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ガイドラインにはない疥癬の治療について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
朝からカルテの整理をして、
診断書など書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は疥癬の治療についての話です。

疥癬とはダニの一種による感染症で、
全身にひどい痒みを伴う湿疹が現われ、
集団生活しているような状況では、
感染が周辺に拡大します。

日本では主に、
高齢者の施設での集団感染が、
大きな問題となっています。

疥癬の画像は、以前記事にしましたので、
お読みでない方は、
まずこちらをご覧下さい。
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2008-08-20
よろしいでしょうか。

僕が関わっている老人ホームで、
以前疥癬の集団感染が起こりました。

以前にも書きましたが、
皮膚科に受診されている1人の80代の男性が、
ホームに入所され、
皮膚科医から慢性湿疹との診断で、
ステロイドの塗り薬が出されていたのですが、
実はその湿疹が疥癬だったのです。
皆さんもご存知のように、
疥癬にステロイドを使えば、
良くなるどころか、
湿疹は悪化して、
ダニは増え、
角化型という感染力の強いタイプに変化します。
その「皮膚科専門医」と称する医者は、
絶対やってはいけないことを、
やっていた訳です。

2005年にイベルメクチンという薬が、
日本でも使えるようになりました。
これは一種の神経毒で、
疥癬に効く唯一の飲み薬なのですが、
僕が疥癬の治療に当たった当時には、
まだ使える状況ではありませんでした。

従って、疥癬の診断をして頂いた、
皮膚科の医者とも相談の上、
塗り薬による治療を行ないました。
使用したのは、
γBHC という薬です。
これも一種の神経毒で、
効果もあるが副作用もある薬です。
周辺の入所者の方にも、
感染が広がっている可能性が高かったので、
その周辺の方には、
湿疹がなくても、
予防的にクロタミトンという薬を、
5日間続けて塗りました。

クロタミトンはオイラックスという商品名で、
ポピュラーに使われている薬です。
痒み止めとして、
市販のお薬にも入っています。
疥癬にある程度の効果のあることは確かですが、
何故効くのかは分かっていません。
要するに、経験的な使用なのですね。
ただ、市販のものには、
大抵ステロイドが少量入っていることが多いので、
注意が必要です。
そんなものを使えば、逆効果ですからね。

この治療で一旦疥癬は収束したかに見えました。

ところが…

1ヵ月ほどすると、
最初に疥癬を持ち込んだ男性に、
疥癬が再発。
それからその周辺の何人かにも、
疥癬が発生しました。
治療は充分ではなかったのです。

丁度その時施設にいた看護師さんの伝手で、
ある大学病院の皮膚科の先生にコンタクトを取りました。
結構ご高齢の先生でした。
その先生が、
「これは自分から聞いたとは、
絶対に言わないで欲しいのだが、
この方法が良く効く筈だよ」、
と教えて頂いたのが、
次の方法でした。

安息香酸ベンジル、という薬を使います。
これも一種の神経毒の作用の塗り薬ですが、
その副作用はγBHC と比べると、
遥かに少ないのです。
症状のあるなしに関わらず、
施設の入所者と職員全員を、
同時に治療するのが一番のポイントです。
例外は絶対に許されません。

安息香酸ベンジル10cc に無水アルコールを90c 混ぜ、
全体量を100cc にします。
これが1人の1回分。
この溶液を、首から下の全身に、
くまなく塗ります。
塗った後は、下着や靴下、シーツは、
全て新しいものに替えます。
衣類は熱湯に付けて洗い、
日光で消毒します。
そして、24時間後に、
全身をシャワーで洗い、
薬を洗い流します。
これを1回やるだけで治療は終了。
原則2回はやりません。

最初に聞いた時は、
まさかと思いました。
もっと毒性の強い薬でも、
通常は何度かは続けて使うのです。
そうでないと効果はないと、
ものの本にも書いてあります。

その先生の、
経験から生まれた方法だったのでしょう。
勿論教科書などには書いてありません。

でもそれが、驚くほど良く効いたのです。

疥癬は見事に収束し、
それから半年は再発もありませんでした。

半年後に周辺の入所者から、
小規模の感染が発生。
すぐに同じ治療を行なったところ、
これも速やかに消失しました。

その更に2年後に、
再度小規模の感染が発生。
同じ治療をもう一度行ない、
その後は5年以上1例も、
疥癬の発生はありません。

2007年の「疥癬ガイドライン」には、
勿論この治療法は出ていません。
それどころか、安息香酸ベンジル自体、
「エビデンスがない」として、
推奨すらされていません。
もっと神経毒としての副作用の強い、
飲み薬の治療が優先され、
推奨されているのです。

ガイドラインとは何でしょうか?
エビデンスとはそんなに有難いものですか?

結果的に3回の治療を行ないましたが、
それによる副作用の出た方は、
1人もいません。

ガイドラインというのは、
経験的な知恵の集積ではなく、
あくまで世界から多くの文献を集めて、
それを解析し、数学的に意味のあるものだけを、
信用しようという思想です。
それが意味を持つ場合もあるでしょうが、
医療技術は職人芸的な部分の、
多く残っている分野でもあります。

そして、疥癬のような昔からの病気には、
先人のコツのようなものが、
より有益なことがあるものなのですね。

今日はガイドラインには書いていない、
疥癬の治療についての話でした。

内容は全て事実ですが、
この治療の安全性や効果を、
僕が保障出来るものではありませんので、
その点は充分注意の上、
お読み頂ければ幸いです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

(付記)
当該記事は記載の治療を、
個人で行なうことを想定したものではありません。
毒性のある薬ではありますので、
必ず医師の指導の元に、
使用をされますようにお願いします。
(2015年3月31日午後11時補足)
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まちゃむぅ

こらは実物でしょうか?
by まちゃむぅ (2009-12-27 01:25) 

fujiki

まちゃむぅ さんへ
御一読ありがとうございます。
by fujiki (2009-12-27 11:25) 

まちゃむぅ

こんばんは!この話は事実でしょうか?そうであれば、是非試してみたいです。どうでしょうか?
by まちゃむぅ (2009-12-28 22:57) 

fujiki

まちゃむぅさんへ
コメントありがとうございます。

勿論事実です。
ただ、あまり宣伝するような性質のものではありませんので、
もしご興味があれば、
ホームページの方に、
メールを頂ければ幸いです。
(お返事は年明け4日以降になることをご了承下さい)
by fujiki (2009-12-29 09:01) 

まちゃむぅ

実際にこの方法をやりたいのですが、正直、不安です どうなのでしょうか?
by まちゃむぅ (2009-12-29 19:33) 

るみ

息子が十八年にもわたり、疥癬に苦しんでいますいるのです。どこの皮膚科に行っても疥癬ではないといわれ、しかたなく市販のアスター軟膏やムトーハップなど塗りましたが、完治しません。母親の私が何度も感染し皮膚科でヒゼンダニが発見されているのに、同じ医師が息子はダニがいないから疥癬ではないというのです。この秋ペルメトリンのジェネリックを個人輸入し大量に塗りましたが、まだ完治しません。私も今また再発し、尿道口にも取り付いています。何とか先生のこの方法を試したいのですが、薬局で買えるのですか?二十九歳の息子の人生がかかっています。結婚したい彼女がいるのです。彼女まで不幸にしたくありません。どうか、たすけてください。たすけてください。
by るみ (2010-01-27 21:46) 

fujiki

るみさんへ
コメントありがとうございます。
メールの方にお返事を送ります。
少々お待ち下さい。
by fujiki (2010-01-28 08:16) 

おたんこナース

疥癬について、読ませて頂きました。
私は、現在、老人施設に勤務する看護師ですが、施設内で疥癬がひろがっています。ストロメクトールとオイラックスで対処していますが、一向に収束に向かいません。ストロメクトールの効能など、診療する医師によっても指示が統一せず、難航しております。
先生が試された方法を是非、試してみたいと思います。
よろしければ、ご指示頂けないでしょうか?
by おたんこナース (2010-10-08 12:29) 

fujiki

おたんこナースさんへ
コメントありがとうございます。
記事の内容に嘘はありませんが、
現在一般に行なわれている方法ではなく、
無責任にお勧めすることは出来ません。
個別の事例について、
コメント欄でお答えは難しいので、
もしよろしければ、
ホームページに公開してある、
メールアドレスまで御連絡下さい。
by fujiki (2010-10-08 20:04) 

はろん

こんばんは、私は高校のとき集団生活していた姉から感染され、治療して収まりましたが、その後毎年ちょっと再発したりして、もう十年以上経っています。
私も先生が試したこの方法でやってみたいのでどうかお願いします。

by はろん (2010-12-29 23:49) 

fujiki

はろんさんへ
コメントありがとうございます。
具体的なご質問はホームページに公開してある、
アドレスまでメールを頂ければ幸いです。
by fujiki (2010-12-31 13:45) 

たこ

こんにちわ、現在疥癬治療中のものです。ひとつ、教えていただきたいのですが、fujiki様がおっしゃっている安息香酸ベンジルをアルコールで希釈したものは、陰部や肛門に塗布すればかなりヒリヒリすると思います。
そういったデリケートな個所へはどのように塗布されたのでしょうか?
一般論としてご教授いただければ幸いです。
by たこ (2014-01-10 07:33) 

fujiki

たこさんへ
通常アルコールの消毒が可能な部位であれば、
塗布は可能だと思います。
実際に使用していて、
そのことが大きな問題になったことはありません。
ただ、アルコールへの過敏があれば、
使用は不可ですし、
粘膜面のみはオイラックス、というのも、
1つの考えとは思います。
by fujiki (2014-01-10 08:21) 

たこ

お忙しいところ、ご回答いただきありがとうございました!

by たこ (2014-01-10 23:03) 

花子

こんにちは。数年にわたり疥癬に悩まされております。
毎日毎日検索し、先生のブログに辿り着きました。

今年も疥癬の再発があり、2か所目の皮膚科で疥癬の死骸が発見されました。(今まで発見されたことはなく、疑いでの治療でした)
今まで治療してきた皮膚科ではストロメクトールと殺虫剤(ベンジルと思われます)とオイラックスを処方され治ってはいたのですが、今年受診した所今年はスミスリンローションという新薬が出たとのことでそれを処方されました。
初めは少しは効果はあるように思えましたが、2回目の塗布後も痒みと発疹は発生しており完治に向かうとは思えないのです。しかも頭も痒みと発疹があり、再受診したのですが、頭には出ないの一点張りでした
2か所めの皮膚科で確定されたのですが、薬はストロメクトールとオイラックスだけしか処方できないと言われました。
皮膚科の医師は、本当の疥癬の事実を知っているのでしょうか?
疥癬は皮膚の接触で感染すると認識していましたが、近くに長時間いる方が移っているような事実が起こり、心配で仕方ありません。
現在仕事は休んでいます。一日も早く復帰したいのですが、今後仕事を続けていいものか、切実に悩んでいます。

お忙しいとは思いますが、先生ご教示いただけないでしょうか?
by 花子 (2014-09-15 13:27) 

ためした者です。


ここに書いてあるとおりに
安息香酸ベンジル(試薬)10cc に無水アルコールを90c 混ぜ
全身塗布しました。
最初、しみる感じがした後、体じゅうが燃えるような熱い
痛みを感じてビックリしました。いそいでシャワーを浴びた
のですが、石けんで洗い流した後も15分ほど肌が
ピリピリしました。とても耐えられるレベルの痛みでは
ありませんでした。

ネットで調べるとBBローションの使用はかなりの記述があり、
安心して試したのですが、これはどういうことなのでしょうか。
by ためした者です。 (2015-03-31 21:37) 

fujiki

ためした者です さんへ
通常診療所で使用する場合には、
まず皮膚の小さな部分で試してみて、
皮膚の発赤や痛みなどがないことを確認してから、
全身に塗ることを指導しています。
安息香酸ベンジルが合わなかったことよりも、
アルコールに肌が刺激された事の方が、
可能性は高そうです。
そうしたことは稀にあります。
記事が言葉足らずで申し訳ありませんでした。

ただ、毒性のある薬ではありますので、
くれぐれも医師の指導の元に、
使用をされるようにお願いします。
by fujiki (2015-03-31 22:49) 

ためした者です

さっそくのご返事本当に
ありがとうございます。
BBローションで痛みを感じた
『ためした者です』です。
アルコールは消毒用アルコールで何度か皮膚の弱い外陰部にも試していますが、その刺激とは全くレベルが
違っていました、安息香酸が10パーセント配合された疥癬にもきく土槿皮酊という水虫薬を外陰部に塗布した時と全く同じ激烈な痛みでした。
土槿皮酊の塗布は外陰部に使用した場合、商品レビューでは焼きごてを押しつけられたような痛みと形容されますが、私の場合、外陰部と胸から首までが焼けたような痛みが感じられ、これは土槿皮酊そのものだと
感じましたので、他の使用者もBBローション使用時に土槿皮酊使用時と同じような刺激を多数感じてるのではないか、と感じ疑問と使用者の反応がここのコメント欄で聞けるのではとコメントさせていただきました。ありがとうございました。
by ためした者です (2015-04-01 00:20) 

無位

長年、疥癬に悩ませられております、質問させてください。
ここに書かれている通り薬の塗布は原則1回だけでいいのでしょうか、もし治らずに2回目」以降塗るときはどれぐらいの時間を空ければいいのでしょうか、又この薬で治った後のケア(痒みや蕁麻疹がなかなか治らない等)のやり方も教えていただけたらうれしいのですが?
by 無位 (2015-05-06 16:19) 

fujiki

無位さんへ
原則1回で良いのですが、
不充分であったり、ぶり返しの傾向のある場合には、
2回までは使用をすることがあります。
それで効果のない時は、
この方法は無効と考えた方が良いと思います。
期間は経過を見る上で、
一ヶ月は空けた方が良いと思います。
かゆみは保湿剤等での対応になります。
ステロイドは使用しない方が無難です。
by fujiki (2015-05-07 21:00) 

無位

すばやいお返事ありがとうございます。
試してみようと思います。
by 無位 (2015-05-08 20:05) 

ぺこ

安息香酸ベンジル(試薬)10cc に無水アルコールを90cを塗ったら今年の梅雨から悩まされていた両肘の外側のかゆみが、ピタッと収まりました。まるで手品のようです。ありがとうございます!
by ぺこ (2015-09-18 08:51) 

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