良性なのに転移するしこりの話 [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は土曜日で、
午後には心療内科の専門外来と、
管理栄養士による栄養指導とダイエット外来の日です。
朝からカルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
あるしこりが、
その発生した組織以外の場所に、
転移したとすれば、
そのしこりは普通悪性のものと考えられます。
たとえば大腸にしこりがあって、
それが肝臓に転移したとすれば、
大腸のしこりは悪性のものと判断されます。
要するに大腸癌ですね。
その大腸のしこりを取って検査をすれば、
通常その組織にも、
悪性の所見があるのです。
まあ、当たり前のことですね。
ところが…
世の中には、
組織は間違いなく良性なのに、
転移する腫瘍が存在するのです。
これを「肺良性転移性平滑筋腫」と言います。
報告例は日本では30例程度の稀な病気ですが、
何故か僕はその患者さんを3人診たことがあります。
ある事例をお示しします。
実際の症例を元にしていますが、
守秘義務および患者さんの特定を避ける立場から、
事実を改変した部分のあることを、
お断りしておきます。
患者さんは40代前半の女性です。
20代の時に子宮筋腫の手術をされました。
それからおよそ15年後のことです。
健康診断の胸のレントゲン写真で、
肺のしこりが疑われました。
その写真がこれです。
何処にしこりがあるか、
分かりますか?
分かり難いかも知れません。
では、次をご覧下さい。
実はこの赤い矢印の先は、
全部肺のしこりなのです。
全てほぼ円形で、
それほど濃くはない白い影です。
次をご覧下さい。
同じ方のCT画像です。
赤い矢印の先が、
同じように丸いしこりの位置を示しています。
少なく見積もって、
両側の肺に20個のしこりがあります。
多発性の肺の腫瘍です。
こうしたしこりは、普通は癌の転移を疑います。
要するに身体の他の場所に癌があって、
それが肺に転移した、
と考える訳です。
ところが…
全身の精査を行ないましたが、
何処にも異常は見付かりません。
これで腫瘍が大きくならなければ、
そのまま様子を見てもいいかな、
と思うところです。
しかし…
肺のしこりの経過を見ていくと、
徐々に大きくなり、その数も増えていきます。
腫瘍の体積が倍になる、
「腫瘍倍加時間」を計算すると、
一年弱くらいですから、
比較的ゆっくりとした進行ですが、
進行していることには変わりはありません。
それで、診断の目的で肺のしこりの一部を取り、
組織の検査が行なわれました。
しこりの組織の結果は、
「良性平滑筋腫」。
「異型性」や「核分裂像」はありません。
要するに、良性の筋肉の腫瘍だったのです。
ところが、驚いたことに肺の組織ではなく、
子宮筋腫の組織でした。
子宮の良性のしこりが、
肺から見付かったのです。
しかし、どうしてこんなことが起こり得るのでしょうか。
あたかも、ミステリーの不可能犯罪のようです。
起こっている現象は、
明らかに転移です。
子宮のしこりが肺に転移したのです。
でも良性のしこりは転移をしない筈です。
2つの前提が矛盾するなら、
そのどちらかが間違っている筈です。
一体どちらが間違っているのでしょうか?
現時点ではまだ答えは出ていません。
元のしこりは100パーセント「子宮筋腫」です。
患者さんは決まって子宮筋腫の手術歴があるのです。
子宮のしこりを取って、
何年かしてから肺にしこりの見付かるのが、
典型的なパターンです。
平均して10年くらいで見付かるのが一般的です。
そのため患者さんはまだ若い女性です。
通常は肺の多発性のしこりで、
僕が実際に経験した3例の患者さんは、
いすれも肺の事例です。
ただ、論文では骨に転移した例や、
お腹の中にしこりの出来た例なども、
報告されています。
転移したしこりはゆっくりではあっても、
進行性です。
要するに徐々には大きくなるのです。
転移したしこりの性質は、
子宮筋腫と良く似ていて、
女性ホルモンの刺激で大きくなります。
従って、しこりが少数であれば、
手術をすることもありますが、
通常はホルモン療法が一般的です。
薬を使って女性ホルモンを下げてしまうか、
手術で両側の卵巣を取ってしまうのです。
海外では卵巣を取る手術の報告が多いのですが、
日本ではその事例はあまりなく、
薬を使うケースが殆どのようです。
経過を見ながら、閉経を待つこともあります。
閉経で、肺のしこりが自然に縮小した事例も、
報告されています。
ただ、いずれにしても、
患者さんには辛い決断となるのです。
そのまま何もしない方がいいのではないか、
という意見もあります。
ただ、海外で肺のしこりが大きくなり、
呼吸不全で死亡した例が報告されているのと、
骨に転移して痛みが強く出た例、
お腹の転移で腹痛に悩まされた例などもあるので、
その判断は難しいところです。
僕の経験した事例では、
2人の方は何もせず様子を見ていて、
もう1人の方はホルモン療法をされていました。
良性なのに何故転移するのか、
という謎解きについては、
組織では判別が出来ない程度に、
軽度の悪性なのだ、
という説明が一般的です。
ただ、僕はもっと良性と悪性との区別に関わる、
本質的な何かが隠れているのではないか、
という感触を持っています。
今日は良性なのに転移する、
不思議なしこりの話でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は土曜日で、
午後には心療内科の専門外来と、
管理栄養士による栄養指導とダイエット外来の日です。
朝からカルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
あるしこりが、
その発生した組織以外の場所に、
転移したとすれば、
そのしこりは普通悪性のものと考えられます。
たとえば大腸にしこりがあって、
それが肝臓に転移したとすれば、
大腸のしこりは悪性のものと判断されます。
要するに大腸癌ですね。
その大腸のしこりを取って検査をすれば、
通常その組織にも、
悪性の所見があるのです。
まあ、当たり前のことですね。
ところが…
世の中には、
組織は間違いなく良性なのに、
転移する腫瘍が存在するのです。
これを「肺良性転移性平滑筋腫」と言います。
報告例は日本では30例程度の稀な病気ですが、
何故か僕はその患者さんを3人診たことがあります。
ある事例をお示しします。
実際の症例を元にしていますが、
守秘義務および患者さんの特定を避ける立場から、
事実を改変した部分のあることを、
お断りしておきます。
患者さんは40代前半の女性です。
20代の時に子宮筋腫の手術をされました。
それからおよそ15年後のことです。
健康診断の胸のレントゲン写真で、
肺のしこりが疑われました。
その写真がこれです。
何処にしこりがあるか、
分かりますか?
分かり難いかも知れません。
では、次をご覧下さい。
実はこの赤い矢印の先は、
全部肺のしこりなのです。
全てほぼ円形で、
それほど濃くはない白い影です。
次をご覧下さい。
同じ方のCT画像です。
赤い矢印の先が、
同じように丸いしこりの位置を示しています。
少なく見積もって、
両側の肺に20個のしこりがあります。
多発性の肺の腫瘍です。
こうしたしこりは、普通は癌の転移を疑います。
要するに身体の他の場所に癌があって、
それが肺に転移した、
と考える訳です。
ところが…
全身の精査を行ないましたが、
何処にも異常は見付かりません。
これで腫瘍が大きくならなければ、
そのまま様子を見てもいいかな、
と思うところです。
しかし…
肺のしこりの経過を見ていくと、
徐々に大きくなり、その数も増えていきます。
腫瘍の体積が倍になる、
「腫瘍倍加時間」を計算すると、
一年弱くらいですから、
比較的ゆっくりとした進行ですが、
進行していることには変わりはありません。
それで、診断の目的で肺のしこりの一部を取り、
組織の検査が行なわれました。
しこりの組織の結果は、
「良性平滑筋腫」。
「異型性」や「核分裂像」はありません。
要するに、良性の筋肉の腫瘍だったのです。
ところが、驚いたことに肺の組織ではなく、
子宮筋腫の組織でした。
子宮の良性のしこりが、
肺から見付かったのです。
しかし、どうしてこんなことが起こり得るのでしょうか。
あたかも、ミステリーの不可能犯罪のようです。
起こっている現象は、
明らかに転移です。
子宮のしこりが肺に転移したのです。
でも良性のしこりは転移をしない筈です。
2つの前提が矛盾するなら、
そのどちらかが間違っている筈です。
一体どちらが間違っているのでしょうか?
現時点ではまだ答えは出ていません。
元のしこりは100パーセント「子宮筋腫」です。
患者さんは決まって子宮筋腫の手術歴があるのです。
子宮のしこりを取って、
何年かしてから肺にしこりの見付かるのが、
典型的なパターンです。
平均して10年くらいで見付かるのが一般的です。
そのため患者さんはまだ若い女性です。
通常は肺の多発性のしこりで、
僕が実際に経験した3例の患者さんは、
いすれも肺の事例です。
ただ、論文では骨に転移した例や、
お腹の中にしこりの出来た例なども、
報告されています。
転移したしこりはゆっくりではあっても、
進行性です。
要するに徐々には大きくなるのです。
転移したしこりの性質は、
子宮筋腫と良く似ていて、
女性ホルモンの刺激で大きくなります。
従って、しこりが少数であれば、
手術をすることもありますが、
通常はホルモン療法が一般的です。
薬を使って女性ホルモンを下げてしまうか、
手術で両側の卵巣を取ってしまうのです。
海外では卵巣を取る手術の報告が多いのですが、
日本ではその事例はあまりなく、
薬を使うケースが殆どのようです。
経過を見ながら、閉経を待つこともあります。
閉経で、肺のしこりが自然に縮小した事例も、
報告されています。
ただ、いずれにしても、
患者さんには辛い決断となるのです。
そのまま何もしない方がいいのではないか、
という意見もあります。
ただ、海外で肺のしこりが大きくなり、
呼吸不全で死亡した例が報告されているのと、
骨に転移して痛みが強く出た例、
お腹の転移で腹痛に悩まされた例などもあるので、
その判断は難しいところです。
僕の経験した事例では、
2人の方は何もせず様子を見ていて、
もう1人の方はホルモン療法をされていました。
良性なのに何故転移するのか、
という謎解きについては、
組織では判別が出来ない程度に、
軽度の悪性なのだ、
という説明が一般的です。
ただ、僕はもっと良性と悪性との区別に関わる、
本質的な何かが隠れているのではないか、
という感触を持っています。
今日は良性なのに転移する、
不思議なしこりの話でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2009-02-14 08:25
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