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「医者の不養生」ということ [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診の整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは、今日の話題です。

昨日に続いて、
ちょっと「風のガーデン」絡みの話題です。

主人公の中井貴一演じる麻酔科医は、
体調が悪いのに自分の検査はまるでしていなくて、
ようやく末期癌の状態となって、
発見されるという筋立てですが、
(ネタばれですけど、いいですよね。
番宣でもあらすじを全部紹介しているような番組なんですから)
専門家の筈なのにこんなことが有り得るのか、
と思われる方がいるかも知れません。

でも、これはそんなものですよね。
医者は大抵自分の検査はあまりしません。

僕が一時所属していた病院の内科は、
糖尿病の診療を1つの柱としていましたが、
そこで僕の10年くらい先輩のN先生は、
糖尿病の合併症、
特に腎臓病の専門でした。
当然患者さんには糖尿病の指導をし、
定期的な検査を受けるように勧め、
合併症が進むことの怖さを、
健康教室などでも講師として説明していました。

ところが…

ある時体調を崩し、
自分のその時勤務していた病院に入院したN先生の血糖は、
食事前で300を超え、血糖コントロールの指標である、
ヘモグロビンA1C という数値は、11を超えていました。

要するに、N先生自身が重症の糖尿病だったのですね。

しかも、目は眼底出血を起こし、
足は神経障害で痺れ、
腎臓の働きも正常の3分の1まで低下していました。

糖尿病の合併症も、ひどく進行した状態だったのです。

こうした合併症は、
糖尿病がある程度以上悪くなってから、
普通10年から15年は経たないと、
出現しない、と言われています。

N先生は10年以上前からかなり悪い糖尿病であったのに、
その間何の治療もせず、
ハードな仕事をこなし、
不規則な生活を送り、
暴飲暴食の上に、結構な量のアルコールも飲んでいました。
そしてその間、1度も血糖の検査さえ、
することはなかったのです。

信じられないかも知れませんが、
多くの医者はこんな具合ですね。

「医者は大抵、自分の専門の病気に、
自分で罹るんだ」と、言われた先輩もいました。
そう思って思い返すと、
意外にそうした例が多いんですね。
前述のN先生もそうですが、
他にも肝臓癌を専門にしていて、
自分は肝硬変で吐血するまで、
自分の肝臓の状態は知らなかった医者もいましたし、
心筋梗塞の治療を専門にしていて、
自分も狭心症の発作に倒れ、
調べてみると、コレステロールの血液の数値が、
正常の3倍を超えていた、なんて例もありました。
その先生は日頃コレステロールを下げることの必要性を、
あちこちで説いて廻っていたのです。

単なる偶然の要素もあると思いますが、
人間というのは仕事と自分とを、
切り離したいという願望のようなものが常にあるんですね。
特に殆ど24時間その仕事の空気の中に、
身を置いていることの多い医者の場合には、
心の中だけでも仕事の専門と自分とを分離しよう、
という思いがある訳です。
そうするとね、
コレステロールの害についてばかり話をしていて、
自分のコレステロールの数値なんて、
測りたくないですよ。
そんなことをすれば、
自分の存在が自分のしている仕事の中に、
含まれてしまうような気分になるでしょ。
無意識にそうなるのが嫌で、
却って検査を避けるのだと、
僕はそんな気がするのです。

何となくお分かり頂けるでしょうか。

最後にもう1つ、僕の印象に残っている例を、
お話します。

僕が一時働いていた、ある総合病院の院長先生は、
患者さんの人望の厚い、感染症科の医師でした。

ある冬のこと、
風邪症状があり、身体のだるさと、
頭の鈍い痛みが数日続きました。
どうやら熱もありそうでしたが、
自分で測ることはしませんでした。
ハードワークが続いていましたが、
休む訳にはいきませんでした。
もし、測って高い熱でもあったら、
気力が萎えてしまいそうな、
そんな気がしたからです。

しかし、一週間経ってもだるさは変わりません。
頭の強張るような重さも続いています。

それで仕方なく、
院長先生は自分の採血をオーダーしました。
白血球の数は20000を超えていました。
重症の感染症が疑われたのです。

即刻入院して検査をしたところ、
診察で首が強張って固いのが、
おかしい、ということになり、
腰椎に針を刺して、髄液を取る検査をすると、
正常は透明な筈の髄液が、
生クリームのようなドロドロの状態で、
出て来たのです。

髄膜炎でした。
それも重症の。
早速治療が始められましたが、
時は既に遅く、院長先生はその5日後に、
亡くなったのです。

もし同じ患者さんを院長先生が診察したら、
即座に入院を決め、
何故もっと早く医者に来なかったのか、
と患者さんに厳しく話をしたことでしょう。

今日は医者の不養生、というものについての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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