SSブログ

続・「せん妄」になる薬 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は朝から健診の整理をして、
それから今PCに向かっています。

昨日はフジテレビに騙されて、
「風のガーデン」を見てしまいました。
中井貴一が麻酔科医で経食道心エコーの名手、
という設定なんですが、
最初にその仕事振りを短いカット割で説明する部分があって、
さすがにうまく出来ていましたね。
よく取材されていて、リアルだし、
人柄と仕事ぶりとを、
同時に説明する手際が巧みです。

ただ、経食道エコーが導入されたのが、
2000年ごろだ、
という説明みたいなセリフがあったのですが、
僕が病院にいた1990年代の前半には、
既に普通にやっていましたから、
その説明はちょっと変だな、と思いました。
まあ、手術中に導入することが、
その頃から始まった、という意味かも知れません。

経食道心エコーと言うのはね、
胃カメラをもうちょっと太くしたような管を、
胃カメラのように口から食道に入れて、
食道の壁を通して、
心臓の状態を見る検査のことです。
食道の後ろ側に丁度心臓があるので、
胸の外側から見るより、
きれいに見えるのです。
特に不整脈があって、心臓が腫れていて、
血の塊が出来ている疑いがある時は、
死角がないので、有用性が高いのです。

麻酔科医でこの検査の名手という設定は、
あまりありそうでない気がするのですが、
多分モデルが誰かいるんでしょうね。
医療に詳しくない人が、
簡単に思い付けるような設定とは思えないからです。
ただ、「経食道心エコーの名手」というのも、
ちょっと不思議な感じで、
正直特に高度な技術を要する検査ではないんですよね、
僕の理解の中では。

それから、中井貴一が自分のお腹にエコーをして、
膵臓癌を診断する場面があるのですが、
僕の眼力不足なのかなあ、
あまり癌の画像のようには見えなかったですね。
膵体部癌ということのようだったんですが、
その割には膵管が拡張していないし…
何てどうでもいいですね。
多分本物の癌の写真を使っているのでしょうが、
僕にはよく分かりませんでした。

今朝は僕も自分でエコーをしてみようかな、
なんて思ったんですが、
そうこうしているうちに時間もなくなりました。
今日は止めます。

ええと、前置きが長くなり過ぎましたね。

それでは、今日の話題です。

昨日に引き続いて、
「せん妄」の話です。

「せん妄」とは何かについては、
昨日のブログをご覧下さい。

特に高齢者では、
安定剤や睡眠剤は、
殆ど全てが「せん妄」を引き起こす可能性があります。

眠ったり、気持ちが落ち着いたりする作用の薬で、
どうして、興奮したり、幻覚を見たりするのか、
不思議に思う方がいるかも知れません。

「せん妄」のメカニズムは、
厳密に言えば分かっていないので、
「分からない」というのが正確な答えなのですが、
敢えて説明すれば、
こんな風になります。

人間の脳の中には、
幻覚を見たり、暴れたりする部分が、
常に存在しているのです。
それでいて、普段意味もなく暴れたり、変なものを見たりしないのは、
人間の心を束ねる部分が、
それを抑え込んで、表に出ないようにしているからです。

安定剤も睡眠剤も、脳の働きを、
ある程度広く抑える薬です。
従って、元々心を束ねる部分の働きが弱かったり、
それが何らかの原因で弱くなっていると、
バランスの問題として、
抑える部分の働きの方が強く抑えられて、
そのために普段は抑えられていた、
無意味に暴力的な衝動や、幻覚を見る働きが、
表に立ってしまうのです。

何となく、分かって頂けたでしょうか。

ここで、関連する1つの実例をお示ししましょう。

患者さんはCさん。
80代の男性で、
20年以上も前から、不眠とイライラに悩み、
心療内科でデパス(一般名エチゾラム)という安定剤の、
0.5mg の錠剤を1日3錠。
それに寝る前にはハルシオン(一般名トリアゾラム)の、
0.25mg の錠剤を1錠飲んでいました。

一般に使う程度の量です。
しかし、年齢を考えると、
ちょっと多過ぎるかも知れません。
心療内科でその薬をもらいながら、
内科で高血圧の薬ももらっていたCさんは、
ある時内科の外来で、
診察中に自分が何処にいるのか分からなくなります。
一緒に来た妻にそのことを指摘されると、
急に興奮して叫び出します。
その様子を見ていた内科の主治医は、
Cさんの妻から普段飲んでいる薬の話を聞き、
ピンときました。
そして、Cさんの妻に、
心療内科の薬を全て中止するように、
指示します。

Cさんが、安定剤と睡眠剤の影響で、
「せん妄」状態になっている、
と判断したのですね。
Cさんの妻は家に帰るとすぐにCさんから、
全ての薬を取り上げました。
Cさんは仕方なくそれに従います。

そして、その2日後のことです。

Cさんは突然全身の痙攣を起こします。
そんなことはかつてないことでした。
救急車で病院に運ばれると、
興奮してあらぬことを叫び出します。

悪い薬は中止した筈なのに、
一体Cさんに何が起こったのでしょうか。

分かりますか?

実は安定剤や睡眠剤による「せん妄」は、
薬が過剰になった時にも起こりますが、
むしろ薬が切れた時の離脱症状として起こることの方が、
多いのです。

内科の主治医は良かれと思い、
薬を中止するように指示したのですが、
それが却って病状を悪化させたのです。
離脱症状としての「せん妄」は、
痙攣を伴うことがよくあるのです。

怖いですね。

では、この場合どうすれば良かったのでしょうか。

Cさんにとって、安定剤が過剰になっていたことは、
事実だったと思われます。
この場合、徐々に減量するのが正解なんですね。
そうすれば、
離脱による症状の悪化は最小限で抑えられるのです。

意外に良くあるのは、
一人暮らしのお年寄りで、
認知症が進み、
自然に断薬してしまうケースです。
病院に行くのを忘れてしまい、
薬を飲まなくなってしまうのです。
それから急に騒ぎ出したりするので、
周りの人は認知症が急に悪くなったのだと思うのですが、
実はそれまでもらっていた安定剤の、
離脱症状だったのですね。

こうしたケースは、
他の病院に入院してしまえば、
もう薬の離脱症状であることは、
永久に分からなくなってしまうのです。

今日はちょっと分かり難い「せん妄」の実例をご紹介しました。

それでは今日はこのくらいで。

今日がみなさんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

nice!(0)  コメント(7)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 7

ぴのぴの

大変参考になりました。
実は87歳の祖母が先月半ばに大腸がんの手術をして、4日前に退院して自宅に戻ってきています。
入院中から痴呆が始まっていましたが、昨日今日と、虫がいないのに「虫がいる」だの「大変な事になっている」などとおかしな事を口にするように…
退院してから、夜眠れないので、病院で処方してもらった入眠剤のマイスリー錠10mgを飲ませていました。この薬の副作用で幻覚症状がでたりしてるのでしょうか?飲ませない方がいいのでしょうか?
by ぴのぴの (2008-10-12 21:31) 

fujiki

ぴのぴの様

コメントありがとうございました。

マイスリーは入眠剤の中では、
幻覚の副作用は比較的多い薬です。
もし夜中だけの幻覚でしたら、
更にその可能性は高くなります。
一概には言えませんが、
ご年齢を考えると、
10mg はやや多めかも知れません。

主治医の先生とご相談の上、
他の睡眠剤に変更して見るのが、
多分一番いいと思います。
もしマイスリーによる幻覚でしたら、
すぐに良くなる筈です。
2,3日飲まれているだけでしたら、
急に止めても、特に離脱症状はないと思います。
ただ、もしある程度の期間毎日飲まれているようでしたら、
まずは半錠(割線が付いているので簡単に割れます)にして、
様子を見るのが無難です。

ご参考になれば幸いです。

石原
by fujiki (2008-10-12 22:09) 

ぴのぴの

早速お答えいただきありがとうございます。
マイスリー剤は入院中から服用しているかは、定かでありませんので、主治医の先生の指示をあおぎたいと思います。
by ぴのぴの (2008-10-13 01:37) 

尚ちゃん先生

4月末に母の低ナトリウム血症でコメントしたものです。その後ナトリウム値改善し5月12日に退院となりました。しかし入院中よりせん妄状態が続いております。以前より服用していた胃腸薬、血圧の薬は中止となりましたが、不眠が続く為マイスリー錠5mgを処方されたようです。(低ナト発症以前より不眠はあり、ネルボンを何年も服用していたそうです。)
入院中より孫(私の子供・中三・15歳)がTVに出ており、世界的に有名なキャスターであり、TVより母に早く良くなってと言っているなど、その他多数妄想的なことを言っていたそうです。自宅に戻ってからも、急に荷物を片付けだし、大事なものも全て捨てようとしたり、付き添いの姉に対し文句を言ったり、発症前と人格が変貌し別人のようです。
睡眠に関しては日中2回2時間ほど睡眠を取り、夜間は2時間おきにトイレで目が覚め、独り言を言いながらまた眠るの繰り返しのようです。この症状はせん妄なのか認知症が発症したのか?全く理解できません。また、せん妄ならば一日も早く戻るように精神科の受診を考えた方がよいでしょうか。姉共々、心身共に疲労困ぱいしております。
by 尚ちゃん先生 (2010-05-20 22:51) 

fujiki

尚ちゃん先生さんへ

お母様ご心配なことと思います。
低ナトリウムの影響が、
まだ続いているとは考え難いと思います。
精神科へのご受診は、
早めにされた方が良いと思います。
原因はどうあれ、興奮されたり、攻撃的な言動があったり、
妄想が見られたりする状態では、
お母様もお辛いと思いますので、
ある程度鎮静的なお薬は、
使用した方が良いのでは、と思います。

矢張りベースに軽い認知症があり、
それが悪化した可能性を一番疑いますが、
安定した環境であれば、
回復される可能性も充分あると思います。

お食事はしっかり摂れていますか?
栄養のアンバランスが、
そうした症状を長引かせることもあるようです。

ご参考になれば幸いです。
by fujiki (2010-05-21 14:36) 

尚ちゃん先生

お忙しい中お返事ありがとうございます。
前回のお礼も言わずまま、冷静さを失い今回コメントしまして申し訳ありません。やはり早めに精神科の受診をしようと思います。
少しでも良くなるように、例え認知症があったとしてもなるべく進行を遅れさせるように、最善を尽くしたいと思います。
食事は中々量が増えないようですが、頑張って食べてもらえるよう、こちらも努力してみます。
本当に毎回的確な分析・アドバイスありがとうございます。
これからも励みにまたブログ拝見させて頂きます。
by 尚ちゃん先生 (2010-05-21 17:00) 

もなか

初めてコメントさせて頂きます。
宜しくお願い致します。

先日、大腸癌手術をした72歳の父が、現在術後4日間ずっとせん妄状態にあります。
症状は日に日に違い、幻覚をずっとみていて大声でずっとノンストップで話続けていたり、モゴモゴと訳の分からないお経の様なものを唱え続けていたり、暴れたりしています。
このまま痴呆になるのではないか…とか、このまま昏睡状態に陥ってしまうのではないか…と、とても心配しています。
こういった幻覚症状の場合、こちら側は話を合わせ、会話をしていれば良いのか、きちんとそうではない!と現実を分からないながらも言い聞かせた方が良いのか、アドバイスを頂けたら幸いです。
by もなか (2012-09-02 01:39) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0