インフルエンザの免疫の謎 [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
朝から紹介状を幾つか書いて、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日もインフルエンザの話です。
人間のインフルエンザに感染するのは、
ブタとイタチだけだ、
という話をしました。
ブタにはブタしか感染しないタイプのインフルエンザもあります。
実は最初のインフルエンザウイルスの発見は、
1931年のブタの感染の確認からです。
人間のインフルエンザの発見は、
それから2年後の1933年。
人間のインフルエンザを、
イタチに感染させることに成功した実験からでした。
この時、そのインフルエンザがマウスに肺炎を起こしたので、
マウスにもインフルエンザが感染すると思われ、
マウスでインフルエンザの実験をすることが、
一般的になったのです。
ただ、昨日お話したように、
人間のインフルエンザが、
そのままの形でマウスに感染する訳ではありません。
マウスに流行することもありません。
人間に感染するインフルエンザは、
呼吸器感染症です。
人間に感染したインフルエンザは、
喉の粘膜の表面の細胞にくっつき、
その中で急激に増殖します。
ただ、基本的にはそれだけです。
血液の中にウイルスが増殖する、
「ウイルス血症」を起こすことは通常はありません。
ですから、インフルエンザで筋肉痛などの全身症状が出るのは、
サイトカインと言われる一種の炎症物質によるものと、
考えられています。
問題になっている脳炎の原因は、
分かっていません。
少なくとも、脳に直接ウイルスが、
侵入するのが原因ではないのです。
今問題になっている鳥インフルエンザの人間への感染では、
ウイルス量が桁外れに多いため、
ウイルスが血液でも増殖し、
重症化するので問題になっているのですね。
ちなみに鳥インフルエンザは、
腸の中でウイルスが増殖する腸管感染症です。
そのウイルスが、人間に感染すると、
重症の呼吸器感染症を起こすのです。
同じウイルスでも、
その種によって症状の出方が違うのですね。
インフルエンザに感染した人間の体内では、
免疫反応が起こります。
免疫には液性免疫と細胞性免疫の2種類があります。
抗原の蛋白質に反応して、
リンパ球の一種が抗体を作るのが液性免疫で、
抗体の働きやそれ以外の作用により、
白血球同士が複雑な相互作用を起こし、
白血球がその病原体を攻撃するのが、
細胞性免疫です。
その攻撃の主役はマクロファージと、
細胞障害性T細胞と呼ばれています。
インフルエンザの液性免疫は、
ウイルスがくっついた粘膜に出現する、
IgAと呼ばれる抗体がその主体です。
この抗体はウイルスが侵入すると速やかに作られ、
おおよそ5日後には粘膜で検出されます。
これがインフルエンザを防ぐ抗体です。
ところが…
今のインフルエンザワクチンには、
このIgA抗体を誘導する力はないのです。
インフルエンザワクチンが誘導するのは、
IgG抗体です。
この抗体は感染の拡大は防げても、
感染は予防しない、
と考えられています。
重症化を防ぐワクチンでは、
罹ることは予防出来ないのですから、
集団感染も予防は出来ないことになります。
集団感染の予防出来ないワクチンを、
皆で打つことに意味があるのでしょうか?
重症化し易いリスクのある人だけが、
打てばいいのではないでしょうか?
確かに今でもそう考えている研究者もいます。
一時日本でインフルエンザの集団接種が中止になったのも、
そうした事実が判明したためでもありました。
しかし、現在ではWHOもインフルエンザウイルスに、
集団予防効果のあることを認めています。
流行とワクチンの型が近似していれば、
通常50~80パーセントの予防効果があると言われています。
感染防御の要であるIgA抗体の誘導はしない筈なのに、
どうして現実には感染を予防するのでしょうか?
「分からない」というのが答えです。
おそらくは細胞性免疫の誘導効果が、
別個にあるのではないか、
というのが現時点での推測です。
しかし、厳密に人間で立証されたものではありません。
人間のインフルエンザに対する、
細胞性免疫の仕組みというのは、
まだブラックボックスなのです。
IgA抗体を誘導するワクチンがあれば、
より高い効果が得られる筈だ、
というのは誰もが考えるところです。
これを粘膜ワクチンと言って、
今盛んに研究が行なわれています。
ワクチンを粘膜に投与して、
免疫を作らせる訳です。
ただ、部分的な抗原を鼻から投与しても、
あまりうまく免疫は誘導されないのです。
色々な物質をそこに加えて、
効果を高める工夫が、
これも盛んに行なわれています。
生ワクチンの使用も海外では行なわれています。
弱毒化させたインフルエンザウイルスに、
流行したインフルエンザの遺伝子を取り込ませた
(遺伝子再集合という技術です)
ウイルスをワクチンとして使用し、
これを鼻の粘膜に接種します。
これで理屈から言えば、
粘膜のIgA抗体が誘導され、
感染を防御するのです。
海外のデータでは92パーセントの感染防御効果が、
確認されています。
ただ、安全性への不安もあって、
日本では認可されていません。
絶対理屈ではいい筈の薬が、
それほどの効果を示さず、
原理的には予防効果のない筈のワクチンに、
予防効果が存在する。
この辺に人間の免疫の奥深さが垣間見えるような気がするのですが、
皆さんはどうお考えになりますか?
今日はインフルエンザの免疫を巡る幾つかのトピックを、
僕なりの視点でお届けしました。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
朝から紹介状を幾つか書いて、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日もインフルエンザの話です。
人間のインフルエンザに感染するのは、
ブタとイタチだけだ、
という話をしました。
ブタにはブタしか感染しないタイプのインフルエンザもあります。
実は最初のインフルエンザウイルスの発見は、
1931年のブタの感染の確認からです。
人間のインフルエンザの発見は、
それから2年後の1933年。
人間のインフルエンザを、
イタチに感染させることに成功した実験からでした。
この時、そのインフルエンザがマウスに肺炎を起こしたので、
マウスにもインフルエンザが感染すると思われ、
マウスでインフルエンザの実験をすることが、
一般的になったのです。
ただ、昨日お話したように、
人間のインフルエンザが、
そのままの形でマウスに感染する訳ではありません。
マウスに流行することもありません。
人間に感染するインフルエンザは、
呼吸器感染症です。
人間に感染したインフルエンザは、
喉の粘膜の表面の細胞にくっつき、
その中で急激に増殖します。
ただ、基本的にはそれだけです。
血液の中にウイルスが増殖する、
「ウイルス血症」を起こすことは通常はありません。
ですから、インフルエンザで筋肉痛などの全身症状が出るのは、
サイトカインと言われる一種の炎症物質によるものと、
考えられています。
問題になっている脳炎の原因は、
分かっていません。
少なくとも、脳に直接ウイルスが、
侵入するのが原因ではないのです。
今問題になっている鳥インフルエンザの人間への感染では、
ウイルス量が桁外れに多いため、
ウイルスが血液でも増殖し、
重症化するので問題になっているのですね。
ちなみに鳥インフルエンザは、
腸の中でウイルスが増殖する腸管感染症です。
そのウイルスが、人間に感染すると、
重症の呼吸器感染症を起こすのです。
同じウイルスでも、
その種によって症状の出方が違うのですね。
インフルエンザに感染した人間の体内では、
免疫反応が起こります。
免疫には液性免疫と細胞性免疫の2種類があります。
抗原の蛋白質に反応して、
リンパ球の一種が抗体を作るのが液性免疫で、
抗体の働きやそれ以外の作用により、
白血球同士が複雑な相互作用を起こし、
白血球がその病原体を攻撃するのが、
細胞性免疫です。
その攻撃の主役はマクロファージと、
細胞障害性T細胞と呼ばれています。
インフルエンザの液性免疫は、
ウイルスがくっついた粘膜に出現する、
IgAと呼ばれる抗体がその主体です。
この抗体はウイルスが侵入すると速やかに作られ、
おおよそ5日後には粘膜で検出されます。
これがインフルエンザを防ぐ抗体です。
ところが…
今のインフルエンザワクチンには、
このIgA抗体を誘導する力はないのです。
インフルエンザワクチンが誘導するのは、
IgG抗体です。
この抗体は感染の拡大は防げても、
感染は予防しない、
と考えられています。
重症化を防ぐワクチンでは、
罹ることは予防出来ないのですから、
集団感染も予防は出来ないことになります。
集団感染の予防出来ないワクチンを、
皆で打つことに意味があるのでしょうか?
重症化し易いリスクのある人だけが、
打てばいいのではないでしょうか?
確かに今でもそう考えている研究者もいます。
一時日本でインフルエンザの集団接種が中止になったのも、
そうした事実が判明したためでもありました。
しかし、現在ではWHOもインフルエンザウイルスに、
集団予防効果のあることを認めています。
流行とワクチンの型が近似していれば、
通常50~80パーセントの予防効果があると言われています。
感染防御の要であるIgA抗体の誘導はしない筈なのに、
どうして現実には感染を予防するのでしょうか?
「分からない」というのが答えです。
おそらくは細胞性免疫の誘導効果が、
別個にあるのではないか、
というのが現時点での推測です。
しかし、厳密に人間で立証されたものではありません。
人間のインフルエンザに対する、
細胞性免疫の仕組みというのは、
まだブラックボックスなのです。
IgA抗体を誘導するワクチンがあれば、
より高い効果が得られる筈だ、
というのは誰もが考えるところです。
これを粘膜ワクチンと言って、
今盛んに研究が行なわれています。
ワクチンを粘膜に投与して、
免疫を作らせる訳です。
ただ、部分的な抗原を鼻から投与しても、
あまりうまく免疫は誘導されないのです。
色々な物質をそこに加えて、
効果を高める工夫が、
これも盛んに行なわれています。
生ワクチンの使用も海外では行なわれています。
弱毒化させたインフルエンザウイルスに、
流行したインフルエンザの遺伝子を取り込ませた
(遺伝子再集合という技術です)
ウイルスをワクチンとして使用し、
これを鼻の粘膜に接種します。
これで理屈から言えば、
粘膜のIgA抗体が誘導され、
感染を防御するのです。
海外のデータでは92パーセントの感染防御効果が、
確認されています。
ただ、安全性への不安もあって、
日本では認可されていません。
絶対理屈ではいい筈の薬が、
それほどの効果を示さず、
原理的には予防効果のない筈のワクチンに、
予防効果が存在する。
この辺に人間の免疫の奥深さが垣間見えるような気がするのですが、
皆さんはどうお考えになりますか?
今日はインフルエンザの免疫を巡る幾つかのトピックを、
僕なりの視点でお届けしました。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2009-02-13 08:17
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