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エピジェネティクスの話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診の整理をして、
本当はもう少しやらないといけないのですが、
ちょっと気分が挫けたので、
今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

人間の持つ情報の全ては、
染色体の中にある、
DNAに記録された塩基の配列で、
決定されていると信じられていました。

少なくとも、僕が大学で習った時はそうでしたね。

それが本当であれば、
遺伝子の情報を全て読み取り、
解析することが出来れば、
全ての病気の原因も、
明らかになるのではないか、
と予想されました。

ところが、遺伝子の情報は、
ほぼ全て解読されたのにも関わらず、
多くの病気の原因は不明のままです。

問題は多くの細胞の中で、
使われている遺伝子は、
そのごく一部だということです。
たとえば、遺伝子の中には、
癌遺伝子と癌を抑える遺伝子が、
共に存在しているのですが、
その抑える遺伝子が何故か使われなくなったために、
癌が出現するようなことが起こるのです。
この時、別に遺伝子の元になっている、
塩基の配列は全く変わっていません。
つまり元の情報は変わっていない筈なのに、
結果として病気でなかった細胞が、
病気になるのです。
しかも、その細胞が分裂すると、
その病気は分裂した細胞にも、
そのまま残っています。

要するに、病気の性質のようなものが、
何らかの形で細胞から細胞へと伝わっているのです。
しかし、その前後で塩基の配列は変化していません。
塩基の配列以外の何かが、
細胞から細胞へと伝わっている訳です。
それは一体何でしょうか?

この塩基の配列以外で伝わる情報のことを、
エピジェネティクス(epigenetics)と呼んでいます。

エピジェネティクスのメカニズムには、
幾つものパターンがあり、
全てが解明されている訳ではありませんが、
その代表的なものが、
「DNAのメチル化」と言われる現象です。
ある種の刺激によって、
DNAを構成している塩基の1つ、
シトシンがメチル化という変化を受けます。
この変化を受けても、
塩基の配列には変化がなく、
出来るアミノ酸も同じです。
ところが、
メチル化を受けると、
その遺伝子が使われるかどうかの性質が、
変化するのです。

この変化によって、
癌でない細胞が癌になり、
脳の発達にも大きな影響を与えることで、
精神的な多くの病気の原因にもなっている、
と言われています。

たとえば、胃癌の発生を例にとってみましょう。

胃癌がピロリ菌と関わりの深いことは、
皆さんもよくご存知かと思います。

最近ピロリ菌の感染によって、
胃の粘膜の細胞の中で、
高率にDNAのメチル化が起こり、
そのことが胃癌の発生に大きく結び付いていることが、
報告されました。
メチル化が起こると、
癌を抑える遺伝子が使われなくなり、
そのことによって、細胞の癌化が進むのです。

また、子供の養育環境の違いによって、
ストレスが強い状況では、
ステロイドホルモンの受容体の遺伝子にメチル化が起こり、
これがストレス脆弱性の原因の1つではないか、
という報告もあります。
また、急性のストレスでもメチル化が起こった、
との報告もあります。

このメチル化以外にも、
ヒストン修飾などの、
幾つかのメカニズムが分かってきています。

DNAの塩基配列で、
全ての遺伝情報が決まっている、
という主張が一般的であった時には、
僕は素朴に疑問でした。
そんな筈はないのではないか、
という思いがあったのです。

ただ、こうして新しい仕組みが明らかになってくると、
原因不明の全てのことを、
この仕組みで強引に説明しようと、
し過ぎるきらいがあるように、
思えてなりません。

ストレス脆弱性も癌の発生も、
全てエピジェネティクスで説明可能だ、
というのは、幾らなんでも言い過ぎではないでしょうか。

一時の流行の熱が醒めた時
(研究というのは結構流行で左右されるのです)、
この仕組みの真価が明らかになるような気がします。

皆さんはどうお考えになりますか。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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A・ラファエル

自分が遺伝子異常の持ち主なので、
遺伝子関係の話は興味深いです。
もっと色々解明されると良いと思う世界でもあります。
by A・ラファエル (2009-04-18 08:51) 

fujiki

A・ラファエルさんへ
もう少し色々なことが分かってくれば、
遺伝子異常などという考え方自体が、
存在しなくなるかも知れません。
異常と見えているものにも、
今とは別個の意味づけが、
与えられるような気もします。
それが良い未来であることを望みたいのですが、
それとは逆の結果が生まれるような不安もあります。
by fujiki (2009-04-19 07:06) 

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