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CTだけで脳梗塞の可能性を無視された2例 [悪口]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に都内の2箇所を廻ります。

それでは、今日の話題です。

もう、あまり悪口は書かないようにしよう、
と思っていたのですが、
ちょっとあまりに酷いじゃないか、
と思える事例に立て続けに遭遇したので、
今日はそのことを書きます。

実名は伏せますが、
掛け値なく、実際にあったことです。

Cさんは90代の女性で、
老人ホームに入所されていた方です。
泌尿器科の病気があり、
ある総合病院にも通院されていました。
軽い心不全もお持ちでしたが、
自分で歩くことは困難な状態だったので、
よほど塩分を摂り過ぎなければ、
息苦しさが出たりすることはありませんでした。

ある日の朝からとろとろと寝ているような状態となり、
座ってもらって、食事を促すと、
口の片方の端からよだれを流し、
身体が右側に傾いてしまいます。
普段の血圧は正常でしたが、
その時は上が190を越えていました。

皆さんはどんな病気を疑いますか?

そうですよね。
言うまでもなく脳梗塞です。

それですぐに救急車を呼び、
いつも掛かっている総合病院を救急で受診しました。
内科の医者がまず診て、
それから脳外科の医者も診察に加わりました。
それから緊急でCTを撮りました。
脳外科の医者の判断はこうです。
「CTでは特に異常はありません。
血液検査でも異常はありません。
入院の必要はないので、お帰り下さい」
明らかに右の麻痺があるのです。
意識の状態も悪いのです。
そのことをいくら老人ホームの看護師が説明しても、
医者は聞く耳は持ちません。

Cさんはそのまま老人ホームに返されました。

当日は点滴をしましたが、
翌日も意識は戻りません。
それで、再度病院に診察を依頼しました。

もう1度CTを撮ると、
今度は脳の左側に大きな梗塞が見付かりました。
Cさんは即日入院になりましたが、
意識は戻らず、
そのまま二週間が過ぎます。

すると、今度は担当の脳外科医は、
「もう治療しても良くなる見込みはありません。
老人ホームに戻るか、
他の施設に移って頂きます。
移る場所は家族が探して下さい」
と冷たく言い放ちます。

ちょっと待って下さいよ。

最初に具合が悪くなって病院に行った時、
どうしてすぐ入院させてくれなかったんですか?
明らかに脳梗塞の症状が出ていたじゃないですか?
CTに映らなかったからですか?
でも、急性期の梗塞がCTに映らないことがあるのは、
それは教科書にも書いてある常識でしょ。
年齢を考えれば、
治療の選択は限られていたかも知れませんが、
「脳梗塞が強く疑われる時には、
入院してもらって、取り敢えず全身の管理をして、
慎重に様子を見る」というのは、
これもどの教科書にも書いてある、
治療のイロハでしょ。
何故そうしなかったんですか?
老人ホームに入っている方だからですか?
ご高齢だからですか?
もし当日に入院していたら、
その後の経過も違った可能性があったのではないですか?

妊娠された方の脳出血の受け入れ拒否も、
酷いとは思いますけど、
それに匹敵する酷さだと、
僕は思います。

ところが、話はこれで終わりではありません。

その2週間ほど後で、
やはり老人ホームに入所されていた、
80代の女性のDさんが、
ある寒い朝、やはり急に呼び掛けても、
反応を見せないような状態に陥りました。

Dさんには過去に脳梗塞を起こされていて、
右側の麻痺がありましたが、
問題のなかった左半身もダランとして動かなくなり、
瞼を開くと、
その黒目は右側に向かって不規則な動きを繰り返していました。
これらの症状の全てが、
以前とは反対側の脳に、
梗塞の起こったことを示していました。

DさんはCさんと同じ病院を、
救急で受診しました。
Dさんのご家族が、
その病院を指名したのです。

今度は脳梗塞を疑うという紹介状を書き、
最初から脳外科に紹介しました。

ところが…

担当した脳外科の医者はCTを撮り、
Dさんのことはろくすっぽ見ないで、
「CTでは脳梗塞はありません。
入院の適応はないので、今日はお帰り下さい。
具合が悪くなったら、今度は内科で診てもらうのが、
いいですね」
と言いました。

納得のいかないまま、Dさんはホームに戻りました。

そして、その夜です。

Dさんの意識の状態が悪化し、
救急車で再び同じ病院に運ばれました。

その翌日に撮ったCTには、
はっきりと大きな脳梗塞が映っていました。

Dさんの意識も2週間経っても戻らず、
主治医はCさんと同じように、
Dさんの家族にも、
早く行き先を見付けて病院を出るようにと、
矢の催促をしているのです。

東京のそこそこ名前の知れた、
総合病院での話です。

僕は今後絶対に、
その病院に患者さんを紹介することは止めようと決意しました。

これも日本の救急医療の1つの現実ですね。
お二人のご家族とも、
その病院を信頼して、
そこに運んでもらうようにと、
自らご希望されたのです。
それを考えると、
僕は今でも心が痛みます。

救急の患者さんは、
間違いなく平等ではありません。
認知症があるとか、
老人ホームに入所されているとか、
年齢であるとか、
そうしたことで、
ある種の病院や医者の対応は、
間違いなく違います。
でも、こうした地味な問題は、
取り上げられることもなく忘れられていくんですね。

今日は1つの現実の断面を、
お届けしました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

すず

このような病院や医師が何ひとつ処分を受けていないことが
一般人の私としては、非常識に思えます。

「高齢者に対して故意に誤診をしているのですか?」
と、この病院や医師に訊ねてみたら、何と答えるのでしょうか。

脳神経外科医の人数は世界一のはずなのに、提供している医療
サービスは最低のようですね。

首相が言った医師非常識論、ある意味当たっていると思えます。
by すず (2008-11-27 19:33) 

fujiki

すずさんへ
コメントありがとうございました。
医者には医者の体質のようなものが、
それは確実にあって、
僕は基本的にはそうしたものが、
嫌いなんですが、
でも、
あまり根拠なく非難されると、
何となく反発する気分にもなります。
難しいですね。
そんな話も、
今度ちょっと書きたいと思います。
もしよろしければ、
また覗いて頂ければうれしいです。
by fujiki (2008-11-29 13:44) 

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