SSブログ

続・胃薬を飲み続けると大腸癌になり易いのか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は昨日に続いて、
「プロトンポンプ阻害剤」の話です。

「プロトンポンプ阻害剤」は、
胃酸を強力に抑える薬です。
これを飲み続けることにより、
本来強い酸性である筈の胃の中が、
中性に近い状態になってしまいます。

通常胃潰瘍では8週間でその使用は中止されますが、
「逆流性食道炎」と言って、
酸が食道に逆流し易い状態では、
食道の粘膜が炎症を起こすリスクが常に存在するので、
このプロトンポンプ阻害剤を、
長期間使用し続けることも稀ではありません。

これは適切な治療ではありますが、
胃の中を人工的に中性に近い状態にし続けることで、
何か問題はないのでしょうか?

まず第一に考えられるのは、
細菌の繁殖です。
ある実験によると、
プロトンポンプ阻害剤を使用すると、
胃の中の細菌の数が200倍に増えた、
というデータが発表されています。
これはまあ、至極当然のことです。
強い酸が細菌の繁殖を抑えているのですから、
それがなくなれば、
細菌の増えるのは当然です。

発展途上国では、
サルモネラやコレラなどの感染症が、
プロトンポンプ阻害剤で増加した、
という報告があります。

ただ、衛生環境が保たれていれば、
感染症の発生にそれほどの差はない、
というのが現時点で優勢な意見です。

しかし、胃の中の細菌が増えることは、
当然繋がった腸の細菌にも影響を与えます。

要するにプロトンポンプ阻害剤を使い続けることにより、
腸内細菌の分布も変化する訳です。
その点で現在危惧されているのが、
二次胆汁酸の増加、
という現象です。

胆汁酸というのは、
肝臓の作る胆汁の中に含まれていて、
脂肪の分解に関わり、
その多くは一旦胆嚢から小腸に出て、
それから再び小腸の肛門側にある、
回腸の末端から吸収されます。
言ってみれば天然のリサイクルシステムですね。
ただ、大腸に流れた一部の胆汁酸は、
腸内細菌の働きにより、
主に右側の大腸で、
二次胆汁酸に変化します。
そして、この二次胆汁酸には毒性があり、
それが大腸癌の原因の1つと考えられているのです。

プロトンポンプ阻害剤の使用で、
腸内の悪玉菌が増え、
それが二次胆汁酸を増やして、
大腸癌を増やすのではないか、
という仮説があるのですね。

ただ、その一方で、
プロトンポンプ阻害剤は大腸癌の転移を抑える作用がある、
との報告もあります。
逆に抗腫瘍作用があるのではないか、
という考えもあるのです。

今年発表された多数例を対象とした研究では、
大腸癌の発生とプロトンポンプ阻害剤の使用には、
関係はない、との結果が報告されています。
ただ、3年程度の短期間の研究でもあり、
今後この結論が覆される可能性も、
無いとは言えません。

更に、もう1つの問題はガストリンの上昇です。

ガストリンというのは、
胃の出口の辺りの細胞から分泌される、
それ自身胃酸の出を刺激する物質です。
プロトンポンプ阻害剤を使用すると、
胃酸が抑えられるため、
胃酸が足りないと判断したガストリン産生細胞は、
ガストリンをじゃんじゃん出します。
プロトンポンプ阻害剤を使っていると、
ガストリンが上がります。
これは間違いない事実ですね。

問題はこのガストリンに、
細胞増殖作用がある、という事実です。
実際「カルチノイド」と呼ばれる特殊な腫瘍は、
ガストリンの刺激によって起こる、
と言われています。

現時点でのまとめはこうです。

プロトンポンプ阻害剤は非常に有効性の高い薬ですが、
かなり人工的に、
人間の体内環境を大きく変化させる薬でもあります。
従って、短期間の使用には問題はありませんが、
長期間の使用には、
慎重にその適用を考えるべきです。
この薬の使用で癌が増える、という意見には、
現時点で確証はありません。
しかし、今後新しい知見の現れる可能性はあります。

本来は胃酸を抑える薬より、
より効果のある胃を守る薬、
胃粘膜の防御因子を強化する薬が、
胃潰瘍などの病気の治療には望ましい選択ですが、
残念ながら現時点でそんな要求を満たす薬剤はありません。
そうした薬の開発こそが望まれていると思うのですが、
皆さんはどうお考えになりますか。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(0)  コメント(7)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 7

acco

☆ 腸肝循環 ☆

石原先生、こんにちは ★
いつも、お世話になっています (・∀・)ノ

枝葉の部分で恐縮なのですが・・・
胆汁酸の再吸収は殆どが”回腸”で行われると
学校で習った気がします ♪

私は大腸を摘出していているのですが、
私も胆汁酸、リサイクルしたいなぁ ☆彡

胃薬のお話から離れてしまって済みません!

by acco (2009-01-29 17:08) 

fujiki

accoさんへ
ご指摘ありがとうございます。
「二次胆汁酸の産生は右側結腸が主体である」、
との記述があったので、
「胆汁酸は右の大腸で吸収される」、
と、勢いで書いてしまいました。
ご指摘の通り、
胆汁酸の再吸収は回腸末端ですね。

ええと、ちょっと記事に手を入れました。
多分これでほぼ正確になったと思うのですが、
如何でしょうか?
by fujiki (2009-01-29 20:32) 

acco

そうそう、こんな感じでした (ゝ∀・)b
有難うございます!

しかも、わざわざ訂正までして下さって・・・
却って、お手数お掛けしました (*・ェ・;)ゞ

私も腸肝循環出来ていて、良かったです ★
なんかスッキリしました!

**☆** おやすみなさぁい **☆**

by acco (2009-01-29 22:19) 

daidai

先生、お疲れ様です。毎日欠かさずブログ拝見させて頂いてます。
名医に 質問です。
今日、父が膵炎(アルコール性)で酷いだるさを訴えるので近所の病院に連れていきました。(その病院は初)
すると、そこの院長は「アルコールの患者は入院させません!」との事。
酷く辛そうな父を見て、「病院が違いますよ、どうします?入院はさせませんよ」って、なんか妙に腹がたちました。父がアルコール依存性なのはわかってます。でも精神科は根本的な治療は限界があると思い、せめて体のだるさと痛みをとってあげたくて・・・。やはり掛かり付けの担当医に受け入れて貰い、わずかながら命を延長してもらいました。
アルコールが原因の患者を門前払いするような行為、許されるのでしょうか?
断酒が第一の治療でしょうが、門前払いはあんまりです。先生はいかがお考えでしょうか。
ご意見願います。
by daidai (2009-01-29 23:15) 

fujiki

daidai さんへ
いつもお読み頂きありがとうございます。
お辛い体験をされましたね。

僕もアルコール依存症で肝硬変の患者さんを、
近隣の病院で受診拒否されたことがあります。

病院側の事情を言うと、
最初から受け入れなかった訳ではないのですが、
トラブルがあり、
それをきっかけにして、
「受け入れ拒否」のような規則を、
作ったケースが多いようです。

医者全般の弁護をするつもりはありませんが、
最初は困っている全ての患者さんに対応したい、
というのが殆どの医者の初心です。
それが悲しいことですが、
時と共に変化してしまうのですね。

入院拒否のきっかけとしては、
入院されている他の患者さんやその御家族から、
クレームがつくケースが多いのです。
「何であんな患者を入れるんだ」、
みたいな意見が多いのですね。
その裏にあるのは、
「病気」」に対する偏見です。

ただ、一旦規則を作ってしまうと、
それは便宜的なものであった筈なのに、
今度は規則を盾に取って、
冷たく官僚的な対応になりがちです。

daidai さんが、入院拒否された病院の院長先生に、
ご不快感を持たれたのも、
多分そうした態度が大きかったのではないか、
と思います。
本来はケースバイケースで対応すべきものなのですから、
そのケースで入院が可能かどうか、
しっかり検討し、
もし結果として無理であっても、
その説明がしっかりあれば、
daidai さんの感じ方も、
変わっていたのではないか、と思います。

本来は、精神的ケアの必要な患者さんが、
身体の不調で精神科のない病院に入院されるようなケースで、
外部の専門家のフォロウが、
もっとスムースに出来るような態勢があれば、
こうした問題はもっと改善するのではないか、
と思います。
by fujiki (2009-01-30 09:24) 

ガロ

古い記事でのコメントすみません。

ちなみに私はPPIのタケブロンを5年以上服用していて、右側大腸癌(盲腸癌)になりました。サンプル一例で決定打ではないですが、私はこのタケブロンではないかと感じています。ま、参考にもなりませんが・・・。
by ガロ (2009-07-29 22:21) 

fujiki

ガロさんへ
コメントありがとうございます。
難しい問題ですが、
確かに無関係とは言い切れないと思います。
プロトンポンプ阻害剤という薬を、
どのように使用するべきかは、
今後その考え方が変化してゆくような気がします。
貴重なご意見ありがとうございました。
by fujiki (2009-07-30 06:31) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0