さんはどうお考えになりますか?

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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コメント 4

tashi

今回の長文、先生の想いが伝わり考えさせられました。
日本ではマスコミを中心に、新型インフルエンザへの関心が
低くなっていますが、南半球ではすごい勢いで感染者が増加
しており、オーストラリアでは国内の警戒レベルを、スポーツ
イベントの中止(サッカーWC予選は大丈夫?)や休校を要請
可能とするレベルに引き上げるようです。
実際に、感染が確認された1500人中7名が重症化しており、
WHOの評価通り、mildではなくmoderateの病原性を示して
いるのが現状です。
近い将来、日本でも同じような状況に陥ることはほぼ間違い
ないと思われますので、現在のサーベイランスシステムの
見直しは喫緊の課題と考えられます。
私は以前この研究員(真面目な統計学者です)とお会いして、
直接お話を伺ったことがありますが、今ある資源を活用する
アイデアはおもしろいと感じました。
ただ、オンライン化された特定の調剤薬局しかデータ化でき
ないので、結局、定点報告と同様に地域の偏りは避けられない
ようです。
地域を最も良く知る医師会単位で、何か新しい取り組みは
できないものでしょうか?


by tashi (2009-06-14 17:23) 

hulahula

毎日、先生のブログを楽しみにしております。
今回のインフルエンザでは、日本の課題を感じてしまいました。とにかく不安な気持ちでいっぱいになってしみます。
日本、大丈夫???
by hulahula (2009-06-14 21:58) 

fujiki

tashi さんへ
コメントありがとうございます。
今後は一線の研究者の方を、
あまり悪く言うのは止めようと思います。
(そう言いながら、今日の記事も若干そうした内容です)
一時期結構マイナーな分野の研究をしていて、
先輩から散々悪口を聞かされたので、
(表面的に派手な所だけにお金が入って、云々)
それがちょっと頭に残っているのかも知れません。
by fujiki (2009-06-15 06:19) 

fujiki

hulahula さんへ
コメントありがとうございます。
勿論大丈夫ではありませんが、
海外は良くて日本だけが悪い訳でもないと思うので、
希望は持ち続けたいとは思います。

by fujiki (2009-06-15 06:24) 

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