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デパスが出血を予防するのは何故か? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診の整理をして、
それから今PCに向かっています。

町田の病院で、100人を超えるという、
インフルエンザの集団感染がニュースになっていますね。
患者さんや職員の9割がワクチンを打っていたのに、
感染が防げなかった、という報道なのですが、
現時点での僕の感触としては、
余程の隠されている何かがなければ、
そんなことは起こり難い、
と考えます。
もう少しすれば、より正確な情報が出るでしょうから、
コメントするのはそれからにしたいと思います。
皆さんも今出ている情報だけで、
「何だ、ワクチンなんて効果はないんだ」、
とは即断しないで下さい。
多分そんなこととは無関係な何かがある筈です。

それでは今日の話題です。

ある目的で作られた薬が、
それとは別の効果のあることが確認され、
当初の目的とは別の目的や治療に、
使われるというのは、
医療の世界ではよくあることです。

その点に関して最近の僕の面白いと思ったトピックを、
今日は幾つかご紹介します。

まず最初は最近も記事にした、
「慢性硬膜下血腫」に対してのものです。
この病気は高齢者に多く、
再発し易い患者さんでは、
治療に困難が生じることがあります。
せっかく手術をして一時的に回復しても、
すぐに次の出血が起こってしまうのです。

それを予防する方法はないものでしょうか?

ここで登場するのが、
デパスという薬です。
一般名はetizolam 。
皆さんもご存知の安定剤です。
頑固な肩凝りや頭痛にも効果のある、
重宝な薬ですが、
依存性の強いのが難点です。

この安定剤を飲んでもらうだけで、
手術をしなくても「慢性硬膜下血腫」が改善して、
手術が不要となり再発もしなかった、
というデータが複数あるのです。

面白いでしょ。

これに対しての理屈は一応以下の通りです。

「慢性硬膜下血腫」で再発を起こし易い人には、
血小板活性化因子(platelet-activating factor )という、
一種の炎症物質が、
大きな影響を与えている、
と言われています。

出血をきっかけにして、
血を固めようとする力と、
固まった血を溶かそうとする力が、
共に異常に強くなるために、
毛細血管からじわじわと出血が持続し、
血の塊を大きくしてしまうのです。
その一連の流れを進める上で、
重要な働きをしているのが、
この物質なのですね。

その証拠に、この血小板活性化因子を、
抑える薬剤を使うと、
出血の進行自体が抑えられるのです。

その目的のために作られた薬というのは、
現在のところは存在しないのですが、
一般に健康保険で使われている薬の中で、
この血小板活性化因子を抑える作用の確認されているものが、
幾つかあります。

そのうちの1つは脳代謝改善剤として使われている、
ケタス(一般名Ibudilast )という薬で、
もう1つがご紹介した安定剤のデパスです。
「慢性硬膜下血腫」の患者さんには、
認知症の方も多くいらっしゃるので、
そうしたケースでは、
鎮静の必要な方にはデパスを、
ぼんやりとされている方にはケタスを、
という使い分けが出来るのです。

薬というのも、なかなか奥の深いものですね。

それでは、次のトピックです。

以前も取り上げた慢性膵炎は、
腹痛のコントロールが困難なケースの多い病気です。

そんな症状に対して、
ビソルボン(塩酸ブロムヘキシン)という痰切れを良くする薬が、
意外な効果があることが、
最近注目されています。
診療所に受診されている患者さんの中にも、
他の膵炎の薬が殆ど無効で、
このビソルボンを使ったところ、
それまで取れなかった痛みが、
劇的に改善したという方が、
いらっしゃいます。

これにも一応の理屈があります。

ビソルボンは通常気道に効く薬ですが、
実は膵臓の腺房細胞という細胞にも、
感受性のあることが分かっています。
腺房細胞は膵液の成分を分泌しています。
膵炎の膵液はどろどろになっているのですが、
ビソルボンはそれをさらさらに変えてくれるのです。
痰の切れを良くするのと同じメカニズムで、
膵液の流れを良くしてくれるという訳です。

面白いですね。

新薬を開発するのも1つの考えですが、
今ある薬をもっと有効利用しようというのも、
お金のあまり掛からない優れた知恵です。
今後は医療にそうお金は使えない時代が、
しばらくは続くことは明らかでしょう。
今ある薬、今ある検査、今ある治療技術、
今ある人材、
そうしたものをより有効利用することこそが、
患者さんも幸せにする方法のように僕には思えます。
そうした可能性はもっと眠っていると思うのですが、
もっと製薬会社や医療器具メーカーを儲けさせないといけない、
という権力の側の強い意思と、
「医療は日々進歩して、より良い治療が待っている」、
というような能天気な幻想を垂れ流すマスコミという洗脳装置がある以上、
そんな発想は実現されることはないのだと思います。

最後はちょっと脱線しました。
御免なさい。

今日は薬の適用外使用についてのトピックをお届けしました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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myoko

こんにちは。ブログを拝見させて頂きました。
大変参考になりました。ありがとうございます。
教えて頂けると嬉しいのですが、、、
7月9日夜、風呂場ですべって後頭部を激しくぶつけました。入口のあがりかまちのような所の角です。翌日休日診療でCTをとり、異常はないが、高齢でもあり1~2か月は慢性硬膜下血腫で要注意との診断でした。出血は打撲直後からでなく、一か月たって出血が始まることがあるのでしょうか。出血が止まることはあるのでしょうか?この二か月間、運動をしてもよいのでしょうか。日常生活で気を付けることがありましたら教えて頂けますでしょうか。
よろしくお願い致します。
なお、睡眠薬としてデパスを時々服用していますが
これからは毎晩服用したいと思います。

by myoko

by myoko (2022-07-22 17:21) 

fujiki

myokoさんへ
お読みいただきありがとうございます。
日常生活は無理をせず、軽い運動は、
体調が良ければして頂いて良いと思いますが、
激しい運動は控えた方が良いと思います。
デパスの使用はトリビアとしてご紹介しましたが、
依存性のリスクはある薬で、
急性期に連用することはお勧めは出来ません。
今まで通り時々の使用で、
様子をみて頂いた方が良いと思います。
by fujiki (2022-07-22 22:37) 

myoko

早速の返信ありがとうございます
激しい運動は控え、デパスは今まで通り時々服用することに致します
しばらくは、気を付けながら生活を送ります
ご親切なご助言、ありがとうございました。


by myoko (2022-07-23 17:27) 

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