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日本の抗生物質は何故効かないのか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

昨日のマクロライドの話に関連して、
抗生物質の話を少しします。

日本の医者は抗生物質を出し過ぎる、
というのは、
マスメディアでもよく流されている意見です。
風邪で医者に行くと、
必ず抗生物質が出るような国は、
日本だけだ、とも言われます。

抗生物質を出し過ぎることの弊害として、
よく引き合いに出されるのが、
耐性菌の増加、という問題です。

ある抗生物質を出し過ぎると、
その薬に本来効く筈だった細菌が、
効かない菌、
すなわち耐性菌に変化してしまうのです。
耐性菌による院内感染で、
多くの患者さんが死亡した、
などという事件が、
よく報道されたりもします。

ただ、その論理には、
僕はちょっと賛同しかねる点があります。

日本で耐性菌の増えた、
一番の原因は何でしょうか?

僕は抗生物質の不適切な使用というよりも、
日本で使われている抗生物質の容量の基準が、
不適切に低く設定されているためではないか、
と考えます。

たとえば、昨日話題にしたマクロライド系の抗生物質、
クラリスロマイシン(商品名クラリスなど)
を例にとってみましょう。

マイコプラズマ肺炎という病気があります。
マイコプラズマというのは細菌の1種ですが、
普通の細菌の持っている、
細胞壁を持たない、ちょっと特殊な病原体です。
このために、細胞壁を壊すことで効果のある、
ペニシリンのような薬は効かないのです。
マイコプラズマ肺炎は、
小学生くらいのお子さんに多い病気です。
マイコプラズマが感染して肺炎を起こし、
熱と共に激しい咳が続きます。
この場合、特効薬的に効くのが、
マクロライドで、その代表がクラリスロマイシンです。

ところが…

通常海外での常用量は、
1日1000mgであるのに対して、
日本で認められている分量は、
大人でも1日400mgです。
これを超える量を使えば、
今の日本の健康保険では認められません。
これを体重で換算すると、
概ね20kgくらいのレベルです。
皆さんはこの量の設定をどう思われますか?
いくら欧米人に対して、体格が小さいからと言って、
20kg相当の量しか使わないで、
果たして効果があるでしょうか?

常識的に考えれば、
効く訳がありません。

では何故効かないような量が、
適当な量として決められているのでしょうか?

この点については、
以前「2分の1の神話」という記事で触れましたので、
ここでは敢えて繰り返しません。
ただ、国の役所の方針として、
副作用の発現を恐れるあまり、
極力少ない量で許可を出すような、
行政が長く行なわれていたことだけ、
一応触れておきたいと思います。

さて、効かない量の薬を長く飲むとどうなるでしょうか?

そう、これは昨日お話した、
少量持続療法と同じことになる訳です。

日本での抗生物質の使用は、
マクロライドのみならず、
内服薬は全てが「少量持続療法」だ、
と言って過言ではないのです。

効かない少量の薬を、
効かないが故に必要以上に長く飲みます。
すると、てきめんに耐性菌が誘導されるのです。

この結果、日本のマクロライドに対して、
肺炎球菌という細菌では、
80パーセント以上が耐性菌になっています。
不適切な使用が耐性菌を増やしたのではなく、
適正と言われている治療が、
そもそも耐性菌を起こし易い治療なのです。

そのことに役所もようやく気付き始めたのか、
最近新薬として認可された薬に関しては、
概ね欧米とそれほど変わらない量で、
抗生物質の使用法が決められています。

ただ、本来は昔から使われている古い薬こそ、
適用量を増やすような改定が行なわれるべきです。
しかし、そうした改定には臨床実験などに巨額のお金が掛かり、
その費用は全て製薬会社の負担となるため、
そうした改定は全く行なわれていないのが、
実情なのです。

本来は効く筈の薬が、
効かない量の治療しか認められていないために、
実際には効かず、
それどころか耐性菌を作って、
ばら撒く結果になっている。
これも1種の薬害だと思うのですが、
皆さんはどうお考えになりますか?

ちなみにFDAの薬のページで、
クラリスロマイシンのところを見て頂きたいのですが、
極めて詳細を極めた記述がなされ、
その必要量に関しても、
その病気の原因の菌種によって、
細かく必要量が決められているのです。
やみくもに多い量を使う訳ではないのです。
それに引き換え、日本の薬の添付文書はどうでしょうか。
そして、その使用法の節操のなさはどうでしょうか。
しかし、健康保険の診療に基づく限り、
効かないと分かってる量で、
薬を使わざるを得ないのです。

確かに日本では抗生物質の乱用の傾向はあるでしょう。
でも、問題がそれだけではないということも、
是非皆さんに分かって頂きたいと思うのです。

所謂「風邪に抗生物質を使うな」という主張についても、
言いたいことはあるのですが、
長くなりましたので、
次の機会に譲ります。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 4

もも

はじめまして。こんな時間にすみません。
なぜ、こんな時間かと言いますと、今、鼻の中がゴロゴロしていまして、それに伴ってか頭痛がして眠れないでいます。
耳鼻科でクラリスロマイシンを半年も処方されているのにもかかわらず、症状が改善されず、医師に訴えてもこれ(クラリスロマイシン)で治るからと言われ。大きな病院に行ってみたものの結局同じ薬を処方されました。
私のこのゴロゴロした息苦しいのはなんなのでしょうか…
半年も苦しんでいます。
どうにかならないかと、クラリスロマイシンを検索したところ、このような記事を目にして驚きと、どうにかならないものかと、今コメントを書かせていただいてます。
おそらく私は何らかの菌を持っているのだと思いますが、耳鼻科の他にどこにかかったら判明するのでしょうか、教えていただけたらと思います。


by もも (2013-05-28 04:12) 

fujiki

ももさんへ
蓄膿はありますでしょうか?
MRIかCTで確認をされるのが良いように思います。
その点については、
内科でも対応はして頂けるのではないかと思います。
お鼻の粘膜からの細菌の培養も、
あまり役に立たない、と言う意見もありますが、
一度やっておいた方が良いと思います。
クラリスロマイシンの長期少量療法は、
効果のある場合もありますが、
半年使用して効果がないとすれば、
一旦中止して様子を見た方が、
良いように思います。

ご参考になれば幸いです。
by fujiki (2013-05-28 21:35) 

もも

ご返答いただきましてありがとうございます。
とても参考になりました。
気持ちも少し救われました。
蓄膿はありましたがそれほどひどくはないと言われました。
CT については大きな病院で診ていただいた時に私の方からとっていただきたいとお話をしましたが、カメラでは異常がなかったため受け入れてもらえませんでした。
その前に受診していた耳鼻科でもそうでした。
けれども、この苦しさをわかるのは私本人。
いくら訴えてもCT はとっていただけませんでした。
しかし、先生のご返答をいただき、また明日、耳鼻科を受診してみようかと思います。
どのように説明をしたらCT をとっていただける状況になりますでしょうか…

by もも (2013-05-28 22:15) 

fujiki

ももさんへ
病状が改善しないので、
より詳しく調べて欲しい、
とお話頂くのが良いかも知れません。
それで駄目なようなら、
他の先生にお願いするか、
内科の先生にお願いする方が良いかも知れません。
by fujiki (2013-05-28 22:38) 

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