SSブログ

アルコールは何故膵炎を誘発するのか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談の予定だったのですが、
急に中止となり、
午後はぽっかり暇になりました。
うれしいんですけど、
やらなきゃいけないことも沢山あるし、
有意義に時間を使いたいな、
なんて思うと、
却ってだらけてしまって、
後で後悔しそうな気もして、
難しいですね。
むしろ「何もしないぞ」、
と決めた方がいいのかも知れません。
うん。
そうします。
今日の午後は何もしません。

それでは、今日の話題です。

膵臓の炎症が、
アルコールと関係があることは、
19世紀から知られていました。

慢性膵炎というものが、
学問的にはっきりと定義されたのは、
意外に新しく1946年のことですが、
その時点で慢性膵炎とは、
長期の飲酒が引き起こすものとされていました。

ただ、その一方で、
大量に飲酒をした人を、
25年間追跡しても、
そのうちの2~3パーセント程度しか、
膵炎にはならなかったというデータがあります。
(これは急性膵炎のものですが)
また、アルコールの害を立証するために、
実験動物に大量にアルコールを、
(勿論無理矢理に)飲ませても、
膵炎を高率に発症させることには成功しませんでした。

急性膵炎と慢性膵炎の原因は、
ちょっと違っていますが、
男性でアルコールが大きな比率を占めていることは、
間違いありません。
特に慢性膵炎では、
4分の3はアルコール性とされています。
(これは日本のデータです)

これに対して、
女性ではアルコール性は4分の1程度で、
半分は原因不明です。

男性も女性も関わりなく、
この20年で膵炎の患者さんは、
倍以上に増えています。
軽症の慢性膵炎の患者さんは、
診断されていないケースも多いと考えられるので、
潜在的にはもっと多くの患者さんがいると思われます。

従って、
以前触れた痛風発作と同じように、
アルコールが膵炎の直接の原因だと、
考えることには無理があります。
膵炎には他に原因があり、
それがアルコールによって、
誘発される、
という考えの方が、
理に適っているようです。

それでは、アルコールはどういうメカニズムで、
膵炎を誘発するのでしょうか。
幾つかの仮説があります。
しかし、決定的なものではありません。

現在言われている仮説の第一は、
アルコールが直接膵臓の細胞に毒性を持つ、
というものです。
実はアルコールは肝臓ばかりでなく、
膵臓でもある程度分解されるのですね。
その過程で、
肝臓の細胞が障害されるように、
膵臓の細胞も障害されるのではないか、
というのです。
しかし、もしそうなら、
動物に大量のアルコールを飲ませれば、
肝炎を起こすように膵炎も起こしてよさそうです。
現実はそうではなく、
動物はあまり膵炎を起こさないし、
人間が大量に飲酒をしても、
9割以上の人は膵炎にはならないのです。
ですから、この仮説はあまり説得力を持ちません。

第二の仮説は、
アルコールが膵臓の膵液を出す管の出口
(ファーター乳頭と言いますね)を塞いで、
膵液の流れを悪くするのではないか、
というものです。
こうしたことが、
起こり得ないとは言いませんが、
勿論完全に塞ぐ訳ではないので、
これも説得力は同じように乏しいのです。

他にも幾つかの説がありますが、
説得力は五十歩百歩です。

要するに、
アルコールと膵炎との間に、
関係のあることは統計的には間違いないのですが、
そのメカニズムは分かっていない、
というのが事実です。

海外の教科書には、はっきりそう書かれています。
日本の研究者は割合に、
「原因不明」と言いたくないらしく、
上の説やその他の説が、
如何にも証明されているかのように、
書かれていることが多いのです。

「アルコールで悪くなるのは、
肝臓か膵臓のどちらかで、
両方が悪くなることは少ない」、
と言われます。
これは概ね事実ですが、
何故そうなのかは分かっていません。
アルコールの分解のされ方が、
膵臓と肝臓とで違うからだ、
とも言われていますが、
それも仮説の域を出ないものなのです。

最近では膵臓に関わる遺伝子異常が、
膵炎のなり易さを決めているのではないか、
という考えが主流ですが、
遺伝性膵炎と言われる、
一部の特殊な膵炎を別にすれば、
それほどクリアな結果は今のところ出ていないようです。

僕は尿路結石や痛風の増加と、
同じように考えることは出来ないのだろうか、
という考えを持っています。
膵液の組成がどろどろになり、
石を作って詰るというのは、
尿管に石が出来たり、
尿酸が結晶を作ったりするのと、
極めて似ていますよね。
オステオポンチンと膵炎との関係は、
今のところ言われてはいませんが、
酸化ストレスに伴う同様の機序が、
働いていると考えるのは、
それほど間違ったことではないような気がします。

皆さんはどうお考えになりますか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(1)  コメント(8)  トラックバック(0) 

nice! 1

コメント 8

tanico

膵炎の話をありがとうございます!
アルコールが膵炎を誘発するメカニズムはまだわからない部分なのですね。意外です!

父は膵炎を3,4回繰り返しています。
ピンポン玉くらいののう胞があるそうで、今日は、造影剤をつかったCTを撮りに行っているところです。

酸化ストレスというと、抗がん剤により生じる、活性酸素なども酸化ストレスにあてはまるのでしょうか?

いずれにせよ、すぐお酒におぼれる父は、飲まないに越したことはないので、せっせと脅しておこうと思います。

それから、先生、厚かましくもリクエストがあります。
もし、機会がありましたら、甲状腺の話など、先生なりの見解をお聞かせいただけるとうれしいです。
先日、橋本病とかいう、聞きなれない病気だといわれ、ほっといてまだ大丈夫とはいうものの、黙って、悪化するのを待つのも嫌なのです。
どういうものか、知っておきたいと思っていますが、あまり詳しく書いてあるものはないので・・・。

午後は、先生の「何もしない」が、うまく実行できることを願っております。

by tanico (2008-12-10 11:41) 

fujiki

tanicoさんへ
結局某所から呼び出しがあり、
午後も仕事でした。
うっかり変なことを書かない方が良かった、
と反省しています。
橋本病の話は来週取り上げます。
それではまた。
by fujiki (2008-12-10 21:25) 

大阪42さい

膵炎の話とても興味をもちました

1月前帯状疱疹になり疱疹事態は広がりも少なくすみましたが、その時には右背中痛みに苦しみ。その後胃カメラでも軽い胃炎。胃薬飲むも今は左背中また腰にも痛みがあり悩んでいます
by 大阪42さい (2011-06-24 15:59) 

fujiki

大阪42さいさんへ
コメントありがとうございます。
膵炎の検査も、
一度はやっておいた方が良いかも知れません。
痛みの性状にもよりますので、
主治医の先生にご相談されるのが良いと思います。
by fujiki (2011-06-25 09:09) 

りんこ

女性ですが・・・アルコール性慢性膵炎です。
検索中にココにたどり着きました。

アルコールをやめれずに居ます・・・
普段の量を飲んでも痛んだりしないんです。
年に2度ほどの、南国に旅行に行く度、朝から飲んでしまうので、帰国後、下痢、腹痛を繰り返しています。
それでも、医師からはアルコールをやめるように言われてます。
普段の飲酒で何も変化無いのに・・・やめれません。。。

色々わかってくれば、周りの目を気にしず、膵炎でも少しくらい飲めるようになることを祈ります!

絶食絶飲をしても、数値は700くらいを行ったりきたり・・・
なんだか、食生活、アルコール、関係ないような気がしちゃってます^_^;

by りんこ (2011-11-09 18:59) 

85

こんにちは、海外在住の日本人です。

以前はお酒が好きで、ほぼ毎日飲んでいました。
去年(2015年)の9月くらいから背中の左側鈍痛が気になり始めました。
特にお酒を飲んだ翌日に感じることが多く、ネットで色々と調べてみたら、膵炎とか肝臓の不調の疑いがあるのかな。という気がして、検索しているうちにこちらにたどり着きました。
去年10月に一時帰国した際に、人間ドックを受け、問診の先生にもお酒を飲んだ次の日に背中の左側が痛くなる、という相談をしました。
結果は、血液検査もエコーもCTも特に何の以上もなく、所見にも異常なしとなっているだけでした。

現地に戻ってきてからも、症状は続いていたので、節酒を心がけていますが、誘われた飲み会などで、特に赤ワインを飲んだりすると翌日の痛みを感じるようです。
そこで、年明け2016年1月にも現地にて血液検査とレントゲンを受けましたが、こちらも数値もレントゲンも特に問題ないとのことでした。

気にしすぎていて、痛みを余計感じているような部分もあるのかもしれませんが、気になり始めるとどうしても悩んでしまいます。
また、海外にいるため、日本で受けられるような検査が受けづらい環境にあることは間違いないかと思います。
あとは、日本人と外人の体質の違い?もあるかもしれませんが、
現地の内科医の先生に飲酒の翌日に背中左側に鈍痛があるといっても、特になにも思い当たらない、という顔をされてしまいました。

次回、帰国の際にはもう少し精密な検査をしてみたいと思っていますので、先生のご意見とどういった検査を受けるのが良いのかアドバイスをいただけると助かります。

どうぞよろしくお願いします。
85

by 85 (2016-02-11 12:18) 

fujiki

85さんへ
大きなご心配はない可能性が高いと思いますが、
検査としては、
MRCP(胆道の撮影)を含めたMRI検査が、
良いように思います。
by fujiki (2016-02-15 08:18) 

85

お忙しいところ、返信をいただきありがとうございます。

大きな心配はなさそうとのことで、少し安堵いたしましたが、
次回帰国時には、アドバイスいただいたMRCPを含めたMRI検査を受けてみようと思っております。
貴重なお時間を割いていただきありがとうございました。
by 85 (2016-02-17 06:54) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0