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普通とちょっと違う、うつ病の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は早朝老人ホームへ往診をして、
戻って来てからカルテの整理などしたので、
いつもより遅くなりました。
何とか落ち着いたので、
今PCに向かっています。

さて、今日の話題です。

今日は、普通とちょっと違う、
うつ病の話です。

うつ病で休職をして、
復帰したらまたしばらくして、
同じように休職してしまうケースがありますよね。

僕が産業医をしている企業でもありましたし、
研修会でよく同じような事例の報告があります。
これは、うつ病の再発なんでしょうか。
僕はそうは思いません。

それは何故か、という話です。

最近、フロムの「正気の社会」という本を読みました。
今あまり流行らないタイプの古い本ですね。

その中にこんな話があります。
現代に自殺が増えた原因は何か?

それは「人生には生きる価値があるか?」という考えが、
人間の心に浮かぶようになったからだ、
とフロムは言うのです。

最近ではこの言葉は、もう少し巧妙に、
「人生には生きる意味があるか?」
と言い換えられていますね。

多分、ごく普通に皆さんも、
この言葉を口にしているのではないでしょうか。
「俺は人生に生きる意味があるような気がしないんだ」
とか何とか。

でもね、上の2つの言い方は、昔からある表現ではないのです。
これはね、
人生を利益を生む企業と同じようにみなす、
という考えから生まれてきたものなのです。
つまり、資本主義の考えが広く浸透するようになって、
初めて出て来た概念なんですね。

「人生が失敗だ」というのは、
企業が潰れた、というのと同じ意味です。
従って、「人生に失敗して、挽回の可能性がない」
という判断があると、
もう生きている価値はないので、死を選ぶ、という結果になる訳です。
これは企業が倒産するのと同じ感覚ですね。
「自己破産」なんて、言葉があるでしょ。
あれなんて、典型的な例です。
人間を企業と同一視しているんです。

でもね、人生には幸福はあっても、
成功はないんです。
人生を貸借対照表で計算すれば、
誰でも、失敗です。
何十年か生きれば、必ず死が待っているのですから。
それを、生物ではない企業と、
同じように考える所に、
過ちがあるんですね。

よろしいでしょうか。

何故こんな話をしたかと言いますとね、
うつ病で長く会社を休んでいるような方に、
こういう考えを強く持っている人が多い、
という気がしているからです。

本人は、病気になって会社を休んだことを、
失敗だと思っているんです。
「人生の失敗」
それを、認めたくなくて、
苦しんでいるんです。
これは「人生の失敗」ではなくて、
一時的な敗北ですね。
敗北を認めて、再スタートを切ればいいんです。
でも、普通そうは考えないんですよ。
自分の敗北を認めないで、
それをなかったことにしようとするんです。
完全にリセットして、復帰したいと思うんですね。

休職の期間が終わって、復職になります。
同じ職場の同じ部署に復帰するのが正しい、
とマニュアルには書いてありますよね。
周りの人は、なるべく休職前と同じように、
自然に接するのが正しい、
とこれもマニュアルには書いてありますね。

勿論、それが悪いとは言いません。
でも、こうした対応を取ると、
本人は、周りも自分の敗北を、
なかったことにするのに協力してくれているんだ、
と思うのではないでしょうか。
長く勤めていた人の場合、
その考えは、以前の自分の仕事振りを、
現実以上に高く評価してくれていたんだ、
という幻想に繋がります。
そしてこの考えは、本人の会社への依存を強めます。

本人の心の中で肥大した、
以前の自分のイメージ、
これはスーパーサラリーマンみたいな、
非現実的なものになります。
そして、それに戻ろうと、本人は頑張って仕事をする訳ですが、
現実にはそんなに仕事は出来ません。
本人は自分がなろうとする自分と、
現実の自分とのギャップに苦しみます。

そして、同僚や上司のちょっとした一言から、
自分がスーパーサラリーマンだった、
という幻想が破られそうになると、
再び会社に行くことが困難になり、
再度休職するケースが多いのです。

何が悪かったのでしょうか?

僕はね、こう思うんです。

これはうつ病の再発とは違うんです。
本人が人生をリセットしようという思いに拘って、
自分が1度負けた、と言う事実を、
受け止められていないんです。
本人に必要なことは、
それを受け止めるということなんですよ。
苦しいことですけどね。
それが出来なければ、何度でも同じことが繰り返されます。

でも、うつ病のマニュアルには、
「頑張って、敗北を認めろ」なんて、
絶対に書いていないでしょ。
「頑張るな。大事なことは決めるな、考えるな」と書いてあるでしょ。
勿論うつ症状の悪い時期はそれが正解でしょう。
でも、いざ復帰となった時に、
それでいい訳はないんです。
復帰の時には、
自分を変えられる状態でなければいけないんです。
自分の敗北を受け入れて、
新しいスタートラインに立つという覚悟がね。
そのことについては、うつのマニュアルには何も書いてないんです。

これじゃ、治るものも治らない、
と僕は思うんですが、
皆さんはどうお考えになりますか?

今日は普通書いてあることとは、
ちょっと違う、うつ病の話でした。

病気で悩んでいる誰かにとって、
少しでも参考になればいいのですが。
分かり難かったでしょうか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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